#読書感想文
エッセイ 空に橋を架ける(「架空線」ほか感想)
私は仕事で起業者などのお話を聞くことがあります。起業をなさる方なので、事業のための夢や希望があるわけで、「いいじゃん」とか、「やっちゃいなよ!」という受け答えを当然期待しているだろうな、と思います。
あまり親しくない知人にそういうお話を伺うなら、それもいいんです。私もそうしたい。その方が相手も喜びますし、自分も楽です。でも、仕事でやっておりますので、そうもいかないことがあります。「売上目標は
エッセイ 歩くことは信じること(「みちのく潮風トレイル記 潮風ふわり」ほか感想)
昨年の12月に文学フリマ東京にお邪魔した際、少し早くに東京駅まで行って開場までの時間で東京ステーションギャラリーで開催中だった「みちのくいとしい仏たち」展をみてきました。東北地方に残る民間仏の美術展です。
観光で行くような由緒正しいお寺にある立派な仏師が作った立派な仏ではなく、地方の村で大工さんが作ったりした仏像の展覧会で、タイトルがいいなあと思って気になっていました。(下は展覧会のリンクで
エッセイ 踏みしめるのは自分の足で(『未踏』ほか 感想)
漫画「大白小蟹短編集 うみべのストーブ」を読んだ。大学卒業後、小説を書かなく(書けなく)なった女性を描いた「海の底から」に感じるところがあった。
忘年会の集まりで、大学の友人たち二人がフリーライターやフリーターをしながら、歌集を出したり、文学賞の最終候補に残ったりしている近況を聞きながら、『仕事を一生懸命やっている』という評価の主人公(桃)は二人にこう言われる。
自分についてになってしま
悲しみの乾いた器(「ドミトリーともきんす」ほか感想)
科学の本をたまに読む。「科学者の書いた本」といった方が正確かもしれない。わたしは装飾的な表現や感情的な文章が少し苦手で、どうにもそういうものは入らないけれど、何か読みたい、というような時にエッセイなんかをつまみ読みする。
高野文子/著「ドミトリーともきんす」を読んだ。朝永振一郎、牧野冨太郎、中谷宇吉郎、湯川秀樹ら科学者のエッセイを「ともきんす」という寮に彼らが住んでいる、という設定にして、寮
エッセイ きつねの白銅貨
新美南吉記念館に行って来ました。小説家、新美南吉の生家の近く建てられた記念館です。「ごんぎつね」が一番有名だと思います。私は確か小学生の頃、国語の教科書で読みました。
最後のシーンです。「ごん」と呼ばれるいたずら者のきつねがある日その一環で網にかかったうなぎを逃してしまいます。ところがそれは兵十という若者が老いた母親のためにとろうとしたうなぎでした。兵十の母親はうなぎを食べずに亡くなり、母親
エッセイ 「正直」な人【山本伸子「fumbling」ほか感想】
私は日中、どちらかというとサービス業に従事していて、顧客や関係業社と話をする機会が多い。勤め出して20年近くになる。けれどいまだに対人対応が不得手である。
接客が苦手、というよりそもそも人との対話が苦手なのだと思う。「裏表」とよく言ったりするけど、私はこれを認識するのが昔から著しく下手だ。
「今度、食事に行きましょう」から「よろしく言っといて」まで全部忘れないように手帳に書いてしまう。他人に話
エッセイ インディアナ、インディアナ、インディアナ【レアード・ハント「インディアナ、インディアナ」感想】
高校生の頃THE BLUE HEARTSが好きだった。姉のCDを聞いて知ったアーティストだったのでクラスで話題になったりということもなく、私の鼻歌をたまたま聞いてくいついてきた友人(彼女も兄のCDで知ったそうだ)ただひとりが同好の士だった。
お互い話す人もいないから休みの時間はTHE BLUE HEARTSのことばかり、歌詞がどうとかライブがどうとか話すのではない。どちらかが歌い始めて、もう片
エッセイ 「ジョンビ」のいる第二世界
最近、埼玉にある本屋さん「つまずく本屋ホォル」さんの「定期便」をとってみています。毎月一冊、店の方が選んだ本が小さな紹介文つきで届くしくみです。ベストセラーや話題の本ではなく、あまり知らない、ちょっと癖のある本が届くのかな、と思っています。何がくるかわからないドキドキもウリなのかな…(実際、とても楽しみでもあります)と思っていましたが、お店の方にひそかに言う分にはかまいませんよとおっしゃってもら
もっとみるエッセイ ごくありふれた あなたとわたし(小川洋子「遠慮深いうたた寝」感想文)
お話の中の登場人物が「あなた」と「わたし」だけで済むのなら、それで済ませてしまいたい。
別に怠けているわけじゃない。名前が沢山提示される物語がちょっと苦手なのだ。誰が誰だか分からなくなる。
それはけして物語のせいではなく、自分の脳みその問題だと思う。
会話するときは、だいたい2人。いいところ3人。つまり、「あなた」と「わたし」と「あのひと」で。それより多い時はほぼその場の全員を把握しきれ
エッセイ 居眠り姫 (尹雄大「親指が行方不明」感想)
高校生の頃、友人に「居眠り姫」というあだ名をつけられた。残念ながら、あだ名として意味を持っていたのは『姫』ではなく『居眠り』の方だ。つけたのは他の高校の友人だ。(その頃私は演劇部にいて、他の高校の部活と大会の共同運営などをしていた。)なんで私が居眠りしがちと知っているんだ、と非常に驚いた。
大学生になって、同じ専門課程の友人ができた。体の弱い女性だった。親しくなってあれこれ話すうち、「私とあ