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ブル・マスケライト《仮面の血筋》100ページ小説No.10


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前回までのあらすじ…

担任の水口先生が何ものかに仮面を外され主人公のたちばなは仮面を外すすべを無くしてしまう。
家に帰ると母から1本のDVDを見せられる。そこで父の思いを知りこの仮面の世界を無くすという使命感が芽生え始めていた…
「やめろ!追ってくるな!くそーやばい捕まった…。ここは一体…仮面の奴が近づいてくる。来るな!来るな!来るなーーー!!!ペロペロ、ペロペロ」
「うわっっっ!!て何だジョンかー。びっくりした!」
僕の右頬をジョンが舐めて起こしに来た。どうやら夢だったようだ。
「ワン!ワン!」
 「金曜日、今日は水口先生が迎えに来る。前みたいに来れないなんて事が無いといいが…。一応は早めに準備しとこう。ジョンに早く起こされたし」
「ジョン!はらぺこで起こしに来たんだろ?エサあげるからおいで」
「ワン!」
ジョンを抱っこして一階へ降り最初に餌の準備をしする。朝から仮面のジョンがエサを食べてる光景だがまぁそのうちに慣れるだろうと少し俯瞰して見ている自分がいた。
「そういえば明日は栗原ん家に行くんだった。栗原も何かペット飼ってたりして。もし飼ってたらペットが仮面で僕だけ驚くのも嫌だからあらかじめ今日聞いとくか」
携帯を手にメールをしている間、不意に昨日の父の話を思い出した。
「父は『血筋が仮面を終わらせる唯一の方法』って言っていた。どう言う意味だろう?今ならまだ母も起きてないし…」
メールを途中でやめ、普段絶対に入るなと父に言われてた書斎を一度調べてみる事にした。
 父の書斎は2階で8畳ありドアを開けるとまず奥に天井まである大きい書棚が目に入る。その右横には濃い色をした木目調の机がある。L字で壁と一体型の机。きっと家を建てた時に設計したのだろう。僕がここに入ったのは小学校の時以来だ。あの時は書棚がもっと大きく感じたのを思い出しながら近づいた。百冊はあるだろう本の中で僕は仮面に関する言葉のタイトルを探したが見当たらなかった。ほとんどが参考書で小説などは見当たらない。とりあえず古そうな本から手に取ってみた。
 最初に取った参考書はイタリアの中世ヨーロッパ時代の本だった。もしかしてと思い他のを手に取ってみると日本語ではない言葉で書かれたヨーロッパの本ばかりだった。そう、ここの書棚のほとんどが「仮面」に関する本で父はずっと前から調べていたようだ。その中には「都武」の本もいくつかある。とりあえず今日は本棚をやめて机を調べることにした。机の上にはペン立てしか無く几帳面な父の性格が一目で分かる。L字の机には3つ引き出しが有り1つは「鍵穴」のある引き出しだ。当然開かないだろうと思いながら開けると無用心にも開いてしまう。そしてそこにはお菓子の缶の様な容器があった。サイズはそんなに大きくない。筆箱が2つ入るくらいだ。ここまで開けてこれを見ない訳は無い。手に取りそのフタを開けると一つの古い「白色の封筒」が出てきた。僕は直感で「大事な物」だと分かった。
「お父さんごめん。見るよ」
そう言ってから封筒の中身を取り出すと中には綺麗に3つに織られている一枚の手紙が入っていた。僕は罪悪感と共にゆっくりと広げて読んだ…


20年後の10月31日…
4つのカルテットが音を奏で
赤い仮面が空一面を覆いアナタを新世界へといざなうの…
そして私たちの世界へ移行する…
その刻私は音を届けるから…
アナタは赤を終わらし血筋が継ぐ…
そこが本当の始まり…
そこまでは外す事は出来ない…
私たちはお役目だもの…
                      都のぞみ

 これって……予言か?
しかも書いたのはいなくなった「都のぞみ」…
アナタって父に宛てたもの?となるときっと血筋は僕のことだろう。何を継ぐんだ?とりあえず手紙を封筒へ戻し一度元へ戻そうと缶の入れ物に手をかけようとしたがためらった。
 父からはまだいつ帰るのかは聞いてない。しかし直ぐに帰る事はないだろうと思い僕はこっそり学校へ持って行くことにした。この手紙を先生達に見せて意見を聞くのがきっとベストだ。もしかして何か知っているのかも。
 僕は父の書斎を後にし1階のリビングへ戻った。頭の中はまだ手紙の事でいっぱいだった。
「20年後っていつなんだ?もしかして今年のハロウィン?さすがに考えすぎか…」
「あ、おはよう。あんた今日早いね!」
母が起きてきた。
「そういえば母もこの事を知ってるんじゃ?」
でも母に聞いて知らないとなると勝手に父の部屋から盗んで見たとか言われてまたややこしくなりそうだから今日は聞くのをやめておいた。
「母さん、今日の朝食ご飯にして。それとベーコンとウインナーも焼いて欲しい」
「珍しいねーご飯なんて。いいけどベーコンまだあったかしら?」
そう言いながら冷蔵庫を除いてる。いつもは朝食後に着替えるが、母さんがこっちを見る前に着替えて手紙を制服の内ポケットに入れた。
「あったわ、ベーコン!あんたラッキーねぇ。ところでなんでもう着替えてるの?」
「今日、水口先生が迎えに来るから」
「あらそうなの?じゃあわたしも挨拶しなきゃね」
母さんは迎えに来ることに全く不思議さを感じてないようだ。この鈍感さが逆に仮面生活を忘れさせてくれる母の良いところだ。きっと父にも必要以上に心配してこなかったから自然な生活が出来たんだろうと今さらながら気がつく。
「はい、ご飯とベーコン」
「あれウインナーは?」
「ウインナーもなんて言ってないでしょ…あっ、そう言えば言ってたね。今思い出したわ。あんたは今のうちにジョンのエサあげといて」
そういうとまたキッチンに戻って行った。
「もうジョンにあげたからー」
そう言うと僕はウインナーを待つ前に食べ出す。家ではだいぶ仮面なんて気にならなくなっていた。いつもの朝のルーティンと共に。
「はい、ウインナー。ちょっとわたし洗濯物してるから先生が来たら教えてよ」
「はいよー」
しかし水口先生ってモテるんだな。今は短髪青ヒゲだけど。もしかして昔からマッチョだったりして。そうじゃなきゃいきなりあんな骨格までゴツくなれないし。昔の先生を想像してたら急に昨日の先生の話を思い出した。
そう言えば一つ不思議なのは先生達は「5人が同時に仮面が見えた」って事だ。僕達は4人同時で始まり、マスケラの招待状にも上流を中心に3人選ばれると書いてあった…。ここにもきっと何か深い理由がありそうだ。でも敢えて僕達に教えてないってことはもしかして先生達は何か知ってるのか?
「ピーンポーン」
考えごとをしてる間に予定よりだいぶ早く先生が来た。
「母さんー先生きたよー」
「はいはい、すぐいきます」
僕も急いでウインナーを口に入れ、インターフォンを見た。間違いなく水口先生だ。
「はい、先生。モグモグ、直ぐ行きます」
先に制服に着替えたのは正解だった。僕は玄関のカバンを手に取ってから靴を履き、ドアを開けた。
「おはようたちばな!まだ飯の最中だったか?」
「いやちょうど食べ終わったんで大丈夫です」
急いで口の中のウインナーを飲み込むと母が後から玄関に来た。
「あら水口先生。迎えに来てもらってすみません。いつも息子がお世話になります」
「あっ、お母さん。お久しぶりです。水口剛です。実は一昨日仮面が取れまして、久しぶりに景子さん…いやお母さんの顔を拝見できました。ほんとお久しぶりですね」
先生は懐かしそうな顔で母を見ている。
「エッ!待ってヤダ!私の顔見えてるって事?先生だから化粧もしなくていいと思って何もしてなかったわ!どうしよう、すっぴんよー恥ずかしい」
どうやら先生が仮面に見えてる事を母は「利用」してたようだ。それで5月の家庭訪問のときも母がいつもより化粧が薄かったんだと理由が分かった。
「あっすみません、こちらも急に来てしまって。また後日にでも久しぶりに同級生同士集まりましょう!それでは失礼します。たちばな、行くぞ」
「あ、はい。お気をつけて。いってらっしゃい」
先生は軽く会釈をして僕と先生は車に向かった。
 今日の空は曇りで所々に晴れ間がある程度だった。風は上空だけで昨日よりは寒くない。空を見た流れで一応辺りを見渡し昨日の黒い車が無いかを確認する。どうやら大丈夫のようだ。安心して先生の助手席に乗り込むと椅子には昨日の稲穂のかけらが乗ったままあったので払い落としてから座る。
「悪いな、まだ掃除してないんだ。俺、まだ朝飯食ってないからコンビニに寄るぞ」
そう言うと通学路から少し外れた大通りに出る。うちの近くの田舎道にはコンビニはもちろんスーパーすら無いからだ。車の中はどこかで聞いたことのある様なオーケストラ的な壮大なBGMが流れていた…
「先生これ…何の曲?」
「おお、これはオペラの『フリクリ・フリクラ』って曲だ。先生は朝からこの曲を聴きながら学校へ行くのが日課なんだ」
「…中々の音楽のクセですね、オペラって」
「バカいえっ、お前もテンションが上がるだろ?朝オペラは目覚めに効果的な刺激を与えてくれるんだ!もちろん頭も良くなれるぞw」
「…そうですか…」
先生の結婚出来ないもう一つの理由が少し垣間見えた気がした。 

 大通りに出て5分以上走ると車はやっとコンビニの駐車場に着いた。
「ちょっと待っててくれ」
そう言いながら先生はコンビニへ向かった。先生は一人暮らしだからきっといつもの朝のコースなんだろう。そう思いながら車から景色を見ていた。ここは世間でいう町程ではないが住宅街も近くにあることでそれなりに栄えてる。近くにはファミレスやカラオケ、最近では当たり前になったドライブスルーの出来る有名なコーヒー店も今年に出来たので学校の奴らの溜まり場だ。先生が行ってから3分くらい経ち出した頃一台の車が僕達の右側の横に停めてきた。黒の車だ!
「やばい!!!!」
僕は座席を倒しながら直ぐに仰向けになり視界から隠れた。背筋に緊張が走る。仮面だけは見られたらまずと思い両手で顔を隠し左側を向いて静かにしていた。何十秒か待った後、隣から音がしだした。
「ガチャツ、バタン!」
勢いよく車のドアを閉める音に身体が自然と反応する。それと同時に足音が聞こえ近づいて来た。
「通り過ぎろ通り過ぎろ」
僕は念仏を唱えたが残念ながら効かなかった。運転席の前で足音が止まり僕を眺めているようだ。でもまだ仮面に気づかれたとは限らない。震えながら両手で顔を押さえ両足を顔に近づけダンゴムシのように全身を小さく丸めた。
「ガチャッ!」
勢いよく車のドアを開けられその音に反応して僕は声上げていた。
「うわああー!」
「何してんだ?さっきから?」
両手の隙間から見ると先生だった。
「先生!直ぐに閉めて走らせて!例のあの車が隣に!!」
「!!!」
そう言うと先生は慌ててエンジンをかけ車をバックさせた。
「ギュイイイン!」
駐車場中にタイヤのグリップ音が響き渡ったかと思うとその勢いで丸まってた僕の身体は勢いよくほどけ同時に頭をドアにぶつけた。その時、何故か急に車が止まる。何事かと先生をみるとハンドルを握りしめたままその車を観て固まっていた。しばらく沈黙が続いた後、先生が口を開いた。
「オイ…どう見てもあの車、違わないか?」
その言葉に勢いよく飛び起きた僕は衝撃を受ける事となる…
その車は左半分が黒で右半分が青色だった。そう、完全な勘違い。僕と先生は目を合わせ先生は静かに左手でシフトレバーをドライブに入れ、シートベルトをすると何事もなかったかのようにコンビニの駐車場を後にした…
「「クスッ…ハハ…ハハハハー!」」
二人で笑った。僕はようやく頭の痛みに気が付き左手でさすりながら言った。
「いてててて。流石に勘違いのようでした」
「面白かったぞ!たちばなのリアクション!お前ハリウッド張りの白身の演技だった!これで将来の進路は俳優で決まりだな!」
「やめて下さい。演技じゃないですからー。それにたんこぶもできましたし…」
「いいぞ!今日は久々に面白い朝だ!」
そう言いながら先生はサンドイッチを片手に学校へ向かった…

 学校に着いた時間はだいぶ早く下駄箱にはほとんど靴が入って無かった。しかし自分のクラスの下駄箱にはひとつだけ靴があった。栗原のだ。だいぶ早いなと思いながら足早に教室に向かった。教室の前に着くと栗原の声ともう一人誰かの声がした。気にはなったが盗み聞きするのは悪いと思い、堂々と教室へ入った。
「ガラガラ」
その音に反応して二人は振り向いた。栗原は僕の顔を見て驚いてる様子だ。しかももう一人は福良先生だった。
「おはようございます、先生。朝早くから何かあったんですか?」
その言葉に反応するように栗原はうつむいた。
「おはようございます。いえ、たまたま栗原さんを見つけたので教室でお話ししてたところです」
何かここに僕がいる事が場違いのような雰囲気だ。僕はそのまま自分の席にカバンを置き、直ぐに教室を出てトイレに向かった。さっきまで話をしてた二人は僕が教室を出るまで無言のままだった。
「何の話をしてたんだろう?そういえば栗原は例の本を家に持ち帰るって言ってたからきっとその内容でも聞いてたんだろう。でもそうなら逆に僕にも話をしないか?それか僕に言いにくい本の内容が書いてあるったとか?たとえそうなら水口先生がみんなで読んでみてくれなんて言わないだろうし…。何の話だ?栗原のあの反応…気になってきた…」
僕はまたすぐに教室に戻った。しかしもう福良先生はいなかった。
「あれ?福良先生は?」
僕が栗原に尋ねるともう戻っていた。自分が思っていたほどの大した話な訳ではなさそう。そういえば先生に見てもらおうと家から手紙を持ってきていたのを思い出した。
「なぁ栗原、ちょっと見て欲しいものがあるんだけど…」
そう言って手紙を取り出し栗原の机の上に置いた。栗原は不思議そうに折り畳まれた手紙を広げて読み始めた。

20年後の10月31日…
4つのカルテットが音を奏で
赤い仮面が空一面を覆いアナタを新世界へといざなうの…
そして私たちの世界へ移行する…
その刻私は音を届けるから…
アナタは赤を終わらし血筋が継ぐ…
そこが本当の始まり…
そこまでは外す事は出来ない…
私たちはお役目だもの…
                      都のぞみ

しばらくすると右手で口を押さえ目を丸くしたまま僕の方を振り返った。
「これって…予言的なものですか?しかも都しずくって…」
「そうなんだよ。この手紙が俺の父さんの机にあったんだ。どうも違和感を感じてつい家から持ち出してきたんだ。これを読んで栗原はどう思う?」
「うーん…」
直ぐに返事が返って来なかった。慎重に言葉り選んでるのかそれとも大事な手紙を持ち出してきた事に不快を感じているのか栗原は口を押さえたままで、その表情を見ても読み取れなかった。そのまま沈黙が続きそうだったのでたまらず僕から話し出す。
「予言の手紙を見せられたら怖いだけだよな。でもここから仮面の情報が隠されてないかを知りたくて…栗原的に何か感じることはないか?」
そう言うと何故か栗原の目からは涙が溢れていた。予想もしてないその反応が全く理解できない僕は驚き声をかける。
「大丈夫か、栗原?どうした?何があったんだ?」
「…いいえ、なにも…」
栗原はそういうとそのまま手紙を折り畳み掛けてたメガネと一緒に机に置くとポケットからハンカチを取り出し涙を拭いた。その様子にこれ以上どうしていいのか分からない僕は頭を掻きながら言った。
「何か…ごめんな…泣かせて…」
状況が全く読めてないが泣かせてしまった事に謝った。
「わたしこそごめんなさい。急に泣き出して…」
そう言いながら胸に手を当て一生懸命に落ち着かせてるようだ。しばらくしてようやく僕の求めていた返事を返してくれた。
「あくまで予想ですけど、この手紙は都のぞみが書いた予言で間違いないと思うの。きっと仮面との深い繋がりがここに隠されている。それを都のぞみが知ってるんじゃないかな?20年後ってハッキリ伝えてきてるし何よりこの『赤い仮面が空一面を覆いアナタを新世界へといざなう』なんて言う言葉とか…なんだか恐ろしいです」
さっきとはまるで違い、急に話し出す栗原に戸惑いながらも僕は話を聞き続けた。
「しかも『私たちは外す事は出来ない』って。そうとなると渡した相手が仮にたちばな君のお父さんならもしかしてお父さんも仮面を外せないのかも…」
「…その可能性は高いな…」
「となると都しずくさん、ただ仮面が外せれなくて急にいなくなった訳じゃない可能性があります。きっとこれはあの5人にとても深い人間模様が隠されているはず…。直接この手紙を先生達に見せるのはまだやめた方がいいんじゃないかな?私たちもこのことはあまり喋らないほうがいい気がするの。何となくだけど」
「確かに。自分が見てしまったことが問題なのかも」
「でもどうしよう…そうだ、わたしこっそり福良先生に聞いてみる!当時の話を。そうすれば何か分かるかも」
「そうだね。手紙の話しじゃなくて当時の5人のことを深く知った方が今はいい。じゃあよろしく頼むよ。とりあえずこの手紙の話は誰にも知らせない方向でいこう」
「私も何となくその方がいい気がする。こっちは任せて。ついでに福良先生の恋バナも聞けちゃうかも?」
さっきまで泣いてた事も忘れてなんだか栗原は楽しそうだ。とりあえず手紙の件は置いといて持ち出したのが見つかる前に父の机に直ぐに戻そうと思った。
「そういえば例の本読んだ?今日また昼に図書室で集まらないか?その時に本の内容も教えてくれると助かる」
「うん。昨日ひと通り読んだから後で教えるね」
少しでも仮面について知り安心感を得たい僕にとって今栗原はありがたい存在だ。
 気がつくと教室には少しずつ人が入って来ていた。僕は栗原と話すのをやめ自分の席に座り4人に一斉メールを打った。直ぐに栗原だけが[OK]の返事を返してきてくれた。
 それにしてもほんと毎日が目まぐるしい。暇でしょうがなかった今までとの落差が激しすぎて常に気が狂いそう。いま顔が見れるのは自分が外した栗原とブッダのみで教室に入ってくるのは仮面だらけ。自然と目線が落ちてしまう。肘をつき朝日が机の上の携帯をさしているのに気がつくと窓の外で飛んでいるカラスを見つけた。
「黒…カラスか…」
水口先生とのコンビニでのやり取りが一緒に頭に浮かび、自分がいかに情緒不安定だったかを改めて気が付きあまり過剰な思い込みをし過ぎるなと自分に言い聞かせた。
「おはよう!」
あわナミが隣に来た。僕は向きを変え手に持っていた携帯を指さし、ジェスチャーでメールを見ろと訴えた。直ぐに気が付き携帯を取り出す。あわナミは読み終えると「いいよ」と言いカバンを机に掛けた。返信せずに直接言うのかよと思いながらも僕はあわナミの仮面を眺めてた。
「おっす!たちばな、あわナミ!」
デカイ声に振り向くとブッダがいた。直ぐにあわナミが持っていた携帯を指さし僕の真似をするようにジェスチャーでブッダに訴えだす。しかし勘の悪いブッダは全く分かっていない。
「なんだよあわナミ、携帯カバーでも変えたのか?」
一度鼻で笑うとあわナミはもう一度携帯を強く人差し指で3回叩いた。
「だから携帯が何だよー?」
「何でまだ分からないのよ、この黒豆ねぶた祭りが!メール見ろってことよ。分かるでしょ普通」
ブッダより大きい声であわナミは言い返した。あわててポケットから携帯を取り出してブッダがメールを見ると納得したように言った。
「オッケーだぜ!」
そう言いながら親指を僕に立てる。お前も口で言うのかと思った。

 あわナミとブッダと話していたら気がつくと朝のチャイムが鳴り、いつものように水口先生が来た。もう目で見えているだけの世界ではない事を知った僕は学校ではあまり恐れないように仮面と目が合ってもその奥の人を想像できる様になり始め、出会う前の日常に心が戻りつつあるとさえ感じてきた。
 しかし僕が仮面に出会ってから日々何かが起きている。知らなかった父達の過去や友人の様々な悩み、その中で信頼できる仲間が増えこうやって集まってくれる。仮面が見えている限りさらに悩み苦しむ他の人とも関わることは増え続けるだろうが仲間のおかげで大丈夫とさえ思えるようになった。とりあえず今日は水口先生から渡された都武の本を調査だ。きっとそこに手掛かりがあるはず。僕は昼休みを待った。

 昼休みになると4人は教室を出て直ぐに図書室へ向かった。階段を降りながらブッダが喋り出す。
「栗原、本どうだった?やっぱり難し話かー?」
「うん。私も頑張って説明するけどちょっと覚悟しといて欲しいかも」
「マジかー。でもメモ用紙だけは用意してるぜ!」
一応ブッダもやる気のようだ。
一階に着くと下駄箱と反対の廊下へ進み食堂の前を通るとその突き当たりが図書室だ。うちの学校では食堂が混まないように学年ごと10分ずつ時間がずれている。 僕達が食堂の前を通り始めた時、ちょうど一個上の先輩達がぞろぞろと食堂から出てきた。
「あれ?昨日の子じゃない?なんだっけ?あ、そうそうたちばな君だよね?」
昨日3階に行った時に話しかけてきた二人だ。気まずそうにしていると代わりにブッダが勢いよく喋り出した。
「こんにちは、お姉さま達。僕達は今から図書室へ行ってお勉強をしてまいります。残念ながら今日は忙しいのでまた遊んで下さーい!」
「「あははは!」」
「そうね。また遊びましょう、二人とも彼女いたんだねー。勉強頑張って、じゃあ」
そう言うと二人は手を振って行ってしまった。ブッダは手を振りながらまだニヤニヤしている。当然あわナミが釘を刺す。
「誰あのお姉さまたち?どういう関係?」
「昨日出会ったお姉たま達ですー」
「バカっブッダこれ以上あおるな!」
もちろん、もう遅かった。すでに栗原も軽蔑な目でこっちを見ている。
「あーそう言うことね。昨日は調査と偽って二人はナンパ目的で行ってたのね。だから私達を置いてったんだー。こっちは心配して協力してあげてるのにいい度胸ね。ああいう人が趣味なんだって栗ちゃん。スカートは短いし肌は小麦色でそりゃ私達なんかより魅力的よねー。このドスケベカリフォルニアロールとムッツリエスカルゴイソギンチャクが!もういいわ行きましょ!」
いつものように二人は先に歩いて行った…。
「たちばな…お前がエスカルゴの方だかんな」
ブッダが無意味な争いを僕に仕掛けてきたが当然何も言わずに交わし前を歩いた。
 図書室に入ると何度来ても静かで異様な雰囲気。しかしそのおかげでさっきまでのやり取りはみんな忘れていた。栗原とあわナミはいつもの席の様に座り出した。そこへ僕達も向かい合い座った。図書室にいる栗原はまるで別人みたいに真剣な眼差しへと変化しカバンから例の本を取り出す。僕達に目をやると直ぐに説明しだした。

 「いーい?では始めます。この本は今から40年前に書かれた本でこの作者「都武」が書いた10作品目の本なの。そしてそれは「都のぞみ」が生まれる2年前でもある」
「10作品目?じゃあその内容は何が書かれているんだ?」
「簡単に説明するね。都武は科学者といっても宇宙光学や量子力学の研究をしながら人の思考回路、つまり脳科学の研究もしてみたい。そしてこの本は人の思考から作り出すものと現在まで自然が作り出してきたものとの整合性を記してあり、『実際起きている事と未来との繋がりを脳内の電磁波の動きによって証明した』と書いてある」
「「「…」」」
もうすでに何も分からない。凄い人なんだろうくらいしか。よく栗原は説明できるなと思った。横のブッダを見るとメモ用紙に何も書いてないどころかボールペンを置いている。あわナミは僕たち2人の様子を見てるだけっぽいし。とりあえず質問した。
「それで都のぞみとの何か繋がりや関係とかが書いてないのか?」
「都のぞみさんのことは一切無かった。そして情報らしいことも。でも内容がちょっと気になったの…」
「どんな内容?」
「ここを見て」
「-未来を思い通りにする思考。現在起きている現実は誰かの思考と自分の思考の結果であり今見えているのは単なる未来を作り出す「ヒント」でしかない-と書いてある。そしてここからなの…。-脳は目で見てるものが現実の90%以上を締め左脳で理解し右脳に影響を与え続けている。つまり目に映すものを変えれば人は簡単に未来を変えられる。そして右脳にはまだ形のないものを具現化する働きがありそれは「宇宙」とも繋がっている。だから私たちはここ地球にいる事を選択し続けれているのだ。そして我々はその証明を実際に具現化してみることにした-]

「うーん、何か凄いことが書いてあるのは分かったけどこの文の何が気になったの?」
あわナミが言った。
「問題はこの文の後よ。この文でちょうど隣のページに移るんだけど、少し内容が飛んでるの。つまり、次のページが抜き取られてるの!」
「「「!!!」」」
僕は本を手に取りページとページの間を広げた。そこは確かにカッターで切り取られた跡がある。
「誰かが抜き取ったってこと?」
「そう。あと、この本はページ番号も無いしバーコードも無い。調べてもどうも出版されてない本のようだった」
「出版されてない?でもさっき10作品目だって栗原言ってたよな?」
「それはネットで熱狂的なファンのサイトで調べたら書いてあった。『幻の10作品目』がどこかにあるって。この本がその幻の本なのは確実。最後に日にちだけは載ってたから作品の年号と照らし合わせてもこの年に書いたのはこの本だけ」
「じゃあ抜き取ったのは都のぞみってこと?」
「おそらく…」
栗原が言った。その横であわナミが仮面のアゴに手を当てて静かに話し出した。
「これ…逆に都のぞみじゃなかったとしたらやばい事だよ…。たちばなの前で言いにくいけど、都のぞみがいなくなった後にこの本の何かに気づいて切り取られたとしたら、その人以外の4人の誰かってことになる…」
「「「!!!」」」
3人は目を丸くした。僕は父や母にも可能性がと思い複雑な思いになっていると直ぐにあわナミが自分でフォローした。
「もちろん都武本人が抜き取ったって可能性もあるし書かれていた内容だって分からないから…何か…ごめん」
「いや、いいんだ俺のことは気にしなくて。でも「具現化」してみたの後って事は何か現実で創り出そうとしたことが書いてあったんだろうな」
「そう。そして私が一番引っかかった言葉は『目に映すものを変えれば現実は変えられる』って文。もしかして考えすぎかも知れないけど…切り取られた部分って…」

「「「「『おそらく『仮面』の具現化だ!』」」」

「つまり都武が仮面を想像し具現化した諜報人でその最初が娘の「都のぞみ」。その都のぞみを中心に4人選ばれた。それなら都のぞみだけは名前を呼んでも外せれない何か理由があるのも考えられる。父達や僕らは都武が創り出した創造の被害者でしかない。しかもきっと父は気付いて都武の研究所へ行ってるのだろう」
「とんでもないな。娘を仮面の被害者にするなんて…」
ブッダが怒りながら言った。
「ええ、とんでもない。そしてそれを知ってた上で悪用しようとしてる組織もあるってことよこれは…水口先生が仮面を外されたときの組織。事実、私達を追って来たし…」
あわナミが言った。
あくまでまだ僕達の予想に過ぎないが4人は意見が一致し腑に落ちたように感じた。
「ここまで来たら絶対この仮面を終わらせないといけない。絶対だ!」
4人が決意した。
 ここから4人はさらにまとまって解決の糸口へと進んで行く、そう僕は思っていた…。
しかし簡単に未来は良い方向にはいかなかった。
それどころかここから4人はお互いを絡めあい複雑にさせていくこととなる…。
ブル・マスケライト《仮面の血筋》 

NO.1~NO.10 終わり

続編 NO.10~  《安和ナミの目線》


最後まで読んで頂きありがとうございました😭

お話しはまだ続きますが、

この後は主人公たちばなの目線ではなく

『安和ナミの目線』で物語を書きました。

お楽しみに…🌈


いかがでしたでしょうか❓❓✨


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