羽矢歌

禍話(https://wikiwiki.jp/magabanasi/)のリライトなど。 記事の無断での二次使用(朗読・転載等)を禁じます。

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最近の記事

禍話リライト『火車』(怪談手帳より)

「通夜の席でね、棺から音がするんだよ」 Aさんはかつて住んでいた町で噂されていたという怪異について語ってくれた。 「いやそんな大きい音じゃないんだけどね。内側からこうゴッ、ゴッって叩いたり、モゾモゾゴソゴソって身動きするような音がしたりね」 町で死者が出るとそういうことがしばしばあり、そして。 「そういうときには裏口――表と逆にある出入口だね、それを見に行けって」 そうすると裏口から出たところで、必ず見える範囲に猫がいるのだという。 「絶対どっかに気持ち悪い猫がいる。要する

    • 禍話リライト『弟の亀』

      高校時代、男友達の住んでいるマンションに泊めてもらったときの話だ。 自宅が戸建てでマンションに泊まるのが初めてだったこともあり、妙にテンションが上がってしまったことを覚えている。 実際はさして違いはなかったのだが。 ゲームやら何やらで盛り上がり、ひと段落ついたとき。 高校生だてらにタバコとライターを取り出した自分に友人がこんなことを言ってきた。 「タバコさ、悪いけど台所で吸ってくれる?」 「台所? そんなん家族に見られたらどーすんだよ」 「うちそういうの気にしないタイプだか

      • 禍話リライト『群れる家』

        「その建物がもう存在しなくなったから話せるんですよ」 そう語ってくれた人の口調や訛りから察するに、関西の話ではないかということだ。 明言こそされてはいなかったが、どう見ても新興宗教関連の施設だったと思われる廃墟が山の近くにあったという。そこには『机の上に置いてある分厚いノートを決して見てはいけない』という噂があり、ネット等ではなく口伝えで広まっていた。その噂について語るときには誰もが「絶対に見るなよ」と言葉を添えていたというのだから、それなりに信憑性のある話として受け止めら

        • 禍話リライト『狂言獣』(怪談手帳より)

          この話は体験者やその知人、親族などから直接聞いたものではない。 戦前から戦後にかけて流行した、特定の地域や集落にまつわる数多の奇妙な噂の中の一つである。 個々人の報告や記録の伝聞で構成されている為か、もともとの内容は断片的で繋がりの曖昧な箇所も多いのだが、ある程度の筋が通るように補足・再構成していることを先にお断りしておく。 ※※※ 陰気な集落だった。 もともとそこまで豊かな地域ではなかったが、様々な要因が重なって住人全体の生活がじわじわと苦しくなりつつあった。 だいぶ離

          禍話リライト番外編:忌魅恐『フジサキくんの家のお葬式の話』

          事情があって会社を休んでいた先輩のAさんが久々に出社してきたときの話である。 後輩のBさんは、昼休みに腕を組んでなにやら悩んでいるAさんを見かけた。 (休んでいた間のことは細かく伝えたつもりだけど、聞きそびれちゃってわかんないこととかあったのかな) 「どうしました?わかんないことあったら教えちゃいますよ?」 「いやぁごめん、仕事に関係ある話じゃないんだけどね、ちょっと家のことだからさ」 Aさんと親しかったこともあり、気をまわして声を掛けると、Aさんはへらり、と笑って答えた。

          禍話リライト番外編:忌魅恐『フジサキくんの家のお葬式の話』

          禍話リライト『引っ越しの家』

          仲間の皆で廃墟……っていうより古民家ぐらいのところだったらしいんですけど、行ったんですって。ただそこがね、不動産屋の『管理しています』って看板は出てるんだけど、連絡先とかは書いてなくて放置してある。その時点で気持ち悪いな、よくそんなとこ行ったな、って話なんですけど。 外見は普通の2階建ての民家にしか見えなくて、「なんか普通じゃんね?」とか言いながら中に入ったら、どうも奥の方に仏壇がまだ残ってるなっていうのがちらっと見えたと。 「仏壇残すって怖いぞ?」と。普通に考えたら他は残っ

          禍話リライト『引っ越しの家』

          禍話リライト『土葬だった家』

          大学生のDさんはある日、仲のいい友人に「悪いけどちょっと付き合ってくれねぇかな」と声をかけられた。 その友人は実家が割とお金持ちの為か奢り癖というようなものがあり、Dさんも金欠のときに何度か助けてもらったことがある。 「なに、どうしたの?」と尋ねたDさんに、彼は随分と済まなさそうに用件を話し始めた。 「俺の親戚に、ちょっと人間のクズみたいな奴が居てね」 「随分と直球だな。俺、お前の親戚って皆上流階級みたいな感じかと思ってたわ」 「そういう環境にいると努力しない奴が出てくるんだ

          禍話リライト『土葬だった家』

          禍話リライト『遠くに立ってた子』

          「中学生の頃に一回だけ、こっくりさんをやってみたことがあるんですよ。確か心霊特番か何かに影響されて見よう見まねでやってみただけで、その一回だけで満足して終わったんですけど」 そう教えてくれたAさんは生まれ育った土地で進学、就職をした人だ。 中学生時代の同級生は同じように地元に残った子が多く、学生時代からの交友関係が大人になっても続いている。 そのうちの1人であるBさんに電話をしたときに、話の流れで例の、一度だけやったこっくりさんの話題になった。 「そういえばこっくりさんってや

          禍話リライト『遠くに立ってた子』

          禍話リライト『血のこっくりさん』

          K君という、こっくりさんの話を集めている知り合いから聞いた話だ。 知人が、こっくりさんの話があるという人物を紹介してくれた。 なんでもネットでの知り合いで、リアルではまだ会ったことがないらしい。 初めて会うきっかけとしてはちょっと気まずいが、それでも取材させて欲しいと会う約束を取り付け、紹介してくれた知人と一緒に喫茶店で話を聞くことになった。 「昔こっくりさんをしてて」 「え、でも世代じゃないですよね?」 と話し始めた女性に、K君は尋ねた。見たところ70年代のこっくりさん

          禍話リライト『血のこっくりさん』

          禍話リライト『ヘルメットの家』

          その日は、まだ明るい時間から友人と2人で飲んでいた。 そっちから誘ってきたというのに、友人の方はほとんど飲まずに、何故かこちらにばかり勧めてくる。 (コイツこんな時間から酒飲むような奴だったか……?)と思いながらも、タダ酒なので遠慮なく飲んでいた。 なにかのタイミングでテレビをつけると、たまたま警察ものの特番でバイクの事故の話題をやっていた。 「こういうのってホント悲惨だよなー。バイクって結局横からぶつかって来られたら終わりだもんな。身体守られないし、ヘルメットしてたって気休

          禍話リライト『ヘルメットの家』

          禍話リライト『崖の黒い女』

          会社の休みで……休日と言っても他の人の休日ではないっていうか。平日に休み取って、昼間ぐらいに山登ってたらしいんですよ、九州のどっかの山。若干パワハラ気味な先輩と一緒に山登ってたらしいんですよ。服装とかちゃんと準備して。 登っていたら、ものすごい軽装だなこいつって女が前を歩いてたんですって。 髪の長い、黒い服着た女で、もう完全に山に登る格好じゃないっていうの。 まぁそんなにすごい山じゃないらしいんだけど、でもちょっと準備が要るぞぐらいの山なんですって。散歩気分で行く山ではないと

          禍話リライト『崖の黒い女』

          禍話リライト『仕掛ける女の子』

          高校時代の、ある夏。 肝試し合コンのような感じで、女の子と肝試しをすることになったという。 どこでやろうかと男友達と相談して、とある団地の奥に廃屋があるらしいということで下見に行ってみたのだが、そこは廃屋ではなくただの倉庫だった。どうやら団地を建設中に資材を置いていた倉庫で、団地が完成したので放置されているようだった。 団地の向こうに古ぼけた建物が見えるから、てっきり廃墟でもあるのかと思っていた一行はすっかり当てが外れてしまった。 「肝試しもう明日なのに、なんだこれ。全然怖く

          禍話リライト『仕掛ける女の子』

          禍話リライト『落ち武者ホテル』

          「……『落ち武者ホテル』?」 それはネットの掲示板かなにかで見つけた心霊スポットだった。 「落ち武者」と「ホテル」という言葉の取り合わせがどうにもナンセンスで、絶対に作り話だと思ったという。 「落ち武者だったらせめて旅館とかだろ?」と仲間内で盛り上がって、どんなところかと行ってみることになった。 情報を基に車で向かうと、国道からすぐの場所にあるそこはよりにもよってラブホテルだった。しかもコテージ状の、一部屋一部屋独立したつくりになっているタイプのラブホテルだ。 「いよいよ落ち

          禍話リライト『落ち武者ホテル』

          禍話リライト『くまだがきている』

          ※この話に出てくる名前はすべて仮名です。 10年とは言わないが、それぐらい昔の話だ。 ある日の食事中。娘さんが、最近こっくりさんをしているという話をしてくれた。といっても娘さんはこっくりさんではなく「おうじさま」とかなんとかそういった名前で呼んでいて、この話をしてくれた人は最初、それがこっくりさんのことだとは思わなかったそうだ。 「お父さんのときはこっくりさんって言ったんだよそれ。ちゃんと答えてくれるの?」 「まぁ答えになってるんだかなってないんだか……でも間違ってはないよ

          禍話リライト『くまだがきている』

          禍話リライト『水槽の部屋』

          安い学生アパートは気をつけろ、という話だ。 ましてや大家さんが一階に住んでいるようなところは本当に良くない。 ・・・ とある安い二階建ての、大家が一階の角部屋に住んでいる学生アパートがある。大家は70歳ぐらいの、暑い季節に下着姿で出歩いて周囲に迷惑がられるようなお婆さん……というよりババァだった。どうやら一人暮らしのようで、住んでいる部屋もいつも窓を開けっ放しにしている。彼女が死んだら無くなってしまうのだろうか、というようなアパートだった。 そんなアパートの、大家の真上

          禍話リライト『水槽の部屋』

          禍話リライト『おしまいの儀式』

           度胸のある奴がいて。土木関係の仕事をしてる、俺より一、二こ上の人なんですけど。  急に呼ばれてね。大学時代の付き合いの人達に呼ばれて、「ちょっと来てくんねぇか」って。  何だろう、と思ってね。飲み会でもねぇなと思って、久しぶりーっつって行って、何かお通夜みたいな雰囲気なんですって。普段はこうイェーイ!とか言って飲んでんのに。  あれ、どうしたの?って訊いたら、 「〇〇さんって覚えてる?」って言うから、「あーあの先輩のね」って。まぁAさんとしておきましょう。  あのーちょっと

          禍話リライト『おしまいの儀式』