禍話リライト『引っ越しの家』

仲間の皆で廃墟……っていうより古民家ぐらいのところだったらしいんですけど、行ったんですって。ただそこがね、不動産屋の『管理しています』って看板は出てるんだけど、連絡先とかは書いてなくて放置してある。その時点で気持ち悪いな、よくそんなとこ行ったな、って話なんですけど。
外見は普通の2階建ての民家にしか見えなくて、「なんか普通じゃんね?」とか言いながら中に入ったら、どうも奥の方に仏壇がまだ残ってるなっていうのがちらっと見えたと。
「仏壇残すって怖いぞ?」と。普通に考えたら他は残ってたとしても仏壇だけは持っていくじゃないですか。
だったら一番そこが怖いだろうから、先に2階見てまわろうってことになった。2階には物置と、あと子ども部屋があって。あぁこの家はひとりっこだったのかなとか言いながら1階に降りたんですって。
リビングらしい部屋に入ったら棚が残ってて、まぁ棚ぐらい残ってても良いんですけど、引き出しにアルバムが入ってる。
〇〇家ってありがちな苗字が書いてあるそれを皆で見てみたら、家族3人……お父さん、お母さん、男の子が、家の前で撮ってる写真。それが、めちゃくちゃ色んな家が写ってる。
「お父さんが転勤族だったのかな」
「それにしてもずいぶんあちこち転々としてたんだなぁ」
住所とかは書いてないけど、明らかにそれぞれ別の家で撮ってるし、子どももちょっとずつしか成長してないから、学期が終わる前にもう引っ越すみたいな感じだったのかな、とか思ってたら。
仲間の1人が、敏いというかなんというか『気が付いちゃう』奴で、
「ちょっと可笑しくないですか?」
って言いだした。
「なんか……お父さん以外、すごい顔が暗いですね」
子どもはわかるじゃない、友だちが出来てもすぐ居なくなっちゃうし。お母さん……奥さんも暗いのよ。それがもともと暗いタイプの奥さんって感じじゃなくて。多分もともとは明るい人なんだろうけど、目の下にクマがあって、露骨に疲れてる感じだと。
で、そいつが更に、
「これとかどう見ても夏の写真なのに、お父さんだけ半袖で、お母さんと息子はずっと長袖ですよね……なんか気持ち悪くないですか?」
とか言う訳よ。
「言われてみればまぁ……」
とか言いながらアルバムをめくっていったら、いちばん最後の写真が自分たちが今いる家の玄関で撮られた写真なんですよ。その頁にだけ万年筆で日付が書いてあるんですけど、それがリビングに掛けてあった日めくりカレンダーに残っている日付とだいたい一致したんですって。
「ってことは、やっぱりこの家で何かあったってこと……?」
って誰が言って、皆怖くなってきてね。
「じゃあこれやっぱ人とか死んでるんじゃないッスか」
「いやいやいや」
まぁそれ以上見るものも無いし、アルバムを棚に戻して、メインディッシュというかね、仏壇のある部屋に行った。
部屋の奥に近付いたら閉まってたんですよね、観音開きの扉が。
それを見た途端、「あっ」って。
「帰りましょう!」
さっき写真の違和感に気付いた奴が声をあげて。
「見てくださいよこれ!」
って言われた方を見たら。仏壇の扉がね、結束バンドで留めてあるんですって。
もうそんなの駄目じゃないですか。
思わず「結束バンドだ!」ってそのまま声に出ちゃったらしいんですけど。
「何があったかはわかんないですけど、長袖ってことは虐待されてて両手両足に傷跡があったのかも知れない。その上に結束バンドと来たら怖い、良くないですよ!帰りましょう!」
皆怖くなって、「じゃ、じゃあそろそろ帰ろうか……」って雰囲気になりかけた時に、
「あー俺持ってる持ってる」
仲間内でも一番のバカが場違いなことを言い出した。
「何を!?」
「切るやつ」
なんか、十徳ナイフみたいなのを持ってきてたらしいんですけど、それを取り出して。
「え」「ん?」「なに言ってんの?」
そのまま仏壇の方に行って、
パチン、
と切っちゃった。まぁ結束バンドだから道具があれば切れる訳だよね。
「へっ!?」
何も言えないでいる隙に、キィ……と開けちゃって、「なんだぁこれ?」とか言いながら何かを仏壇から取り出したんですって。
「出さなくていい!!」
って叫んだんですけど、でも出されちゃったから見るしかないじゃないですか。正直(真相が明らかになるのかな)って考えもあって怖々見てみたら、全員「ヘァッ」みたいな声しか出なくなった。

アルバムの最後に入ってたのと同じ、家の前で撮った家族3人の写真が、でっかい黒枠の中に入っているんですって。

もうそんなの、誰が死んで誰がやったのか知らないけど、邪悪な意思を感じるじゃないですか。
「ちょっとちょっと、ちょっとちょっとちょっと……」
それは流石に開けたバカも怖くなったみたいで、全員で家を飛び出してね、家の前で全員で「すみませんでした!!」って言って頭下げてから帰ったそうなんですけど。

・・・

もうそれからね、全員ずっと気持ちが悪いんですって。食欲もない、ゼリー飲料しか飲めないみたいな感じで、元気出なくて。
1週間後になんとなく集まったら、仏壇開けちゃったバカだけが来ない訳ですよ。
「あいつどうしてんだ?」
集まった面子も皆ちょっと痩せてっていうかやつれてて、精神的にもあの日の出来事が軽くトラウマになってるんですよね。
あいつは?ってなってたらバカと同じバイト先の奴が言うんです。
「あいつバイトも来てないんすよ。俺今日店長から様子見に行けって言われてて、ちょうどいいなと思って……」
「え、今から行くの?」
「すいませんけど皆で行きましょうよ。俺1人じゃ行けないっすよ年下なのに」
「まぁ、じゃあ……」
「い、行くぅ?」
渋々バカの部屋に行ったらさ、何度もチャイムを鳴らしても返事無いのよね。
「これマジで死んでるとかないよね?」
とか言ってたら、ドアが開くのよね。そいつバカだけど鍵とかはちゃんと閉めるタイプなのに。
「だれぇ~?」
部屋に入ったらそのバカは居たんだけど、(こいつずっと布団から出てないんじゃねぇの?)みたいな。1週間で人ってこんな痩せるもん?って感じでやつれてて。
「お、お前大丈夫か!?」
「いやぁ~、ちょっと動けない……」
「おい誰か食うもん買ってきて!」
あまりにもぼろぼろだったから、急いでコンビニで食べもの飲みもの買ってきて、急に食べたりすると身体に悪いからゆっくり食え!とか言って1時間ぐらいかけて食べさせたり飲ませたりしたら、やつれてはいるんだけどちょっと喋れるようになってきた。
「お前大丈夫か?病院行って点滴とか打った方がいいぞ、明日付いていってやるからさぁ」
「ありがとうございますぅ……」
なんか言葉遣いもバカっぽくなくて、殊勝な感じになってる。
なんかあったのか?って訊いたら、夢を見るんだ、と。
「あの家に行って逃げ帰ってからずっと、同じ夢を見てたんだ」
「……どんな夢見てんの?」
夢のなかで、2階に居るときに『ご飯だよー』っておかあさんに言われるんですって。
呼ばれて、階段を降りながら、(あれここ実家じゃないな?)て気付く。見たことない、全く自分の記憶にない家の階段を降りてるから(え、何でだ?)と思った瞬間に、夢ですから、階段が無くなって落っこちちゃうとか。突然暗闇に覆われるとか、爆発音がして吹っ飛ぶ感じで目が覚める、と。
それがね、うわって起きて、それでもう一度寝るじゃないですか。また同じような夢を見るんですって。
それをきいて、皆だんだん嫌な気持ちになってきた。
「色んな家の夢……ふーん……」
あの家で見たアルバムのことを思い出してきてね。もう皆ふーん……そっかぁ……ってなってる。
「1日目2日目はそういう夢、俺は勝手に『ご飯トラップ』って呼んでたけど、ご飯だよって声かけられて。でも冷静に考えるとその声もうちの母親のじゃないんだ。起きたときに気が付くんだけど、寝たら記憶がリセットされてて、また降りていっちゃうんだ俺は」
他の奴らはもう怖いなぁ……と思って聴いてんの。
「で、3日目ぐらいになって、はっと夢の中で目が覚めた。
『ご飯だよぉ』って声が聞こえて、返事をして階段を降りていったら、そんときなは、俺その家に見覚えがあったんだ……」
「あ、実家だったの?」
「いや……皆で行った、あの家だったんだ」
また皆小声って「ヘァッ」って、うわぁ聞かなきゃ良かった……!って思ってたんだけど、まだそのバカの話には続きがあった。
夢のなかで「あ、あの家だ」って気付いたんだけど、爆発だ暗闇だとかの夢が中断されるような出来事がなんにも起きないから、1階まで降りれちゃった。降りていったら卓袱台が置いてあって、ご飯がぽつんと1人分あって、飯食える訳。
じゃあ飯でも食おうかなと思ったら、凄い臭いがすると。
なにこの臭い、どっからすんの?と思って振り向いたら、廊下挟んだ部屋が襖開いてて。こっちに背を向けて、男性が横向きになって寝ているんですけど、足元まで布団が捲られてるんですよね。で、そいつのズボンの尻の部分がめちゃめちゃに汚れて、汚物塗れになってる。つまりそういう事じゃないですか。
(こ、これ、もしかしてこの人死んでるってことじゃ……!?)
ちょっとヤバいと思って前に向きなおったら、さっきまで居なかったのに、ガリガリに痩せた女性と子どもがパクパク飯食ってるんですって。
(誰だこいつら!?)
居間は真っ暗で顔は良く見えないんだけど、多分あの写真に写っていたお母さんと子どもだと。
その2人が、ボソボソなにか言ってるんだって。
(何て言ってるんだ……?)
怖くてそこから動けずにいたら、だんだん言ってることがわかってきたんだけど、

『ふたりでたべるごはんはかくべつだねぇ』

みたいなこと言ってるんだって。
『ほんとだねぇ、こんなにおいしいんだねぇ』
って言ってんの。
もう目が覚めるまで下向いてやりすごそうとしてたら、なんかずっとクチャクチャクチャクチャ音立てながら食ってるんだって。
『おいしいねぇおいしいねぇ、ふたりでたべるとおいしいねぇ』
『ほんとだねぇ、さんにんでいたときはいきたここちもしなかったしたべてもたべてもたべてるかんじがしなかったけど、ふたりでたべるとこんなにおいしいんだねぇ……


あんたもそうおもうでしょ?』


って言われて、そこで目が覚めた。

「……それが3日目からずっと繰り返されて、なんにも食べる気起きなくて、こうなっちゃったんだ……」
と言われて、その場の全員「お、おぉ……」としか言えなかった。
それで翌日ね、病院どころかまず神社かお寺に行ったんだって。
「どうしました?」って訊かれても、
「ちょっとバチが当たったので!悪いことをしたんで!すみませんがお祓いをしてください!!」
って言い張ってお祓いをしてもらって、それから点滴を受けにいったんですって。

それでなんとかなったらしいんですけど、ガツガツ肉食系のバカだったのが、ちょっと精進料理みたいなのとか、何回もよく噛んで食べるのが美味しく感じるようになっちゃったんですって。まぁ健康的で良いんだけど。
肉とか見るとね、夢の中で卓袱台に乗ってた適当なチキンステーキみたいな料理を思い出すから、どうしても駄目になっちゃったんだって。



※本記事はツイキャス『禍話』シリーズの「THE 禍話 第9夜」より一部抜粋し、書き起こして編集したものです。(36:10ごろから)

https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/567860024

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