禍話リライト『遠くに立ってた子』
「中学生の頃に一回だけ、こっくりさんをやってみたことがあるんですよ。確か心霊特番か何かに影響されて見よう見まねでやってみただけで、その一回だけで満足して終わったんですけど」
そう教えてくれたAさんは生まれ育った土地で進学、就職をした人だ。
中学生時代の同級生は同じように地元に残った子が多く、学生時代からの交友関係が大人になっても続いている。
そのうちの1人であるBさんに電話をしたときに、話の流れで例の、一度だけやったこっくりさんの話題になった。
「そういえばこっくりさんってやったよね。結局なんにも来なかったけどさ」
「あ~あれね。今思い出したらなんか結構雰囲気あったじゃん」
「先生に見つかって叱られないように、明かりは点けなかったよね」
「そうそう、教室の四隅が妙に暗くて、それがすごく怖かった!」
懐かしい学生時代話を思い出す中、Aさんはふと、記憶の中の光景に何か引っかかりを感じる。
「あれ、ちょっと待って……私、Bちゃん、Cちゃんの3人でやってて、解説役のDちゃんがいて……もう1人いなかった?後ろのロッカーのところに立っててさ、遠くから『どう、動いてる?』とか、声かけてきた子」
「あ~、いたいたいた!」
Bさんもその子のことは覚えていた。
「誰だっけ……おかしいな、名前思い出せないわ」とAさんは首を傾げる。記憶の中のその子はロッカーに背中を預け、「どう、動いてる?」だとか何とか声をかけてきたが、立っている場所からは動かずに自分たちの輪には決して入ろうとはしなかった。
同じ制服を着てたから、確かに自分たちと同じ学校の生徒で、同級生で……あの子は誰だったっけ?
「え~思い出せないの?」
Bちゃんに笑われて、
「忙しくて記憶が曖昧になったかな、最近仕事も立て込んでるし」とAさんが苦笑すると、
「隣のクラスの、〇〇 〇美ちゃんじゃないの!」
Bさんにフルネームを言われ、最初Aさんはまったく意味が解らなかった。
その名前に聞き覚えが無かったからではない。今言われたその名前は紛れもなく、Bさん自身の名前だったからだ。
(なんで今Bちゃんは、自分の名前をさも他人の名前みたいに言ってきたんだ?)
「いやそれアンタの名前じゃない」という突っ込みが喉まで出かかったが、何故かそれを口に出すのは躊躇われた。
「もう~何忘れてるの?やっぱり疲れてるんじゃない?ちゃんと休み取りなね?」
その後口数が少なくなったAさんを不審がる様子もなく、Bさんとの通話は終わった。
時計を見るとまだそれ程遅い時間ではなかったので、AさんはCさんとDさんにも電話をかけてみることにした。
当たり障りのない話題を経て、こっくりさんと後ろに立っていた子の話をすると、2人とも「なんで忘れてるの?」と笑いながら、
「XX X香ちゃんじゃない?」
「△△ △子ちゃんじゃない?」
と、それぞれCさん、Dさん自身の名前を言うのだった。
電話を終えたAさんは、
(まさかドッキリ……?いや、こんな手の込んだドッキリなんかあり得ないでしょ……そもそも全然面白くないし、種明かしもないし……)
と、訳のわからない事態に呆然とするしかなかった。
その年の夏、中学校のクラス会が行われた。参加したAさんが会場を一頻り見渡しても、Bさん、Cさん、Dさんの姿はなかった。
(そういえば最近はメールぐらいしかしてなかったな。みんな何してるんだろう?)と電話をかけてみたら、3人ともに着信拒否をされているようで繋がらない。
それならばとメールを送ってみるも、そちらもアドレスを変えられているらしくエラーメッセージが返ってくるだけだった。
クラスメイトに新しい連絡先を尋ねても「お前が知ってるアドレスしか知らないよ」と言われ、その場では3人についてそれ以上のことは解らなかった。
後日、3人と親しい付き合いのある友人に近況を調べてもらうと、3人とも理由は不明だが、同じくらいの時期に急に仕事を辞めて実家に引きこもっているらしいということだった。
・・・
この話の最後に、Aさんがポツリと呟いた。
「これって、私の所為なんですかね?それとも私、危ないところを助かったんですかね?」
その問いに答えられる者は、誰もいない。
※本記事はツイキャス『禍話』シリーズの「ザ・禍話 第二十八夜」より一部抜粋し、書き起こして編集したものです。(34:20ごろから)
https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/644100599
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?