禍話リライト『血のこっくりさん』

K君という、こっくりさんの話を集めている知り合いから聞いた話だ。

知人が、こっくりさんの話があるという人物を紹介してくれた。
なんでもネットでの知り合いで、リアルではまだ会ったことがないらしい。
初めて会うきっかけとしてはちょっと気まずいが、それでも取材させて欲しいと会う約束を取り付け、紹介してくれた知人と一緒に喫茶店で話を聞くことになった。

「昔こっくりさんをしてて」
「え、でも世代じゃないですよね?」
と話し始めた女性に、K君は尋ねた。見たところ70年代のこっくりさんブームとも90年代半ばの学校の怪談ブームとも世代は被らなさそうだったのだ。
「図書館にあった女の子向けの怖い本だとかスピリチュアル系の占いの本に載っていて、興味本位でやってみたんですよ。結構簡単に用紙が作れちゃって、なんか用紙まで作っちゃうとやる気になっちゃったんですよね」
やる気になったのはいいのだが、結果としてこっくりさんは全然来なかったそうだ。
「明日の天気はなんですか?」と訊いても



「〇〇君と××ちゃんは付き合ってますか?」と質問しても




といった具合で、意味の通じない答えしか返ってこなかった。
「全然ダメだね」「来てない来てない」と友達と笑いあってその場はお開きになったのだが。
「なんか、悔しくなっちゃって」
ムキになって、子ども向けの本だけでなく家にあるゴシップ誌などを色々漁って調べていたら、とある古い雑誌に『10円玉に誰かの血を付けてやるといい』という情報が書いてあったのだそうだ。
雑誌を友達に見せてみるものの、「ちょっと血はねぇ……」「指切ったりするのもなぁ」と、当然だが及び腰な反応ばかりだった。
ところが、運が良かったのか悪かったのか、そのうちの一人が保健委員で、「保健室だったら血の付いた絆創膏なりガーゼなりあるんじゃない?」と言い出した。
さっそく保健室のゴミ箱から血の付いたなにかを適当に拾ってきて、誰のものかもわからない血をなすりつけて再度こっくりさんをやってみた。
「そしたら、ちゃんと意味の通る答えが返ってくるようになったんですよ。例えば恋愛系の質問をしたら、両想いとか片思いとか」
その場は成功だと盛り上がったが、そう何度も何度も保健室のゴミ箱を漁っている訳にはいかない。周囲にも怪しまれてしまう。
じゃあしょうがない、ということで、その後は参加メンバーの誰かがカッターで軽く、指の腹辺りを切るようになった。
そうして試行錯誤しているうちにどんどん回答の精度があがってきて、最初は単語で返ってきていたのが、遂に文章で答えてくれるまでになった。

「で、未だにやってるんですけどねー」

「……未だにやってるんですか?」
K君は思わず聞き返した。目の前の女性は、大学生か社会人になりたてくらいの、そこそこいい歳に見える。そんな女性が、こっくりさんをやってる?子どもの頃から今に至るまでずっと?
「あ、そうなんですか……すみません、ちょっと失礼しますね」
一度頭の中を整理しようと、K君は御手洗いに立った。女性に会ってからずっと、なにか違和感があったのだ。
用を足し、手を洗っているときにふとその違和感の正体に気が付いてしまった。
(……あの人が着てるの、長袖じゃん……)
取材したのは夏の時分だったのだが、この日は特に暑い日だった。女性が着ていたのは決して夏物ではないちょっと厚めの素材で、こんな日に着るにはさぞかし暑いだろう。そんな服をわざわざ着ている理由……
(あれ、あの人ヤバいんじゃないの?なんか血とか言ってたし……)
いつもよりだいぶ時間をかけて手を洗い、K君は御手洗いを出た。
ところが席に戻ると、女性が居なくなっていて、紹介してくれた知人が一人きりで困惑の表情を浮かべている。
「あの人どうしたの?」
「か、帰った……」
「帰ったの?なんで?」
「いや、なんか、気を悪くして……」
気を悪くしたと言われても、K君は別に女性の話を否定した訳でもない、顔にも出てなかったと思うけどなぁと首を傾げると、気を悪くしたのはお前の所為じゃなくてな、と知人が話してくれた。
彼によると、K君が席をたってすぐ女性が、
「今度こっくりさんしてみましょうよ」
と誘ってきたというのだ。
「こっくりさんとかそんな、リアルで会ったの初めてだし……」
「いやぁ面白いですって」
なんとか誘いをかわそうと適当に返事をしていたのだが、思いの外女性の勧誘は熱心で、知人の手を掴んでくる程ヒートアップしてきた。
(いきなり距離詰めてくるなぁ)と流石に突っぱねようとしたら、手が当たって女性の左の袖がちょっと捲れたのだそうだ。
「その見えた腕が、ズタズタだったんだよ……」
「お、おぉ、ズタズタかぁ」
「なんか何回も何回も切ってて傷跡がもうグッチャグチャよ……」
「そうか、傷跡がもう、おぉ……」
K君は知人の言葉を繰り返すことしかできなかった。
「でもあれリスカとは言わないだろうな、なんだろうなアレ……」
女性はそれを見られたと気付いた瞬間キッと知人を睨んで、そのまま帰ってしまったということだった。
「まぁ、さっきの話を鑑みるに……そういうことなんじゃないか?」
なんとか恐怖を緩和しようしたK君の言葉に知人は頷いて、
「そうだよな、怖いな……」
と呟いた。
「ていうか誘われたのお前?」
「誘われたんだよ、『今度ちょっと予定合わせてくれませんか?』とか、お前が席を外してる間に言ってきたんだよ、怖いよな……」
「怖いな……」
それっきり知人と女性は連絡が取れなくなって、関係は自然消滅してしまったらしいのだが。
あの女性はまだこっくりさんをやってるんでしょうね、という話だ。



※本記事はツイキャス『禍話』シリーズの「ザ・禍話 第二十六夜」より一部抜粋し、書き起こして編集したものです。(27:40ごろから)
https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/641529209

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