今となっては、俳人としての名が高いけれど、久保田万太郎は、演劇評論家としてそのキャリアをはじめて、小説家、劇作家、演出家として昭和の演劇界に君臨する存在になりました。通して読むと…
¥880
- 運営しているクリエイター
#俳句
しぐれ氣味の、底冷えのする、しずかな、しみじみとした、何となく人戀しい日。(久保田万太郎、あるいは悪漢の涙 第三十七回)
小説「寂しければ」には、上質な舞台劇のせりふを思わせるやりとりあ る。 仮に名優といわれるほどの役者によってこのくだりが上演されるとしたら、ことばの上には現れないゆたかなこころの揺れが観客に伝わることか。 成熟を見せるのは会話ばかりではない。この一節に続く風景描写もまた、詩人としての万太郎の素質をよく物語っている。 建仁寺にさしてゐた日かげもいつか消えて、庭のうへは、鶏頭も、とび石も、燈蘢も、何のことはない、枯々としてうすら寒いなかに、あきらめてもう首をさしのべて
¥100