古代ギリシャのヘルメス

古代ギリシャの話題について書いています.

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マガジン

  • 二千年と三百年前から愛してる

    2300年前にギリシャからエジプトへ移住した建築技師クレオンとその家族の交流が,今パピルスから原典訳で蘇ります.

  • 私たちはソクラテスの命日をどこまで知ることが出来るのか?

    一部の媒体では,ソクラテスの命日が4月27日とされていますが,これには根拠がありません.では私たちはソクラテスの亡くなった日についてどれほどのことを知ることができるのでしょうか?

  • ギリシャ数学

    古代ギリシャ数学をご紹介します

  • 進化心理学

    進化心理学は,差別を助長する学問ではありません.動物としてのヒトの心の本性を研究する学問です.

最近の記事

  • 固定された記事

「生きるために食べよ,食べるために生きるな」とソクラテスは言ったのか?

序. ソクラテスの名言とされる「生きるために食べよ,食べるために生きるな/Thou shouldst eat to live; not live to eat.」を調べるとたくさんの学びがあり,我々にとってソクラテスとはどういった存在なのかを考える機会ともなりました.その学びを共有するためのnoteです. 1.ソクラテスの言葉とは?    この「格言」をソクラテスのものとして紹介するサイトがいくつかあります.そもそも我々はどうしてソクラテスの言葉を知ることが出来るのでしょう

    • 古代の数学に「円周率」はあったのか?

      序. 「円周と直径の長さの比率」である「円周率」は π とも呼ばれ,最も有名な数学定数の一つですが,この定数はいつ頃から数学で扱われるようになったのでしょうか.本稿では,最古の数学であるエジプト数学¹やバビロニア数学には円周率という概念はないこと,さらに西洋古代の数学にも見られないという話をしたいと思います.  しばしば,古代の円の面積を計測する議論(以降では「求積」と呼びます)の説明に,「エジプト人は円周率を約3.16として計算した」と説明されることがあります.この説明は不

      • 数学には「革命」が起こるのか?

        ~JUDITH V. GRABINER ,“IS MATHEMATICAL TRUTH TIME-DEPENDENT? ” を読みながら~ 序.  科学は「進歩」するものですが,その歴史を考えるとき,例えばアリストテレスやプトレマイオスの「間違い」をあげつらい,彼らを現代の基準で裁くということに賛成の人は少ないと思います.つまり科学は「パラダイム(ここではその時代や地域で規範となる事物の見方や捉え方ほどの意味としましょう)の転換」を経験し,現代に至るという理解は広く認めら

        • ギリシャ喜劇の読書案内

          「動物の中で笑うのは人間だけである」                  アリストテレス『動物部分論』673A  悲劇に比べ,あまり注目されることのない喜劇ですが,ギリシャの歴史や哲学,文学を検討する上で欠かせないものですし,何より笑えます.本稿では,喜劇から広がる世界,そして喜劇自体をもっとディープに楽しむための本を紹介していきます. ・『ギリシア喜劇全集』〈全2巻〉アリストファネスとメナンドロスの全作品が収録されています. ・『ギリシア喜劇』〈上・下〉 人文書院と同じ

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        記事

          電卓で学ぶ『アルマゲスト』        ~太陽の軌道篇~

          序. 本稿では,紀元後二世紀,エジプトのアレクサンドリアの天文学者プトレマイオスが書いた『アルマゲスト』第3巻における太陽の軌道計算を題材にし,理論の説明だけではなく,電卓を用いて計算することで, 古代天文学のテクニカルな議論を知っていただこうと思います.はじめに計算の前提となる天文学の知識を確認しておきましょう. 1.星と暦 我々は普段,365日と4年に一度の閏日の挿入により1年を把握していますが,古代ギリシャ人はどのような暦を使っていたのでしょうか?古代ギリシャでは月の

          電卓で学ぶ『アルマゲスト』        ~太陽の軌道篇~

          電卓で作るプトレマイオスの「弦の表」

            序.『アルマゲスト』第1巻に収録されている「弦の表」の作成法について解説します.『アルマゲスト』における実際の「弦の表」の利用についてはこちらのnoteをご覧ください. https://note.com/greekmathematics/n/nbe51ec97f4b5 1.「弦の表」とは  「弦の表」とは,半径60の円において,1/2°から180°までの弧に対する弦の長さを1/2°毎に計算したものです. つまり,B͡Cと弦BCの関係を表にしたものです.B͡C= α

          電卓で作るプトレマイオスの「弦の表」

          喜劇としての『人さまざま』

          序. 喜劇を学ぶ理由をプラトンは次のように語ります. 1.著者について  本稿では,テオフラストス(※表記はテオプラストスの場合もあります)の書いた『人さまざま』という本の紹介をし,最後に第22章の翻訳を掲示します.  最初の邦訳者である吉田正通は書名を『人さまざま』としましたが,もともとの書名は『諸性格(カラクテール/キャラクターの語源)についての書』だったと考えられており,英語圏ではCharactersという書名で通っています.  テオフラストスは,詩人サッフォーの出

          喜劇としての『人さまざま』

          デモクリトスはかく語りき-原子論の世界観-

          序. 本noteでは,この問題をごく簡単に検討してみます.(2021 8/12,誤植があったので訂正しました.) 1. 同じ? 投票の結果,断面AとBの面積は等しいという意見が圧倒的に多数でした.切断前はぴったり同じものだったのですから,この意見は説得的にみえます. ですが次のように考えるとどうでしょうか? 断面の少し上,もしくは下を同じくスライスします.それをPとQとします.すると断面の大きさは P<A=B<Q となります. ここでPとQの距離を限りなく近づけて

          デモクリトスはかく語りき-原子論の世界観-

          車内に犬がいた話

          スーパーの駐車場で,命を救うことを躊躇した自分の話を書きます.  その日は息子と,仕事が終わったら水鉄砲で遊ぶ約束をしていました.以前に買った水鉄砲が壊れたので,職場から保育園の間にあるスーパーに水鉄砲を買いに行くことにしたのです.  そのスーパーの駐車場に停めてある車の中に犬がいたのです.より正確にいえば,その犬と目が合いました.車のエンジンはかかっておらず,窓も閉まっています.  毎年夏になると熱中症により痛ましい事故が報道されます.その犬のことが心配になりましたが

          アリストテレスの災難            ~ギリシャの宇宙観の変遷~

          ※引用される史料に訳者が書かれていないものは筆者による試訳です. 序.   本稿では,ギリシャ人の宇宙観の変遷を考えてみたいと思います.まずシュベーグラーによる,次の記述を見ておきましょう.    この記述は,アリストテレス『天について』の解説なのですが,そこでは,宇宙の中心をもっとも神聖さの低い場所であり,そこに位置する地球を神聖さの低い場所と考えています.この発想について,ネオ高等遊民さんが,驚きとともに次のような感想をもらしています. そこで,この疑問を出発点とし

          アリストテレスの災難            ~ギリシャの宇宙観の変遷~

          納富信留『ギリシア哲学史』から始まる

          本書は、資料論・方法論をふくむ最新の研究成果に目配りをし、これまでと大きく異なる枠組みと視点で、ギリシア哲学史の全体を俯瞰する試みである。(※納富信留『ギリシア哲学史』裏表紙より) 序. 古代ギリシア哲学を扱う和書としては,内山勝利 編『哲学の歴史〈第1巻〉哲学誕生―古代1 』以来,約十年ぶりの通史です.  『古代ギリシア哲学史』(以下 本書)では初期ギリシア哲学から古典期の哲学までの通史です.さて,初期ギリシア哲学(※ソクラテス以前という語は近年用いない傾向)の研究分野

          納富信留『ギリシア哲学史』から始まる

          『オイディプス王』本当の結末

          あなたは本当の『オイディプス王』を知らない……             そう…まるで生まれたばかりの赤子のようにね. 序 ギリシャ悲劇を代表するソフォクレス『オイディプス王』.父殺し,母子相姦,そして失明…という物語のあらすじはよく知られていますが,その結末部分には八つの謎があります.本稿ではその謎の紹介と,より自然な終劇についての研究をご紹介いたします.ご紹介する研究はこちらです. David Kovacs ,Sophocles: Oedipus the King: A

          『オイディプス王』本当の結末

          古代ギリシャの少子化問題

          序.戦争が絶え間なく続いたわけでもなく、飢饉に見舞われたわけでもないのに、全土において子供の減少と人口全体の縮小が著しく、そのために都市が廃墟になったり、農地が打ち捨てられたりした。(…中略…)この原因は自明であり、解決法もわれわれの手の中にあるのだから。つまり人々が虚栄と金銭欲と放恣にうつつを抜かし、結婚を忌避するか、または仮に結婚して子供が生まれても大勢の養育を嫌い、贅沢に育て豊かな財産を遺してやりたいからと、そのうちのせいぜい一人から二人しか育てようとしないのだから¹、

          古代ギリシャの少子化問題

          ともにギリシャ悲劇を読む

          序. 本稿はギリシャ悲劇に興味をもっているけれども,まだ読んでいないという方のために書きました.私は,この原稿を執筆時点で〈ネオ高等遊民読書会サークル〉に参加をしておりますが,そこでギリシャ悲劇に取組むことになっています.  大好きなギリシャのこととはいえ,悲劇というのは自分の関心の外にあったので「読んだふり」をしてきたのですが,とあるきっかけからギリシャ悲劇への関心が高まったのです.そのきっかけの1つ目はこちらです.↓  そして2つ目のきっかけは,哲学のある主義/主張に

          ともにギリシャ悲劇を読む

          アルキメデスと放物線の面積

          序.   「円の正方形化」という言葉をご存じの方はいるでしょうか? 古代ギリシャでは,円と等しい面積の正方形を作図する問題が研究されていました.そしてその問題は曲線や曲面で囲まれた図形の面積や体積に等しい直線図形を作図する問題に発展しました.現在,それらの取り組みは「求積問題」と呼ばれています.    本稿では,古代ギリシャでの求積における最初の大きな成果としての,アルキメデスによる放物線の求積を,世界でもっとも分かりやすく,そして正確にお伝えします! もう一度いいます「世

          アルキメデスと放物線の面積

          [閲覧注意] アポロニオス『円錐曲線論』第Ⅰ巻命題11,20

           本稿はアルキメデス『放物線の求積』における放物線の性質の補足説明のために用意したものです.これだけ読んでも,(多分)一部の方しか楽しめません.古代と現代の曲線の生成についての認識の違いを感じることができると思います. 序.  アルキメデスは,放物線の軸と径の長さの比例関係は,失われた『円錐曲線原論』で証明されているといいます.現代的な視点では(原点を頂点とする)放物線はy=ax²(もしくは y²=px)で定義されますので,軸(y)と径(x)の比例関係が証明を必要とすると

          [閲覧注意] アポロニオス『円錐曲線論』第Ⅰ巻命題11,20