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色々書いてこまめに入れていきたいです 書けた順番でそのまま入れてます
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#読書感想文

2024年に読めた本のベスト11選

2024年に読めた本のベスト11選

2024年に読めた本の中で、とりわけ思い入れがあったり、べらぼうに面白かったなあーという書籍をまとめてみました
今年は(今年も)読書がなかなかはかどらない年になってしまったのですが、それでもベスト本を選出してみると、ほぼ初読みの作家さんばかりで、多くの出会いが果たせた読書になっていたと分かりました
これというのも、いつも読む本を参考にさせてもらえたり、惹かれる感想記事を執筆して下さっている相互さん

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『オーリエラントの魔道師たち』 乾石智子 感想文

『オーリエラントの魔道師たち』 乾石智子 感想文

四編の短編集で四つの異なる魔法を操る者たちの話ですが、いずれの話にも共通しているのは日々の手仕事を惜しまずに、己の技能に研鑽を重ね行動を省みて、力を得た者が成すべき事を見据えている、覚悟と肝の座りかたが実に好ましい、清々しい人たちの話でした

『陶工魔道師』は陶芸の工房を構えながら、その焼き物に呪力を込めることのできる、陶器の魔法使いの話
粘土を掘り出し、呪言を込めて練り上げて、釉薬を調合して焼き

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人新世を知るSF傑作選『シリコンバレーのドローン海賊』感想

人新世を知るSF傑作選『シリコンバレーのドローン海賊』感想

人新世、人類の活動が地球環境に顕著な影響を及ぼす時代のこと―

人新世という言葉はこの本で初めて見聞きしましたが、その概念はうっすらと感じていたテーマだったので、取っつきやすくて良かったです
このテーマとして上がりそうな内容というと、まずは環境の保護活動などを想像していましたが、地球環境の変化から発生する災害が深刻化している話だったり、経済格差の問題を扱う話もあったりして、なにより“その中で人はど

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映画『シャーリィ』とシャーリィ・ジャクスン著『くじ』の感想

映画『シャーリィ』とシャーリィ・ジャクスン著『くじ』の感想

今年の9月の話なのですが、上田映劇さんで『シャーリィ』という映画を鑑賞しました

高名な小説家のシャーリィ・ジャクスンと大学教授の夫の2人が暮らす、蔦の絡む豪邸に住み込む事になった若い夫婦が見舞われる、息詰まる家主たちとの関係の話…なのですが
“愛が試されることになる”
“魔女の毒であなたは目覚める”
とのポスター煽り文句を見て、作家シャーリィと若夫婦の妻の共依存性+友情+主従関係エッセンスと、作

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『そして夫は、完全な女性になった』 みかた・著 感想

『そして夫は、完全な女性になった』 みかた・著 感想

結婚して20年近くたつ配偶者からある日、男性の身体で生きていくことに耐えられない、女性になりたい、と打ち明けられた人の体験記です
トランスジェンダーの方ご本人のお話を見聞きすることはあっても、結婚して何年もたつ配偶者からそれを告げられた側の思いは、これまで可視化されている場がなかなか無かったように思います
癌患者の家族が“第二の患者”と呼ばれるほどケアが必要であるのと同じように、性同一性障害の当事

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『血を分けた子ども』 オクテイヴィア・E・バトラー 感想

『血を分けた子ども』 オクテイヴィア・E・バトラー 感想


序文

noteとは別媒体の読書アカウントで、おすすめを受けて読んでみた初読みの作家さんの作品です
とても好ましく感じる話揃いの短編集でした

ジャンルとしてはややSF、という加減のSFで、その濃度はそれほど高くありませんが、書かれている内容はかなり濃厚で骨太です
各短編ごとの終わりにあとがきが付いていて、その作品を書くに至った逸話なども解説してくれるし、エッセイも併せて収録されている、ちょっと

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黒白の叫び 伊藤計劃『虐殺器官』『ハーモニー』再読感想

黒白の叫び 伊藤計劃『虐殺器官』『ハーモニー』再読感想

以前のnoteのお休み期間中に、伊藤計劃さんの『虐殺器官』と『ハーモニー』の再読をしてました

それぞれの再読感想を並べますが、作品についてのあらすじや作者の伊藤計劃氏についての解説はほとんど行っていません
また直接の表現はしてませんが、物語の結末に触れる内容になっているので、閲覧にはご注意ください

『虐殺器官』

12年ぶりくらいに再読
以前読んだ時は、主人公クラヴィスのナード感が物珍しいと思

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『源氏供養~草子地宇治十帖』 森谷明子 感想

『源氏供養~草子地宇治十帖』 森谷明子 感想

『千年の黙』『白の祝宴』『望月のあと』に続く、シリーズの最新刊にして完結編です
こちらのシリーズ作品を読むのは久しぶりでしたが、香子(紫式部)の万事控え目で悩みが多く、しかし周りの人への細やかな気遣いをし、己の書くものに情熱を密やかに燃やす姿が変わらずとても好ましいし、紫式部として想像する人柄にすごく馴染む造形が相変わらず好みでした
1019年頃の、すでに出家をし宇治の庵で暮らす彼女が“宇治十帖”

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『渚にて』  ネヴィル・シュート 作 佐藤龍雄  訳 感想

『渚にて』 ネヴィル・シュート 作 佐藤龍雄 訳 感想

1960年代の、オーストラリアのメルボルンを主な舞台とした群像劇
些細な軍事的な小競り合いから始まってしまった、核保有国同士の止まらない報復行為の果てに、北半球の大半の都市も国家も高濃度の放射能に汚染された死の区域と化してしまい、またその汚染は刻一刻と南半球の地にも迫っている
メルボルンも北半球の都市と同じく、生命の生存が不可能になる、まさに“その日”までの出来事を、様々な人物の視点から克明に描い

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『アステリズムに花束を』 百合SFアンソロジー 感想文

『アステリズムに花束を』 百合SFアンソロジー 感想文

SFマガジンの百合SF特集号に掲載された作品に、書き下ろしも含まれた、百合への期待と思い入れが満ちみちた作品集です

百合SF特集のSFマガジンは三刷の増刷を果たしたことや、伊藤計劃氏の『ハーモニー』の十周年記念で開催された特集であったことなどを語る序文から熱い短編集でしたが…『ハーモニー』は百合認知されてるんですね
それはそれで嬉しいような、むずがゆいような、百合って枠組みに入れるのは適切なのか

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短歌集 『死のやわらかい』  鳥さんの瞼 感想

短歌集 『死のやわらかい』 鳥さんの瞼 感想

以前読んだ『海のうた』という歌集に収録されていた作品で、この 鳥さんの瞼 さんの短歌にとても惹かれたために短歌集も拝見してみました
柔和で繊細な雰囲気の短歌で、母や祖母の記憶や希死念慮にも溢れていて、あまり人に勧めたり感想を書いたりするよりは、本棚の隅にしまっておきたい風合いの短歌集のように感じます
ですが、よくよく読んでみると
スーパーに並ぶパックの食材を眺めているであろう心情であったり、おそら

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豪速球のSF短編集『なめらかな世界と、その敵』  伴名練  感想

豪速球のSF短編集『なめらかな世界と、その敵』 伴名練 感想

あまりにも面白い、すごい短編集だった
こういうSF好きだなあとか
情緒の揺さぶり方が容赦ねえなあとか
萌えこころを的確に満たしてくれるし、むしろこの作品きっかけで(何かに)覚醒する人もいるよなあとか! ムズムズバタバタしてしまう短編集でした
読んでいて興奮で動悸が上がったり、面白さが過ぎる場面で発情期のどうぶつのようにウロウロ歩き回ったりするくらい、身体に訴えかける剛力な面白さが凄い短編集でした

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『寝煙草の危険』 マリアーナ・エンリケス 著 宮崎真紀 訳 感想

『寝煙草の危険』 マリアーナ・エンリケス 著 宮崎真紀 訳 感想

スペイン語圏のホラー小説と聞いて読んでみたのですが、昨年読んだ『ペトロ・パラモ』を連想させるところがあった
湿度の高い雰囲気や、死者が隣人としてわりとそばにいることとか、それを特に苦にしない(話によってはする)乾いた語り口とか
乾湿の緩急の調和が気持ち良く、しかし起きてることはかなり気持ち悪い、でもそれが面白い短編集でした
各話の感想を簡単に書きます

『ちっちゃな天使を掘り返す』

幼くして亡く

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『幻の光』  宮本輝 感想

『幻の光』 宮本輝 感想

宮本輝さんはこれまで馴染みのない作家さんで、かなり前に『錦繍』を読んだだけだったのですが、来月の頭頃に映画版の『幻の光』が上田映劇さんでリバイバル上演されるので、読んでみようかと手に取りました
この作品は四篇の短編集になっており、表題作の『幻の光』は夫を自殺によって喪った後に、遺された息子を連れて、離れた土地の家に嫁いだ女性が、新たな生活や経済的な安定を得ながらも、前夫を思って心の中で語り続けてい

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