映画『ボヘミアン・ラプソディ』と’80年代の青春。
※こちらのテキストは映画公開時に書かれたものです。
1985年に開催された「LIVE AID」はリアルタイムで観た。
当時高校で一緒にバンドをやっていた同級生と3人で観た、というか観続けた、最初から終わりまで丸一昼夜全部観た。
当時THE WHOのコピーバンドをやっていた我々のお目当てはもちろんTHE WHOであった。
あと、LED ZEPPELINの再結成は、恐らく当時の世界中が一番楽しみにしていたはずだ。
ローリング・ストーンズは当時解散状態であり、ミックとキースが一緒にステージあがるかどうか?が直前まで話題になっていた。
衛星中継は途中ブツブツ切れながら、さらにグダグダの進行だったが、
我々は田舎町のメンバー宅に集まって、
お菓子にビール、そして煙草を吸いながらひたすらに観続けた。
「次はクイーンだって」
我々は「なつかしー!」と言いながら笑った。
1985年当時、
映画『さらば青春の光』を観てTHE WHOをコピーするような「とんがった」高校生にとって、クイーンは「女子供が聴く懐かしのポップス」であった。
さらに当時のクイーンは、アパルトヘイト政策によって人種差別が最悪な状態の南アフリカでライブを行ったとして、全世界から叩かれていた。
「どの面下げて出てくるのかな?」と、
反アパルトヘイトのメッセージソング『SUN CITY』に入れ込んでいた私は息巻いていた、いやしかし高校生の時からキャラが変わらんなオレは笑。
1985年に発表されたArtists United Against Apartheidによる『SUN CITY』は、いきなりマイルス・デイビスが登場してひっくり返ったら、
RUN-DMCやアフリカ・バンバート、ギル・スコット・ヘロン、ボビー・ウーマック、果てはLKJという、ヒップホップ、ソウル、DUBの「超リアル」な俊英たちが続々後に続き、
早熟な「意識高い風味」高校生であった私はコレに熱狂した。
その「時代のリアル」に比べて、この時代のクイーンは完全に陳腐化していた。
この時、クイーンにとっては「全世界がアウェイ」という状況であったのだ。
そこへメンバーがステージに登場した。
一曲目『ボヘミアン・ラプソディ』、我々はその懐かしさに盛り上がった。
「あははは~、超なつかし~!」
この時まだ、我々は「若かったあの頃(=中学時代)」を思い出してゲラゲラ笑っていた。
二曲目『レディオ・ガガ』、ここで我々は大変なことが起こり始めていることを感じ始めた、、
「もしや、、、、」
と思った刹那、サビでスタジアム全体が腕を上げてクラップを始めた。
「すげええええええええ!!!!!!!」
我々も「ブラウン官」の前で一緒に手を挙げたのは言うまでもない。
スタジアム全体がうねっていた。
いや、世界中がうねっているのが「ブラウン管」を通じて伝わってきた。
そして、始まった「えーーーーーーお!」
(そういえば、おれたち、クイーンで育ったんだよな、、、)
すっかり「高校生の癖にノスタルジー」である。
三曲目『ハマナフォー』。
これで完全に持って行かれた。
いつの間にか手のひらをコロっと返して
「オレたちのクイーン!」
になっていた。
これぞ一世一代の名演中の名演であった。
四曲目『愛という名の欲望』。
ここで我々も一休み。
五曲目『ウィー・ウィル・ロックユー』。
「そう来たか!」
ヤツら完全に「殺し」に来ているようだ。
そして六曲目『ウィー・アー・ザ・チャンピオン』
フレディがピアノからハンドマイクに持ち変える瞬間で失禁である。
そしてもう感涙にむせび泣いた、たかだか18年ほどの己の人生を振り返りながら、、、
そして、イギリス人にとってクイーンが大切な存在であることに感動した。
世界中が合唱しながらうねっているのを感じた。
我々も完全なるエクスタシーに達した、世界のオーディエンスたちと一緒に。
そして終演。
我々は「大変なモノを観てしまった」と興奮しきっていた。
そのあと、THE WHOとLED ZEPPELINを観たが、ただの抜け殻であった。
語る価値もない。
ディランもストーンズの各メンバーもひどかった。
すべての演奏が終わり、
ふと窓の外に見える初夏の日差しを強烈に覚えている(恐らく徹夜で観続けて朝になったから眼精疲労で眩しかっただけなのだろうが)。
そして、
この半年後に我々はクソみたいな田舎の高校を卒業して東京に出ていくのである。
あの日の初夏の日差しの眩しさは、我々の「未来」の眩しさでもあったのだ。
さて、あれから30年弱が経った。
この映画は「本編を観終わってから家に帰って、本物のクイーンのLIVE AIDをYouTubeで観直すまでが一本の映画」である。
「30年の時間の接続」である。
「でぃらでぃらでぃらでぃらでーお」と君が言ったから七月十三日は「エイド記念日」。
完。
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