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【命がけ食日記】 「きゅうりと死」。
きゅうりが嫌いだ。
昨夜、参加した講演会の打ち上げ先の居酒屋で雲丹の軍艦巻きを無造作に口に放り込んだ。
刹那、あの嫌〜な食感とともにきゅうり臭が口腔内全体に広がった。
しまった!と思った時には手遅れであった。
山盛りの雲丹に隠れる形で、海苔巻きにきゅうりが仕込まれていたのだ。
コンマ何秒か悩んだ。
だが、さすがに同席の初対面の方々の目の前で口から雲丹と酢飯ときゅうりの破片を取り出す勇気がなかった。
その躊躇が命取りとなった。
胃の腑に落ちたきゅうり片は、メルトダウンした原発施設内の燃料棒から放射能が垂れ流されるが如くきゅうり臭を放ち続けた。
きゅうりガイガーカウンターは数値を振り切り、オレはきゅうり被曝した(あたかもキューリー夫人の様に)。
息を吸って吐く度にきゅうり臭い。
その後、強烈に美味しいマグロやカンパチを食すも、我が胃の腑から発するきゅうり臭によって、その旨味はあっと言う間に消され続けた。
それに加え、胃の中で消化され始めたきゅうり成分が血中に流れ込み、具合が悪くなってきた。
少し横になりたくなったが、宴の楽しさで乗り切った。
よしアルコールで消毒を、と焼酎を煽るも、アルコールの揮発によってきゅうり放射能が再び食道をせり上がってくる。
さらに、きゅうりを体内に取り込んだ精神的なショックも誘発した。
あゝ、今オレの体内にはきゅうりが入っている、、、。
救急車を呼び、病院で、毒物を摂取した急患にそうするように、胃の中を洗浄して貰いたい。楽しい宴の間もそんな妄想が脳裏をよぎる。
オレは完全に身体をきゅうりに乗っ取られたのだ。
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一夜明け、朝食と食後のコーヒーを飲みながらこの文章を打っている。
きゅうりという文字を打ち込む度に、まるでベトナム戦争帰還兵がジャングルでの悪夢を幻聴幻覚する様に、オレの鼻腔の奥から「幻きゅうり臭」がする。
想定外の大打撃だ。
当分の間、社会復帰は難しいだろう。
オレときゅうりの闘いは始まったばかりだ。