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2024年5月分記事まとめ

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最古のアート・ギャラリー

最古のアート・ギャラリー

ロンドンのセント・ジェームズ街を歩いていると、洗練された紳士服の店などが立ち並び面白いのですが、その街に世界最古のアート・ギャラリーと称されるコルナギという店があります。

毎年マーストリヒトで行われるTEFAFと呼ばれる古典絵画のアートフェアにて、このコルナギは毎度独特の出品をして、美術関係者を沸かせています。昨年はスペイン・バロックの巨匠ムリーリョの作品を目玉にしていましたし、今年はドメニコ・

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ホテルのカクテル🍸

ホテルのカクテル🍸

日系ホテルのバーよりは外資系、特にイタリアか香港資本のバーのだすアルコールの方が優れていると思ってしまう今日この頃です。ただそれらも日本酒でカクテルをとなると途端に冴えが消えるのが難点です。

日系の場合、ホテルより個人店のバーの方が水準が高いと思うのは気のせいでしょうか。

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花咲く等持院の影に

花咲く等持院の影に

龍安寺の石庭が苦手だ。もっと直接的に言うなら良さが分からない。

どうも枯山水が好きになれない私は、石に仏の世界を観る想像力に欠けるのだと思う。そもそも精神に宗教的次元が備わっていないのかもしれない。
茶人を気取っておきながらわび茶も実のところよく分からない。地味で殺風景だから嫌いというわけではなく、感性や本能といったどうしようもないところから苦手なのだろう。知識を専門家並に積んだところで、それが

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雪舟伝説(※雪舟展ではない)感想 京都国立博物館

雪舟伝説(※雪舟展ではない)感想 京都国立博物館

今年の上半期を代表する日本美術の展覧会です。企画が発表された時点で話題沸騰でしたから、長蛇の列を心配していたのですが、平日は空いています。

本展は雪舟の芸術を観るということから少し進んで、彼の作品や作風がどのように後進に継承されて「画聖」と呼ばれたかを辿るものです。

概要気分が高まるような有名作品からスタートします。教科書でお馴染みの《秋冬山水図》《山水長巻》に《天橋立図》《慧可断臂》などなど

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印象派2日間

印象派2日間

『パタゴニア』という旅行記なのか随筆なのか、それともフィクションなのか判然としない本がある。大体の人は困惑するが一部の放浪癖のある人間から絶大な支持を受けている、英国の作家ブルース・チャトウィンの代表作だ。
私は彼にシンパシーを感じ、全作品及び評論まで読み込んだ。英国人の伝手を辿り、チャトウィンと交友のあった人も訪ねて、その印象を聞いたくらいだ。

チャトウィンは作家になる前、オークションハウスの

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ゲルニカ

ゲルニカ

ピカソの線というのは躊躇いがなく、勝者の傲慢といったものを感じるとジョン・バージャーが書いていましたが、それは主題のジャンル問わず発揮されています。

多くのキュビスム絵画や、その他20世紀前半の絵画を見てきましたが、輪郭線の勢いやソリッドな硬さに、滾る血といったものが伝わってきます。それだけパワーがあるということですが、《ゲルニカ》のような鎮魂や戦争の告発といった悲しいテーマにおいても、勝ち誇る

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空海展感想(奈良国立博物館)

空海展感想(奈良国立博物館)

空海生誕1250年記念ということで空海展。おそらくこの規模では2003の入唐1200年記念の「空海と高野山」展以来のものになると思います。仏像に焦点を当てた展覧会としては2019年の東博が最新ではありますが、空海展となると20年ぶりです。

高野山の名宝名物盛りだくさんだった祝祭的な2003年版に比べれば、「密教とは」「空海のしてきたこととは」と宗教色が強めの展示になっています。美術館だけでなく高

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貴族とブルジョワ

貴族とブルジョワ

1947年に階級制度がなくなって以降、日本では貴族とブルジョワは概念的に同一視されがちですが、欧州ではそのあたり微妙に分かれています。1950年代となると如実にそのふたつは文化や風習・価値観まで異なっていました。

美術の話をすると、競売会社のサザビーズは新興ブルジョワ層、クリスティーズは貴族階級というのが暗黙の了解で、当時はもっぱらクリスティーズが大きな仕事をして、サザビーズはこじんまりとした家

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キュビスム展(西美・京セラ)感想

キュビスム展(西美・京セラ)感想

筆者は東京で昨年観ていますが、この夏まで京都京セラ美術館でも展示が続いているので、回想録として書きます。ポンピドゥセンターからの作品を中心に、キュビスムの多様な展開を追うものです。

概要キュビスムの前史としてセザンヌの作品とアフリカの偶像が展示されています。「プリミティヴィスム」についてのキャプションが、今日的にアップデートされたおり、作品の単なる霊感源ではなく、植民地主義的な問題を孕んだ造形で

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ぽえじえ(Poesie)

ぽえじえ(Poesie)

ローマ行きの飛行機、スマホで聖書を読むフィレンツェ人の男性が隣に座っておりました。彼は頻繁にメモ帳のポエジエ(Poesie)と書いてある白紙のページと行ったり来たり。信仰もカジュアルになったものだと驚きながらも、おそらくは聖書のインスピレーションで詩を作ろうとしていたのでしょうか。その眼は言葉を吟味するとき特有の混沌を湛えていました。

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普遍性について

普遍性について

徒然と書いていたら長文になってしまいました。

論旨
もし仮に日本における西洋文化史・思想史研究を維持したいなら、なぜそれらの知や芸術が現代日本にも有効であり有意義であるかを、誰もが納得できる論理で宣伝しなければならない。
しかし多様性の尊重や植民地主義批判などの新たな学説によって西洋由来の「普遍性」という強固な支えは自分たちで解体してしまって使えない、となると一体どうすればいいのか、八方塞がりで

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苦手なもの幾つか

苦手なもの幾つか

「なんでも褒めるのは趣味の欠如である」と言われたら首を傾げつつ、とりあえずそうだと答えるに違いありません。実際、褒める行為は頭を使う必要は全くないからです。

そしてこのアカウント、お嬢様部時代から含めてもほとんど紹介しかしないことにしていることもあり、特定の作家の批判などは一切したことがありません。存命作家について語らない傾向も、皆で話し合った炎上回避対策の一環です。

とはいえ、なんでも紹介し

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自然との調和

自然との調和

「日本には四季があって〜」という意味不明な謳い文句については、SNSでも揶揄され、外国人にもナニコレと思われるようになり、最近ではあまり聞かなくなりました。

季節に合わせて細やかに文化が変わる、と言えばまだ特徴になるかもしれませんが、四季がある地域なら大抵そのようなものはありますから、個別化はできません。

ただ「日本人は自然と調和した考えがあって〜建物とかもそれに合わせて〜」といったものは健在

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Paris 1874 印象派展感想(オルセー美術館)

Paris 1874 印象派展感想(オルセー美術館)

1874年の春、第一回印象派展が開かれ、新たな美術史が始まりました。それから150周年を祝うためオルセー美術館が総力を上げた、今年を代表する展覧会です。

概要いわゆる「印象派展」ではなく「第一回印象派展とは何だったのか展」であり、極度に1874年に焦点が注がれたものです。確かにモネやルノワールはそれらが始まる前から、いわゆる印象主義的な表現には至っていました。本展は彼らの画業を解き明かすというも

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