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【おすすめ本】最近読んで面白かった10冊【ジャンル不問】


1.『在野と独学の近代』 中公新書 志村 真幸 

「進化論」のダーウィンや「資本論」のマルクスは、大学などの研究機関には所属していなかった。では大学に頼らず、在野で独学に打ちこむ道とはどんな道だろう――。本書は、南方熊楠を軸にイギリスと日本の独学者たちに注目するという独創的な切り口から独学を捉える。さらに郵便・辞書・雑誌・図書館といった「知」のインフラやシステムにも着目。100年以上前の生き生きとした「知」のネットワークが浮かび上がっていく。



 南方熊楠もマルクスも、卒論を書く時の大学生のように図書館の自習室に1日中こもって、ひたすら本読んでノートにまとめ書きしてたと知り感動です。また、有名なネイチャー誌が郵便網によって「集合知」を確立し、それにはアマチュアの協力が欠かせなかった話も面白い。もろWikipediaじゃん。
天文学でのSETI研究や系外惑星探索でアマチュアのデータが欠かせない話も思い出しました。
 日本の官民の対立によって熊楠が感じた息苦しさもわかりつつ、「学問さえ出来れば貧乏な家の子も博士にも教師にも軍人にもなりえた」坂の上の雲的明治の学制の偉大さ、それと対照的なイギリスのコネ社会も興味深かったです。学問に対する向き合い方を考え直せる素晴らしい一冊。

あとダーウィンの実家太すぎ。嫉妬やこれだけはハッキリしてる。




2.『この夏の星を見る』 KADOKAWA  辻村深月

離れていても、空はひとつ。
2020年春、コロナ禍で青春の何もかもを奪われた全国の中学生。部活や学校の日常が、次々と制限されていく中で今できることは何か。天文活動に出会った彼らが、オンライン会議を駆使して繋がっていく。茨城県から、渋谷から、五島列島から、それぞれの場所で向ける望遠鏡は何を捉えるのか。




 辻村深月先生の小説です。いやー素晴らしい。遠隔で繋がる青春をこんなに水々しく描けるのはさすが辻村深月先生。何気ない言葉に傷つきやすい思春期、人の視線を気にする感覚、今を生きている高校生中学生の様子が本当にリアルで感情移入してしまいました。玉突き式に色んな人を少しずつ変えていく、その様子に読んでいてアツくなりました。




3.『ハプスブルク帝国 1809-1918』 ちくま学芸文庫 A.J.P.テイラー

中央・東ヨーロッパに跨り、かつて近代ヨーロッパ最大の覇権を握っていたハプスブルク帝国。ナポレオンに追われた神聖ローマ帝国の滅亡からなし崩し的に戴冠した1809年から、第一次世界大戦によって民族対立と王朝の矛盾が決壊を起こした1918年までをたどる一冊。浮かび上がるのは、多民族国家が抱えることになった民族原理の軋轢、近隣諸国との外交問題。イギリス屈指の歴史家である著者が、個々人よりも外交史的力学を重視しつつ、生き生きとした筆致で異形の帝国に迫る。




 正直言ってめちゃくちゃ読みづらかったです。全体を通して回りくどい言い方で、主語がはっきりしない文章と比喩が多用されていたのでふんわりとしか理解できませんでした。ただし、複雑な帝国の状況整理と歴史のたどり方は間違いありません。
皇帝と官僚ドイツ人、商業に携わる都市ドイツ人(自由主義者)、
そこに紛れる歴史的国家を持たないチェコ人、
地主を中心に一足先に民族の自覚を持ったマジャール人

がそれぞれ別々に存在していたという説明で、何この帝国、無理ゲーやん。と笑ってしまいました。宗教も民族も歴史も使えない中で、存在理由のハッキリしない皇帝だけをいただく王朝で「国民」を作るなんて本当に無理ゲー。でもその無理ゲーをしないと帝国は瓦解する。メッテルニヒやコシューシコ、フランツ・ヨーゼフ帝やアンドラーシ首相は、各々が現状のベストを尽くしたと言えるでしょう。しかし、そんな各民族の利害対立に振り回されて、1847年〜1914年の貴重な時間を浪費しちゃった感も強いです。
それから、本当の強国の間は周りから歓迎されないが、落ちぶれた時期は勢力均衡のために隣国から求められるという説明は興味深い内容。なのにビスマルク以後、ドイツ帝国に外交的に接近してしまったため他欧州列強に嫌われてしまったのが、求められていた役割を放棄してしまったわけですね。

最後の一言で、著者が書いた年にはチトーも中欧における共産主義政権もまだこれからの時期だったんだ……となってヒエッっとなりました。😨




4.『円 劉慈欣短編集』 ハヤカワSF文庫 劉慈欣

数年前から話題の中国SF『三体』作者劉慈欣デビュー以来の珠玉の短編集。円周率10万桁の中に不老不死の秘密があると確信した秦の始皇帝のために荊軻は300万人の兵隊で人間コンピューターを作り出す。そんな奇想天外な表題作『円』の他13編を収録。中国史と伝統文化の世界観と重厚なSFが融合する奇妙な作品世界は、まさに唯一無二。




 『郷村教師』、これが特に大傑作だと思いました。小学校の学費があるなら村の祭りに使ってしまう。結婚の持参品の山羊欲しさに縛り付けられた妊婦は出血してしまう。底抜けに悲惨な中国農村の現実と、圧倒的スケールの宇宙戦争。全く異なる題材をこんなに美しい1つの物語にするとは本当に驚きです。過酷な現実に、突拍子もつかないSFという虚構で立ち向かう。SFってその戦いでもあるんだ、そう思いました。他作品にも、そんな「劉慈欣節」とも言うべき、祈りが込められているように感じます。
シャボン玉の話も大好きです。 




5.『ローマ人の物語IV ユリウス・カエサル ルビコン以前』 新潮社 塩野七生


建国神話から帝国滅亡までの一千年のローマ興亡史を塩野七生氏が描く本作は、もはや古典といっても過言ではない大河小説シリーズ。そんな4作目は、英雄ユリウス・カエサルの前後編のうち前編。政治・思想・演劇・文学・歴史から塩野七生が解き明かす英雄カエサルの肖像。ルビコン川を前に賽が投げられたその時までを活写する。



最近こつこつ『ローマ人の物語』を読んでいて、4冊目になります。
ユリウス・カエサルが生まれてから三頭政治の一角として飛躍を遂げていくまでの半生が瑞々しいです。その時期は30~40代。そう、カエサルが歴史の表舞台に立ったのは中年になってからなのです。本作の中で好きなシーンは、32歳の時にヒスパニア(スペイン)のとある神殿でアレクサンドロス大王の神像に礼拝する場面。「大王はペルシアを22歳の時に征服し、全世界へ遠征したのち32歳で亡くなった。いま同い年の私はまだ何も成していないじゃないか」(意訳)
後の大英雄もそんな悩みを持っていたことに親近感を覚えました。

そして見どころは中盤以降のガリア戦記の様子。地図付きでヘルヴェティ族をはじめ各ガリア部族の分布を説明してくれています。部族名が難解過ぎて序盤で挫折することでおなじみ『ガリア戦記』を読み解く心強い味方となることでしょう。元老院の議事録を一般大衆に公開したメディアの政治利用の元祖のお話も面白かったです。 





6.『太陽を創った少年』 早川書房 トム・クラインズ

「僕は14歳で核融合炉をつくりました」
アーカンソー州に住む早熟の天才テイラー・ウィルソンは、どうして実家のガレージに核融合炉を作ろうとしたのか?そしてどうやって実現へと向かったのか。危険と隣り合わせのそんな作業を、子供がやってのけられるはずがない、という大人の常識を尻目にテイラーには自分がやれるという勝算、そして適切な知識があった。彼を直接取材した記者が送る、衝撃のノンフィクション



天才や偉業を成す人は、才能も環境も両方欠かせないとわかりました。テイラーの眩しい才能と鋭い頭脳にも度肝を抜かれましたが、彼の両親の教育こそが核心ではないでしょうか。息子の興味に合わせてヒントを与えるが誘導はせず、危険な行為は専門家を訪ねて対策しつつ全否定はしない。中々出来ませんが本当に素晴らしい姿勢だと思いました。
そしてやはりアメリカは国ガチャ大当たりです。アポロのロケットを博物館で実物見られるの羨ましいし、その辺でウラン拾えるし、近所でロケット実験も出来るのはアメリカの恵まれた点でしょう。また9.11や共和党っぽい言動で、あー彼もアメリカ、テキサス人らしい愛国少年なのか、天才でもローカルな文脈はちゃんと染まるのかーと妙な所で感慨深かったです。
テイラーは終始危なっかしいところがあります。自分の才能を過信しているように見受けられるところもありました。しかし、彼の両親の様に跳びぬけた才能を全否定せず、彼が今後の人類へ貢献することを応援したいと思います。さて、彼はなぜ核融合炉をつくったと思いますか?






7.『新版 アジア憲法集』 明石書店 

バングラデシュ、ブータン、そして北朝鮮など中々知ることのできないアジア22か国の憲法を網羅した素晴らしい一冊。1000ページを超える文量の中からは憲法どうしの影響、その国の独特の文化や歴史に沿った条文が見えてくる。



日常知る機会の無い知識ばかりでとても新鮮です。例えばブータン王国憲法は仏教用語マシマシ。

第3条 精神的遺産
第1節 仏教はブータンの精神的遺産であり、平和、非暴力、共感および寛容の原理及び価値を促進する。
第4節 国王は5名の阿闍梨の推薦により、ドゥック派の伝統に基づき崇高な九徳を持ち金剛乗の行を納めた尊敬される僧と叙せられる者を大管長に任命する。

ブータン王国憲法(2008)

第15条 いかなる市民も宗教・人種・カースト・性別・出生地他の理由に、次に掲げる事項に制限や条件を課されない。
「店舗、公衆食堂、旅館及び公共の娯楽施設への立ち入り ・全部若しくは一部が国の運営による井戸、用水池、浴場、通路、若しくは娯楽施設の利用」

インド憲法(1950)

インド憲法は詳細にカースト制度を禁止しているな、といった具合です。他にも北朝鮮の憲法はかなり社会主義の理想色が強いものであったり、北朝鮮やベトナムなどの社会主義憲法には「亡命してきた科学者を受け入れる」という趣旨の文言が共通しており興味深いです。通読にはかなり骨が折れますが、各国文化を感じると共にそれぞれ日本国憲法とどこが違うのかを探してみるのも面白いでしょう。それでは最後に、またブータン王国憲法から好きな条文を引用します。

第5条 環境
第3節 政府は、国内の自然資源の維持及び生態系劣化の防止のために、ブータンの全国土の少なくとも60%が常に森林に覆われている状態の維持を保証しなければならない。

ブータン王国憲法(2008)







8.『涼宮ハルヒの憂鬱』 角川スニーカー文庫 谷川流

「ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人、未来人、超能力者がいたらあたしのところに来なさい。以上。」
言わずと知れた平成の名作ライトノベル。退屈な日常が何よりも嫌いな女子高生・涼宮ハルヒが周囲を巻き込みながら大暴走していく。そんなドタバタの毎日に付き合わされる主人公キョンの日常は、いつの間にか超常になっていき……。




京都アニメーションによるアニメ版がカルト的な人気を誇ってから早20年弱。一周回って手に取った原作を読んでみました。20代になって今さら本書を読んでいると、キョンの独白形式は自意識が多少過剰だと感じますが、あまり「イタい」とは感じませんでした。純粋に今の環境を変えたいともがくハルヒの姿は共感するし、暗中模索だからこその無茶苦茶さも心地が良いです。
そんな導入から、情報体だけの生命体と分子制御、時間の連続性の否定とタイムパラドックス、世界五分前仮説と人間原理を書かれて改めて濃いSFをやろうとしてるなと感嘆しました……!

萌えや思春期の自意識過剰の皮を被った本格SF
……もまた一面に過ぎず、思春期の揺れ動く破壊衝動と「自己像と現実の擦り合わせの葛藤」が本作の本質ではないでしょうか。


……つまり何が言いたいかというと、

「オウフwwwいわゆるストレートな質問キタコレですねwww
おっとっとwww拙者『キタコレ』などとついネット用語がwww
まあ拙者の場合ハルヒ好きとは言っても、いわゆるラノベとしてのハルヒでなくメタSF作品として見ているちょっと変わり者ですのでwww
ダン・シモンズの影響がですねwwww
ドプフォwwwwついマニアックな知識が出てしまいましたwwwいや失敬失敬www
まあ萌えのメタファーとしての長門は純粋によく書けてるなと賞賛できますがwww
私みたいに一歩引いた見方をするとですねwwwポストエヴァのメタファーと商業主義のキッチュさを引き継いだキャラとしてのですねwww
朝比奈みくるの文学性はですねwwww
フォカヌポウwww拙者これではまるでオタクみたいwww

拙者はオタクではござらんのでwwwコポォ」

「本物のオタクが「涼宮ハルヒのキャラで誰が好きか」と聞かれると」
ニュー速VIP(2008)のスレより

古のコピペのコイツは案外鋭いこと言ってんな、ってことですね。





9.『人類、宇宙に住む』 NHK出版 ミチオ・カク

火星移住から不死への挑戦までリアルかつ衝撃の未来図!
地球温暖化や資源の枯渇、小惑星や彗星の衝突、太陽の膨張……。地球がいずれ壊滅的なダメージを受けることは避けられず、人類は生き延びるために宇宙に移住する必要がある。世界的に高名な理論物理学者で、未来学者としても定評のある著者が、宇宙移住への道を3つのステップで解説する。




宇宙開発史、テラフォーミング、系外惑星探索、肉体改造、情報転送、パラレルワールドと量子論と超ひも理論まで網羅しててやばすぎる、の一言です。テラフォーミングの複数の方式を検証しながら詳しく論じているのは何気に貴重で良かったです。この本の内容は、以前投稿した下記記事の下地の一つにもなっています。


SF書いたり読むなら基礎知識はこの一冊で完璧と言えるでしょう。人類の千年万年億年後の未来の解像度は、圧巻の一言です。そして、本作にどことなく漂う技術万能主義や楽天的な世界観はどこかアメリカという地域性がありそうです。以前読んだ未来科学者レイ・カーツワイルほどではないにしても、人類の未来は何の憂いもないという安心感が見え隠れします。客観的事実から建てる未来予測であっても、生まれ育った国や文化のバイアスから逃れるのは容易ではないかもしれません。





10.『日本アニメ史』 中公新書 

今日のアニメ大国日本はどのように誕生したのか。
初の国産アニメが作られてから100年余り。大正時代の無声映画からネットフリックスと『鬼滅の刃 無限列車編』まで!日本アニメの全ての歴史をこの一冊に網羅した野心的な一冊。



リミュエール兄弟ら西洋の映画・アニメーション技術の習得模倣に、鳥獣戯画や北斎漫画の系譜から始まった時「え、マジでそっから話始めるの!?」と驚きました。戦時総動員の表現規制を経て、ディズニー作品で見せつけられた長編アニメの可能性に憧れと模倣で追いかける時代は印象的でした。テレビでの毎週放送を定着させ、爆発的にテレビアニメが広まった『鉄腕アトム』がエポックメーキングなのは恐らく一般的だと思います。が、『名犬ラッシー』『奥様は魔女』といったアメリカ産の輸入ドラマの高視聴率から、女児家庭内のチャンネル争いに意外と強いという推測を立ててターゲティングした『魔女っ子サリー』が誕生したという話は大変面白かったです。そこで確立されたのが『プリキュア』に続く女児アニメなわけですから、まさにあらゆるものに歴史は宿るのだと実感しました。
『宇宙戦艦ヤマト』『ガンダム』で可視化された再放送を望むファンが『イデオン』『マクロス』でオタクを産んだ過程も唸りました。アニメファンが作品を作る『新世紀エヴァンゲリオン』でまた爆発・拡散して、『涼宮ハルヒの憂鬱』『まどか☆マギカ』で爛熟していく。そしてアニメファンの熱意を持ったオタクの鑑賞形態がどっしりと固定された、さらに外側に『君の名は』そして『鬼滅の刃』が配信形態に乗って薄く広がっていくのです。

この壮大すぎる100年史をよくぞ一冊の本にまとめて下さったと思います。
東映アニメの理想も、手塚治虫の野望も、富野監督や宮崎駿監督の想いも、全部は叶わずにそれぞれの思惑を乗せながら性質がどんどん変化していった様子が本当に「生き物」みたいだったのが印象的でした
これから日本人や日本市場の手を離れて、海外人気やVRや外交戦略に乗って、また全然違うモノになっていくんだろうなという予感が残る読後感。
日本の現代文化史として非常に面白いし、今までの視聴作品や身近な経験までが歴史になっていてアツかったです。

そういえば1970年代に、うちの母親はハイジを観てて
父親は裏番組の宇宙戦艦ヤマトを観てたって聞いたけどこれも歴史の証人だよなあ。





読書の秋、が深まる前に今年2024年は秋が終わってしまいましたが、良い本を探して本の大海に繰り出していきたいものです。
では!

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