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野生動物対策課は、朝からてんてこまいだった。 続々と妖物が出現し、感知器課長こと二宮公英は、続々と「感知」してしまう自身の妖物センサーに辟易していた。 公英は現場には絶対出ない真の裏方能力者で、人をちょっと小ばかにしたような発言や人の気持ちを無視しがち、子育てには参加してこなかった姿勢から、部下たちに煙たがられている。 定時には帰り、休日出勤もなるべくしない面も、孤立を加速させる。 ただ、それには理由があった。彼も非常に高い能力を持つ者として、悩みを抱えてい
相手の気持ちを一方的に推測して相手の心を読んでしまうような考え方です。利点は相手の表情を読み取るので、ニュアンスを察したり、気配りができる傾向があります。
森の奥には魔法使いがいて、頼めば願い事を何でも叶えてくれるというのは、この辺りの村では有名な話だった。 隣に住むメルヒの、お婆さんの話だ。 小さいころ家で飼っていた猫がいなくなり、一番かわいがっていた姉が魔法使いのところにお願いをしに行った。魔法使いはタダでは願い事を聞いてくれない。姉はその時期庭で盛りの深紅のバラを両腕に抱え、魔法使いに手渡した。 魔法使いはいつもそうであるように、棚から筒を取り出して、薬草やらキラキラ光る石やらを筒に入れると、最後に姉が持参したバ
お題:レトルト三角関係 「あんな女より、私の方がいいでしょ?」 そう言ってキスに耽り始めた男女を横目に、ぎゅっと鞄の持ち手を握る。「酷い」と呟き、足早にドアへ。ばたんと大きく音を立てて部屋を出れば、ふーっと肩を力を抜き、鞄から手鏡を取り出して髪とメイクを確認しながら自己採点。 「うーん、まあ……87点ってとこかな」 ぎらぎらとネオンの眩しいホテルから出ると、いつもの送迎の車が目に入る。何も言わずに後部座席に乗り込んで、欠伸をひとつ。運転席から、「お疲れ様です」の一
死んだ婚約者のことなんか、早く忘れてしまうべきだと、わかっていた。 美咲の匂いのするものすべて処分し、そして新しい生活を始めるべきこと。 彼女の両親にも言われたし、式に呼ぶ予定だった友人たちからも、そう言われた。 だけど、たったひとつ、捨てられない物がある。彼女が大事にしていた、一輪のサボテン。 ──サボテンには、心があるんだって…。持ち主が嬉しい時はサボテンも嬉しいし、 悲しい時はサボテンも悲しいの。だから、わたしの心、ここにおいていくね…。 そう言って彼女は、病
「推し」の概念ってなんだろう 世間一般で言う「好き」との違いって? 私は分からないまま、今を生きています。 今日は指が乗ったので、続きを書いています。 皆さんに推しっていますかね? 推しと好きの違いがイマイチわからない女です。 今、過去のDMを見てみると 私凄い表面上だな〜猫かぶってるつもり無いけど、凄い仕事感あるなぁ〜 って今と比べてみると恥ずかしくなるやり取りがそこにはあった。 色々お話ししていく中で、私に影響を受けて、新しく写真のアカウントを作ったという先生。先生
「ひっさしぶりー。」ある程度二人でいる時間が増えた時期だった、裕子さんが家に入ってきた。 『裕子はいつも勝手に入って来るからな。』良平さんが言っていた、だからきっとここで会うんだろうなとは思っていた、何時まで経ってもここに来るんだとも言っていたから。 「また来たのか、何が有ったんだ?」良平さんが当たり前に聞いている、これがいつもみたいだ。 「それがね、付き合って居た男が浮気者だったんだよ、女の方が少ない時代に何で浮気出来ちゃうのかな。」と答える。 はあと云う声が聞こえ
一切の発電が不可能になった20xx年。 一部の人間が、電化製品や必要な電気に関するあらゆる能力を手にすることになった。 人間の新しい進化の形である。 そして、ある男、三代という男が避雷針の能力を手にした。 雷が落ちれば全てこの男に集まる。 まさに、歩く避雷針。 三代の仕事は、自身の体に溜まった少しの電力を、いろいろなところに供給するために、日々歩き回るというものであった。 三代の人気は凄まじく、一部の地域では神と崇められている。 そんなこの男にも悩みはある。 雷が落ちる時に人
「離婚届はどこでもらえますか?」 離婚届の所在を探すことになるなんて、人生は分からないものだ。それは所得証明や戸籍謄本などの申請書が並べられている台には見当たらなくて、女性職員にまた尋ねた。 「こちらです」 彼女はさっき所得証明申請書の置き場所を教えてくれたときと一ミリも変わらない表情で、離婚届の場所も素早く教えてくれた。いや、もしかしたら彼女の表情は数ミリくらい動いていたかもしれない。冷静なつもりの自分がほんの少し動揺していて、その表情の変化を見落とした可能性がある。
(公園のベンチで深刻な表情をしてる青年が座っている。) 青年 語り・もう会社には行かない。いいんだそれで。自分が行ったところで誰かの役に立つわけじゃない。変わりはいくらでもいる。 (携帯の振動が止まらない。) 青年 語り・この振動も少ししたら止まる。知ってる。無断で休んだ相手に連絡を入れる業務を淡々とこなしていることも。 (携帯の振動が止まる。) 青年 語り・ほら。自分なんて誰も必要としていない。必要してるふりをみんながしてるだけで、自分なんて誰も。 (青年の目か
令和3年3月17日(水)「ダチがヤバい」水島朋子 「上野、聞いたか?」 あたしは登校してきたばかりの上野ほたるに声を掛ける。 彼女はこちらをジッと見つめ、動きを止めている。 その反応にあたしも言葉に詰まる。 上野に人並みのリアクションを求めてはいけないと分かっていても、つい期待をしてしまう自分がいた。 「沖本がお前に対抗してファッションショーをやるって言い出したって」 あたしは昨日久藤先輩から聞いた情報を上野に伝えた。 帰宅後にLINEには記しておいたが既
一鉄には好きな女がいた。それも夜の女だ。はまってしまってはいけない。そんな思いは一鉄のなかにもあった。しかし、恋というのはどうしようもないもので、だれにも止めやできないものであるのも確かだった。 「すいません」 「いらっしゃいませー」 彼は花屋に来ていた。もちろん、その好意を抱いている女性にあげるために、花束を買おうと思ったからだ。花屋独特の植物の甘い香りに誘われて、ショーケースの前で立ち止まった。赤すぎない、ピンクとも呼びがたいバラが、咲いていた。 (このバラなら、みゆ
権利って、どうしたら、主張ができるの? 当然の権利って、なんですか? そう考えると、色々なものが見えてくるような気がします。 簡単なお話をしましょう。 投票で決まった総理大臣。 総理大臣を決めたのは、議員。 議員は、国民が選んだ。 投票で。 投票をした人間は、政治に口を挟む権利がある。 では、私はどうだろう。 私は絶対に投票をしないと決めていて、なぜなら、別に、投票したところで世界は100パーセント変わらないから。 そして、時間の無駄。 その時間がある
前回の桜の季節はこちら。 桜の精は語り始めた。 「あれは70年ほど前の事になります。涼しくなり始めた秋の事でした。庄ちゃんの住んでいるこの家を改装する事になり、庭も無くしてしまう予定の為私を切ることになりました。」 過去の桜庭家中庭。桜の木の前に立ち塞がる1人の少年がいる、幼少期の庄之助だ。 『ダメだよ!この木は僕の友達なんだ!お願いだから切らないで!』 「当時まだ小さかった庄ちゃんは何度も訴えてくれました。しかし、伐採は中止にならず庄ちゃんのご両