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若月房恵
2024年10月4日 19:55
雪のふる日の、松本の、 千歳橋を越えて、ちょっと遠いけれど、あがたの森を目指して。中町を通っていこう。それからちいさな道をくねくねと、美術館まで出られたらいいな。白い雪をかぶると、草間彌生の毒々しいオブジェは静謐に、ふしぎとうつくしく見えるから。そこからは大通りをまっすぐに、ヒマラヤ杉の木陰の、松高跡へいこう。 やわらかな雪が、すこしずつコートを濡らしてゆくから、通りを歩きながら、傘
2023年12月30日 20:29
山を下りてゆくと、ちいさな菜園がみえた。竹のはやしに囲まれて、瓦葺きの農家がたった一軒、谷戸の奥に建っている。湿った風が斜面をふいてゆく。きれいに立てられた畝に、太った白菜が育っているのを、わたしは階段のうえからぼんやりと眺めた。 畑には、頑丈な身体に、粗末な服を着たひとがいた。鍬から手を離すと、彼はわたしに呼びかけた。やさしくて、なにかを思い出すような声だった。名まえを呼ばれて、畑にあ
2024年1月15日 01:01
『わたしは日々、死んでいます』 第一コリントの手紙15:31『わたしはキリストと共に、十字架につけられています。生きているのは、もはやわたしではありません』ガラテアの手紙2:20 トン、トン、トン、と音がする。思っていたよりも穏やかに、やわらかな調子で、釘が打ち込まれていく。わたしの魂に、あのかたの手で。 初めの衝撃はもう去って、いまは疼痛のように、ただ釘の打ち込まれた点