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『正体』と『太陽』が合いすぎて切ない

11/29に上映予定の映画 正体。
いよいよ今週末から各映画館にてお披露目となる。

ネタバレも含まれるため、以下は自己責任でお願いしたい。

ざっくりとしたあらすじ。

鏑木慶一は、とある家に忍び込み一家を無差別に殺害した容疑で逮捕され、死刑を申告される。
彼は当時18歳。未成年での死刑判決は世間を賑わせた。
そんな中、死刑囚となった彼は脱獄する。

工事現場の作業員、フリーライター、工場、スキー場の住み込み、そして、介護士。
彼は、正体不明の人物として職業を変えながら場所を転々とする。
名前を変え、生き永らえる鏑木。
各職場で出会う人たちは、彼に殺人犯としての疑問を抱きならがも彼の優しさや真面目さにその真偽を信じられずにいる。

彼はものすごく優しく、人思いの青年である。
村八分され逃げるように出てきた青年。
不倫を8年も続けたうえ、婚期を逃した30代の女性。
痴漢の冤罪で弁護士資格を剥奪された年配男性。
家庭事情に悩まされ、不幸を背負う中年女性。
そして、夢を追いかけ進学するも現実に打ちのめされ、老人の介護で施設で働く10代女性。
それぞれ苦しみを背負って生きている中で、この謫木と出会う。
常に優しく、人の心に残る鏑木の行動の1つ1つが、彼らの苦しみを和らげてくれる。

そんな生活を続けていく彼の正体。
それは、冤罪事件で捕まった死刑囚であった。
彼が脱獄した理由は、冤罪を晴らすため。
真実を知る1人の女性を探し求め、冤罪だということを世間示すため、彼は苦しい生活を続けてきた。
しかし、その女性は若年性アルツハイマーを患っている。
彼女の証言が、彼を救うことはなかった。
そして、彼は最期に冤罪の死刑囚として、死刑ではなく銃殺によって亡くなる。
しかし、残された人たちで冤罪の可能性を求め、彼の名誉のために、裁判を行う。
そして、彼の死後、冤罪という判決を勝ち取る。

ざっくりとこんな話である。
この話は率直にかなり悲しい。
クライマックスでは涙が止まらない。
真実を知った時、あなたの目には涙が溢れていると思う。
彼の行動の優しさ、人を助ける行動の数々が居た堪れなくなる。
そして、救われなかった命。
しかし、死後、彼の名誉は救われる。
ここに、太陽があるのだ。

太陽は沈み夜がやってくるが、必ず日は昇る。
ほぼ不変的に太陽は私たちに朝を告げてくれる。
鏑木が亡くなったあと、彼の名誉が戻ったことに太陽の重なりを感じる。

また、太陽は私たちに柔らかく暖かな陽射しを照らしてくれる。
彼の行動が、周りの苦しみを背負った人たちを、何も語らず無慈悲に愛を授けてくれたように。
そうした、愛の1つ1つが紡がれて、繋がり、無罪の勝ち取りとなる。

そして、太陽の歌詞は、陽光を蝶に見立てて表現した詩。
古くから蝶は輪廻や変化の象徴として、使われてきた。
鏑木が名誉挽回を死後ながらも手にしたこと。
そして、残された人々が鏑木に救われて繋がること。

あぁ。まさにそうなんだ。
この物語自体が蝶なんだ。
感嘆の声が漏れる。

彼はまるで、自分の歩く道に優しさという轍を置くように、場所を転々としながら生きている。
本当に名前も知られずに、ただただ美しい彼の行動。
それは、ヨルシカ 太陽の歌詞にぴったりだった。
太陽は以下の一節から始まる。

美しい蝶の羽を見た
名前も知らずに

ヨルシカ太陽より

これは、出会ってきた人の立場から見ると、鏑木はまさに美しい蝶であったと思う。

また、下記のような二節。

砂漠の砂丘を飲み干してみたい
乾きの一つも知らずに

海原を千も飲み干していく
少しも満ちるを知らずに

ヨルシカ 太陽より

これは、人の渇望を表現したような言葉。
鏑木の冤罪を証明したい執念と最後まで諦めなかった姿勢。
それぞれの職場で出会った人が持つ不満と満たされない欲望。
これらを表すために自然と対比し、表現された言葉の選定に心が躍る。

次に下記の二節。
蝶の羽を自分につけて、蝶として羽ばたく様子。
そして、速度の変化にも着目したい。

美しい蝶の羽を私につけて
緩やかな速度で追い抜いてゆく

美しい鱗の粉よ地平を染めて
あり得ない速度で追い抜いてゆけ

ヨルシカ 太陽より

美しい羽を広げて、緩やかな速度で追い抜いて行く。
これは、鏑木の行動を事実ベースで表現したように感じる。
一方、2つ目の歌詞。
美しい鱗の粉よ地平を染めて、あり得ない速度で追い抜いてゆけ。
これは、鏑木に支えられた人の願い。感情ベースの表現のように感じる。
彼の行動が、彼を思う気持ちへ。彼を信じる思いへの変化をここでは感じる。

そして、サビの二節。

ゆっくりゆっくりとあくびの軽さで
行ったり来たりを繰り返しながら

ひらりひらりと木洩れの光で
行ったり来たりを繰り返しながら

ヨルシカ 太陽より

彼が蝶のように羽ばたく軽やかさ。光に照らされるような美しさ。
そして、迷い躊躇い、恐れ、でもしっかりと進む彼の様子が見えてくる。

そして、最後の歌詞。
この全てを聞いて、彼の許されなかった日々や命を思わずにはいられなかった。
あぁ。彼はどうして生きられなかったのだろうか。
月日が流れるような、彼が旅立つような悲しい歌詞ではあるが、暖かなメロディが包んでくれた。

私が歩いた道も、私の足も
私が触った花も、私の指も
私が死ぬ日の朝も、その他の日々も
緩やかな速度で追い抜いてゆく
ゆっくりゆっくりとあくびの軽さで
行ったり来たりを繰り返しながら
ゆっくりゆっくりと彼方へ
恐る恐ると羽を広げながら

ヨルシカ 太陽より

この記事を書きながら、実は泣いている。
涙が止まらなかった。
正体の世界観と太陽がマッチしすぎていて。そして、太陽の美しい歌詞が謫木をも優しく包むように。
映画もぜひみに行こうと思う。
長くお付き合いありがとうございました。
ぜひ太陽も聴いてみてください。


映画特別版のMVも公開されてました!
ぜひこっちもチェック!
二回目の掲載ですが、泣けます。。。

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