もめにもめていた味噌
ホワイトデーに、名古屋支店の方からこちらをいただいた。
いつも、自分が所属している土地の限定品をくださる方だ。
今年はとくにザ・名古屋だし、クッキー缶がものの数分で完売することでちまたをにぎわせている、あのカフェタナカ。
シンプルなパッケージに、金のしゃちほこ、西尾抹茶、八丁味噌と、名物がてんこもり。
ところで八丁味噌、名前はよく聞くものの、味や実体はよく知らない。
東日本で生まれ育った関西人のクォーターゆえ、自分がどの味噌派閥に属すのかよくわからない。
名実ともに合わせ味噌の人生を送ってきた。
フィナンシェ片手に、スマホに指を滑らせる。
味以外にも、酸味と渋みが効いていた。
商標問題はこうだ。
1981年に、発祥の地である岡崎市八帖町の老舗が《八丁味噌》を含む自社名を商標登録申請。
しかし許可がおりず、約10年争ったのち「八丁味噌は普通名称」として東京高裁が却下。
2006年に地域団体商標制度がはじまると、再度申請した岡崎市八帖町の2社に対し、愛知県全体の業界団体が「2社独占は解せない」と不服申し立て。
2022年時点で、双方とも商標認定はされていないという。
一方、地理的表示(GI)保護制度は、まずその名が聞きなれない。
というと、春眠暁を覚えず、処々啼鳥を聞いてしまう。もう降参。
かいつまむと、一定の要件を満たせば、その地域のブランド品であることを国が守ってくれる制度である。
夕張メロンや神戸ビーフが代表例だ。
こちらも、岡崎市八帖町の2社と、2社が属さない愛知県全体の業界団体がもめているという。
岡崎2社は、生産地の範囲を《岡崎市八帖町》に限定して申請、業界団体は《愛知県全体》で申請したためだ。
農水省が「こうしてもらえない?」「この案はどう?」と間に入るもうまくいかず、結局《愛知県全体》を生産地として八丁味噌がGI登録された。
八丁味噌の元祖たる岡崎2社は、2026年以降、GI認定としての八丁味噌は名乗れなくなるのだという。
かなり端折ってまとめたが、長期にわたってもめにもめているし、味噌以上に熟成されている。
フィナンシェ片手にスマホを眺めているようなこたつ勉強でも、元祖が法的に八丁味噌を名乗れなくなるのは、なにかがおかしい気がする。
ちなみに、西尾抹茶もかつてGI登録されていたが、こちらは生産者団体がみずから取り下げたとのこと。
西尾の抹茶は、そのまろやかな風味を守るため、日差しをさけた覆いの下で時間をかけて育てられる。
ブランド化で高値の取り引きを期待したが、現在の生産方法では低コストでの流通や販売ができず、登録削除依頼があったそうだ。
味噌と抹茶、どちらもその豊かな風味でひとを癒してくれるというのに、制度面ではなかなか世知辛く苦労されている。
またひとつ勉強になったし、知らない側面を知ることができた。
ところでフィナンシェの肝心のお味は、味噌のほのかな塩味と抹茶のふくよかな風味がバターの香りと調和していて、まろやかな味わい。
八丁味噌はいうほど酸味も渋みもなく、ほどよく香ばしい。
どちらもやわらかくてしっとりしており、穏やかな時間が過ごせる。
こちらはうまくやれているようでなによりだ。