あらすじ 角の生えた少女は歩く。 左右を自販機に挟まれた、果てなき長い道を。 最後に何が待つのかを知らず、何故進むのかも分からず。 それでも進む。まるでそのように創られたかのごとく。 左右に並ぶ自販機で何でも買える。 ご飯も、飲み物も、テーブルや椅子やベッドだって買える。 生きる為に必要な物は何でも揃う。困らない。だから進める。 ずっと前だけを向き、進み歩んできた少女は。 ある時ふと思いつく。 自分の背後、これまで歩んできた道は、どうなっているのだろうかと
あらすじ アメリカで語学講師を務める、着物姿の日本人男性。日本語、英語、ドイツ語のトリリンガルである彼は、その卓越した語学力と特徴的な外見から人気の講師。授業を受ける者達からは【侍ティーチャ】と呼ばれるが、彼自身は、忠義を尽くすと誓う相手が不在の場合、侍ではなく浪人が正しい呼称である、と説き、自身を侍ではなく浪人だと日々訂正をしていた。ある日、授業を受けていたドイツ人女性から着物姿で授業を行う理由を問われ、互いの身の上を明かし合ったことから、その女性と恋仲に発展してゆき……
あらすじ 高校受験を目前に、日々の抑圧的な空気に嫌気が差した学生は学校をさぼり、幼い頃に遊んだ山へとやって来た。そして幼い頃には恐ろしくて入ったことのなかった、山を抜けるトンネルへと侵入する。その先に待つものとは……。 想起する。 抑圧と解放の対比を。 放棄する。 課せられた義務と当てつけの未来を。 体感する。 しばしの自由と断片的な自然を。 回顧する。 小学生の頃に遊んだ際の記憶と、このトンネルとの思い出を。 住まう街の末端、人気が全くない県境にそびえ
あらすじ パーソナルトレーニングジムで働くトレーナの女性は、社会の抑圧と日々の労働に疲れ、社会の仕組みにも辟易していた。そんな中、ジム内でこれまでにない揉め事が起きてしまい……。 「人生に満足していますか?」 かけられた声に反応して顔を向けると、そこには壮年の男性が立っていた。 静かな笑みをたたえた、どこにでも居そうな、大人しい恰好の男性。 でも、今しがた私にかけた言葉の内容的に、宗教勧誘か、マルチ商法の営業に思えたので、私は顔を背けて無視することに決めた。 けれ
あらすじ 幼い子が自宅に帰った。 元気良く 「ただいま!」 でも、返事はない。 お母さんいないみたい。お買い物かな。 ジュースを飲んで、ゲームをして、帰りを待つ。 全然、帰ってこない。晩御飯はいつになるのだろう? トイレに行って、手を洗って、ふと思いついて、お風呂場の扉を開けた。 そこに、知らない男の人がいた。 その人は自分の口元に人差し指を当ててから言った。 「失敗したね。あと一回だけ、やり直しのチャンスをあげよう」 勢いよく扉を開けて家に入る。 玄関
あらすじ 自分よりも歳上の男性と会い、食事をする、規格外に美人な若い女性。女性は男性を口説くような文句を並べ立て、男性はそれに気を良くし、女性の魅力に飲まれていく。女性が口にする確認のような文言。それらに順に頷いていった男性は突然、気を失ってしまう。彼女の真の目的は、その先にあった……。
梅雨に退路を断たれた、あの日。 私よりも大人の貴女は、泣き崩れる私を見つけた。 運に左右される、弱みにつけ込まれての触発だった。 貴女は、私の表情と胸の中の揺らぎを確かめると。 理由も聞かずに、私を抱きしめて唇を奪った。 そんな強引な上書きで、見事、私を虜にしてみせた。 まだ幼く、未だ脆く、大人と子供の狭間で泣く私。 孤独から共存と依存、再びの孤独を知った私。 そんな私を貴女は求めた。他でもない私が良いからと。 夢中の宵薗。コンクリートの別室。欲という蔓で縛り惹き。 よがり啼
間隔が開き過ぎの停車。 空が長く暗い季節にて。 孤立という輝きに笑み。 外積する雪の力と包囲。 冷感の印象を熱で発散。 ストーブの灯りで揺影。 野蛮な視線からの開放。 打ち吹く無秩序もなし。 排他の悪意には飽きた。 殻だけ繕う偽善の悪よ。 仄かな拒絶に歪む口元。 いっそ誇示すればいい。 拒絶と相性の不適合を。 いっそ誇張すればいい。 群に加えぬ抵抗の意を。 付き纏う正が私を殺す。 首を絞める、躊躇わず。 人間性の欠片を喰わし。 愛の枝分か
森の中で忘れられた鉄の箱。放課後は制服姿で忍び込み、休日は朝から入り浸る。 好きな御菓子を鞄に詰めて、水筒に紅茶を注ぐ校則違反。土日は御弁当まで持参。 雨が降った翌日は、辿り着くまでの間、黒のローファに泥が付いてしまうけれど。 学校指定の制服や、お気に入りの私服まで、意図せず頻繁に汚してしまうけれど。 些末な汚れや気づきなんて、どうでもいいや、と払えるくらいに、魅力的な場所。 尽きないお喋りをしながら、貴女と共に過ごす。隣り合って、頭を擦り合わせて。 白くて綺麗な貴女の手を握