いつまでも童話

あらすじ
 角の生えた少女は歩く。
 左右を自販機に挟まれた、果てなき長い道を。
 最後に何が待つのかを知らず、何故進むのかも分からず。
 それでも進む。まるでそのように創られたかのごとく。
 左右に並ぶ自販機で何でも買える。
 ご飯も、飲み物も、テーブルや椅子やベッドだって買える。
 生きる為に必要な物は何でも揃う。困らない。だから進める。
 ずっと前だけを向き、進み歩んできた少女は。
 ある時ふと思いつく。
 自分の背後、これまで歩んできた道は、どうなっているのだろうかと。
 疑問の感情に従い、振り返った少女が見たものとは……。


 歩く、歩く、少女は歩く。
 二本の角が生えた頭を揺らしながら、ゆったりと。
 道は真っ直ぐ 天気は陽気 雨風なんてすっかり忘れて。
 伸びる 伸びる 道は先へと伸びている。
 どこまでも、どこまでも、長く、長く、ずっと遠くまで伸びている。

 右を見れば、飲み物の自販機 喉が渇いたな ジュースを飲もう。
 左を見れば、ご飯の自販機 唐揚げのお弁当だって買えちゃう優れもの。
 椅子に座って食べたいな テーブルも欲しいな それも次の自販機で売ってるよ。
 ピッとボタンを押すだけで、椅子もテーブルも出てくる とっても便利だね。
 ご飯を食べながら、私は考える。

 この道はどこまで続いているんだろう。
 終わりはいつ頃になるのかな? 最後には何があるんだろう?
 沢山のお金かな? 沢山の御菓子かな? とにかく私の好きなものが沢山置いてあるといいな。
 でも、ふと気づくんだ。
 欲しいものは、私の左右に並ぶ自販機でいくらでも買えちゃう、って。
 それなら、私はどうして歩いているんだろう? どこを目指しているんだろう?
 
 まあ、いいや また今度考えよう、って決めて、私は立ち上がって歩き始める。
 お日様が見ていてくれるから もう長く独りぼっちだけど、寂しくはない。
 並ぶ自販機には 本当に色々な物が売られている それを眺めながら歩くから退屈しない。
 ずっと先まで伸びる道を 進む 進む 陽が隠れて、暗くなって、夜が来るまで。
 夜が来たら、お休みの時間 自販機でお布団を買って、ベッドも買って、道の真ん中で寝るの。
 
 おかしいでしょう? 可笑しいでしょう? でもね、これが結構、楽しいんだ。
 夜空いっぱいのお星様を数えて 時々の流れ星にお願いをして 夜でも退屈なんてしない。
 大きなお月様が見ていてくれるから 寂しくもない 夜でも私は独りじゃない。
 シーツを胸まで引っ張り上げて、また考え始めるんだ。
 明日には、どこかに着くかな、って。そこには何があるのかな、って。
 考えているうちに眠くなって、私はいつもそこで寝ちゃう。

 朝になると、すぐに分かる お日様が、もう起きなきゃだめだよ、って教えてくれるから。
 自販機で歯ブラシと歯磨き粉を買って 私は歯磨きをする その次は、シャワーを浴びるの。
 これは自販機じゃなくて、私より大きな箱に入ってボタンを押すと、お湯が出る仕組み。
 頭を洗って、身体を洗って、身体を拭いて、髪を乾かして、服もお着替え。
 シャンプーも、ドライヤも、タオルも、新しいお洋服も、全部自販機で買えちゃう。
 なんでも出てくるから、本当に便利 手に入らないものなんてない。

 そうしてまた、私は歩き出す。
 道の先へ 知らない場所を目指して 進み続ける。
 歩いて、歩いて、前だけを見て、ずっと先まで伸びる一本道を進む。
 ふと、思いついた。
 思いついてしまったんだ。
 これまで歩いてきた道は、どうなっているんだろう、って。

 私は振り返った。
 歩いてきた道を。
 これまでしたことのなかったことをした。
 歩いて前へ進むことはあったけど、振り向くことはしなかった。
 どうしてだろうね? 不思議だ。私にも、理由は分からない。
 でも、でもね。

 こんなこと、しなければよかった。
 気づかなければよかった。
 知らなければよかった。
 知りたくなかった。
 こんなこと……。

 私の後ろに道はなかった。
 私の後ろには何も無かった。
 本当に何もない。無の空間。
 真っ白ですらない。
 後ろは存在しない。

 私の前にばかり、道が伸びていたんだ。
 前へ伸びて、後ろは縮んで、また前が伸びる。
 その繰り返しだったんだ。
 こんなの、終わるわけがなかった。
 いつまでも繰り返し。ずっと、ずっと、どこにも辿り着けないまま。
 じゃあ、私は、何のために歩いてきたの?

 どうして私は、こんなところにいるの?
 どうして私は、進まなくてはいけないの?
 どうして私は、独りぼっちなの?
 どうして私は、寂しい思いをしなくちゃいけないの?
 どうして私は、こんな目に遭わなくちゃいけないの?

 ずっと独りぼっちで寂しくないわけない。
 ずっとこんなことが続いて、平気なわけない。
 ずっと終わらないのに、同じ毎日に飽きないわけない。
 ずっと誰にも会わずに、誰とも話さずに、自販機と空だけがお友達なんて。
 ずっと耐えられるわけがないじゃない。角が生えていたって、私は人間なのに。

 私は泣いた。道の真ん中で、大きな声で、わんわん泣いた。
 私は叫んだ。もう嫌だって、こんなこと終わりにしたい、って。
 私は暴れた。ものを投げて、自販機を壊して、自分の手が怪我をしても構わずに。
 私は疲れた。どんなに怒っても、悲しんでも、何も変わらない。誰も助けてくれないから。
 私は……。

            ※

 気づいたみたい。
 とっても賢い子。
 でもね、可哀想だとは思うけど、終わりにしてあげることはできないんだ。
 だって、道を伸ばすことを止めてしまったら、君はそこから出てきちゃうから。
 童話の主人公が外に出てきちゃったら、物語そのものがなくなっちゃうじゃないか。
 だから、伸ばし続けるしかないんだ。道も、未来も、ずっと先まで、これからも永遠にね。

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