余り詩
梅雨に退路を断たれた、あの日。
私よりも大人の貴女は、泣き崩れる私を見つけた。
運に左右される、弱みにつけ込まれての触発だった。
貴女は、私の表情と胸の中の揺らぎを確かめると。
理由も聞かずに、私を抱きしめて唇を奪った。
そんな強引な上書きで、見事、私を虜にしてみせた。
まだ幼く、未だ脆く、大人と子供の狭間で泣く私。
孤独から共存と依存、再びの孤独を知った私。
そんな私を貴女は求めた。他でもない私が良いからと。
夢中の宵薗。コンクリートの別室。欲という蔓で縛り惹き。
よがり啼く私を、貴女は眺め嗤う。実に満足そうな歪んだ口元。
今なら分かる。ようやくに知った。手遅れと。
身体中に挟まった後悔が、私を若いまま腐らせる。
騙して折らせた唯一の鍵が、繋ぎ留める最後だったろう。
透明の蜜。甘い痛み止め。いじらしく染まる真夜中。
貴女は私を嘘で抱く。その両手は空いたまま。
「大好きよ、貴女が女だから」
渡される言葉は歓喜の呪い。
諦め切れず、ほだされ続ける。憐れにも。
愛を与えられている最中、頻繁に鳴る電子音。
度に愛は途切れ、私は代わりに哀を視る。
他所に誰かが居る、その影を認めつつ。
それでも、貴女から離れられない。
「信じるよ。だから、私を捨てないで」
何度、口にしただろう。無味の縋り。
私が嫉妬に狂い、憎しみに吠える、その日まで。
貴女を手にかけ、地獄の縁へと突き飛ばす最期まで。
大らかに、艶やかに、喜々過ごしましょう。
解も、正も、有耶無耶のままに。
愛と、命を、先延ばしにして。
【緑の密会】→【雪国の合間】→【余り詩】の順が私の意図する物語展開列順です。
綴った文章を読んでいただけることを嬉しく思います。またこの三作品を通して私の創作世界観を気に入っていただけたなら幸いです。
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