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■春の桜を愛でる気持ちはどこからやってきたのか―『100分de名著 古今和歌集』

国語の記事を書くようになって、改めて感じたことがあります。それは「義務教育で教えられる内容の濃さ」です。

たとえば。

今回話題に取り上げる『古今和歌集』。かなり多くの人が、これが平安時代の和歌集であることを知っています。また、

◇花の色はうつりにけりないたづらにわが身よにふるながめせしまに(小野小町/春下113)
◇世の中にたえて桜のなかりせば春の心はのどけからまし(在原業平/春上53)

『古今和歌集』に収められている二首です。そのどちらの歌にせよ、歌そのものや歌の意味するところを、多くの人が何となくは知っています

それって、とてもすばらしいことだと思うのです。

この二つの歌も『古今和歌集』も、どちらもおそらく、教科書に載っていなければ出会うことはなかったでしょう。私たちの感情のルーツであるのに。いえ、だからこそ、教科書にさらりと載せてあるのでしょうし、私たちはそれに触れる機会を得られているわけです。

そう考えると、義務教育の内容ってものすごく練られているのだなと改めて感じ入ります。

そこからもう一つ、話を進めます。

先に挙げた二つの和歌について。私たちがこれらを習うのは中学生時分です。ですから、ほとんどの人はこれらの和歌と出会ってから、ずいぶん長い時間が経っていることでしょう。でも、多くの人が意外と何とはなしに、あるいは断片的にでも、それらを覚えている

その理由って何だろうと考えると、一つには、現代の私たちが季節に対して感じていることと、これらの和歌の表すものが、大きく重なっていることがあるのではないかと思うのです。

では、なぜ重なるのか。1000年以上前に詠まれたものと、現代の私たちを繋ぐ鍵は何なのか。

今回はその鍵を手に入れるヒントが満載の『100分de名著 古今和歌集』をご紹介します。



■『100分de名著 古今和歌集』について

■渡部泰明 著
■NHK出版
■2023年11月発行
■600円(tax in)

千年以上も前の歌が、
私たちの心に響くのはなぜか?
日本的美意識の精髄が詠み込まれ、
和歌史において特別な位置を占める勅撰集。
千百首に及ぶ入集歌の中から名歌六十余を厳選し、
作者の心情を読み解きながら歌の調べを味わいつくす。


■『古今和歌集』について

まずは、『古今和歌集』についておさらいしておきます。

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