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僕は、フランスの小さな街で暮らす留学生だ。 「留学生」という言い方はいささか正直ではないかもしれない。 学生として大学には通っているが、僕の生活はおおむね気ままなものだ。 僕の住む町は片田舎の小さな町だけど、フランスではどこにいても独特の「空気感」が漂っていて、どんな場所も少しだけ物語の舞台に見えてしまう。 カフェのテラス席。古びた本屋。通りを吹き抜ける冷たい風。 どれもが僕に、「書くべき何か」があると静かに告げてくる。 ここは、僕が作家になるためのステージだと思っている。
僕が住んでいるのはフランスの田舎町だ。 地図を広げれば、パリから電車で二時間ほどの位置にある場所で、いかにも時間が止まったような古びた街並みが続く。 その中でも僕の住むアパルトマンは雑踏から少し外れた静かなカルチエにある。 風が窓を軽く叩く音や、日が傾くにつれて響いてくる教会の鐘の音が心地よい。 小説家を目指している僕にとって、ここはちょうどいい隠れ家だ。 物語の筋を考えながら朝のカフェオレを飲むとき、時折、ここが本当に現実なのか疑いたくなるほど穏やかで静かだ。 このアパル
生きていると僕たちはしばしば試練の中に放り込まれることがある。 フランスで生きる異国人はそんな「試練」の中で溺れそうな感覚の中でもがいている。 そして母国の平和や文化や便利さを再認識する。 確かに不便が楽しい時期もある、だけどそれは一瞬だ。 旅人として訪れる異国の地と、暮らしてみての試練。 そんなことを考える、僕のフランスの田舎町での生活だ。 フランスの食卓で試される覚悟 フランス料理と聞くと、多くの人がシャンパン片手に高級フレンチを楽しむ光景を想像するだろう。 けれど、
フランスという国は、おそらく僕が日本で抱いていた幻想とは少し違う場所だった。 特にパリ以外の田舎町は、最先端のファッションや洗練されたグルメやきらびやかな観光の気配も薄く、平和で静かで無骨な空気が流れている。 逆に、パリではセーヌ川に映る街灯のきらめきや、カフェのテラスから聞こえるフランス語の響きが心地よいのだが、住むものを拒絶するような一種の排他的な空気が漂う。 その感覚がただの観光で訪れた僕の胸の、どこか柔らかい部分に触れることは、確かにある。 でも、それは僕が日常として
なぜフランスなのか、と聞かれることがある。 そのたびに僕は少しだけ考え込む。 フランスにはもちろん、表向きの理由がある。 学部留学だとか、語学の勉強だとか、そういった分かりやすい理由だ。 でも、本当の理由はそれだけではない。 僕にとってフランスという国は、心をざわつかせる空気が漂う場所だ。 それはパリのカフェテラスの風景かもしれないし、リヨンの石畳に残る雨の匂いかもしれない。 あるいは、地方の静かな街並みに響く教会の鐘の音かもしれない。 どれもが、それぞれの形で僕の心を揺ら
高校時代の僕は、どこにでもいる普通の高校生だった。 特別目立つわけでもないし、特別ひっそりしているわけでもない。 ただ、どこかで自分の中に、説明のつかない空洞みたいなものを抱えていた。 その頃、僕は何かになりたいと思っていた。 でも、何になりたいのかはわからなかった。 小説家かもしれないし、音楽家かもしれないし、何者にもなれないまま、ただ時間が過ぎていくのかもしれない。 「何かになる」というのは、頭の中でぼんやりとした目標のようなものとして存在していた。 でも、それが具体的
フランスの街角を歩いていると、不意に足を止める瞬間がある。 その理由を言葉にするのは難しい。 ただ、何かが気配のように胸をかすめるのだ。 その日もそうだった。 秋の風が冷たくて、コートの襟を立てながら石畳の道を歩いていた。 カフェの香りがふっと漂ってきたのを感じて、足が止まった。 小さなカフェのテラス席に、一組の男女が座っている。 男がカップを両手で包み込み、女はテーブルに頬杖をついて、少しだけ体を傾けている。 何かを話している。 会話の内容は聞こえないけれど、その距離感
僕が住んでいるアパルトマンの階下には、こじんまりとしたブーランジェリーがある。 朝から晩まで、小さな窓の向こうでせっせとパンが焼かれている。 だから、玄関のドアを開けた時、エレベーターで加工する時、いつだってほのかに焼き立てのパンの香りが漂ってくる。 それは、温かくて柔らかくて、ちょっとした幸せを届けてくれる香りだ。 この匂いを嗅ぐたびに、僕は思う。 たぶん、この建物に住んでいる全員が、この香りにやられているんだろうなって。 どんなに意志が強い人間でも、毎朝バゲットの香り