秋風、カフェの香り、そして少しの決意
フランスの街角を歩いていると、不意に足を止める瞬間がある。
その理由を言葉にするのは難しい。
ただ、何かが気配のように胸をかすめるのだ。
その日もそうだった。
秋の風が冷たくて、コートの襟を立てながら石畳の道を歩いていた。
カフェの香りがふっと漂ってきたのを感じて、足が止まった。
小さなカフェのテラス席に、一組の男女が座っている。
男がカップを両手で包み込み、女はテーブルに頬杖をついて、少しだけ体を傾けている。
何かを話している。
会話の内容は聞こえないけれど、その距離感や空気の柔らかさに目が引きつけられた。
特別なことは何もない。
ただ、そういう風景だ。
けれど、なんだか頭のどこかで「これがフランスなんだ」と思った。
これが僕が憧れていた場所で、憧れていた光景だ、と。
僕は少しだけ立ち止まり、その場を眺めていた。
それから、深く息を吸い込むと、また歩き出した。
作家になるためにここに来たんだろう、と自分に言い聞かせるように。
そんな気持ちが、頭の片隅でくすぶっていた。
アパルトマンに戻ると、外の冷たい空気が少しだけ懐かしく思えた。
部屋に入ってマフラーを外し、机に向かう。
PCを開き執筆ソフトを立ち上げた。
書き始めるまでに少し時間がかかった。
けれど、やがてペン先が紙を滑り始めると、少しだけほっとした気分になった。
外のカフェで見た二人の姿が頭の中に残っている。
その小さな記憶を、どうにか形にしたかった。
大したことじゃない。
でも、それが僕にとっては十分だった。
少なくとも、その夜の僕には。
これが僕の3記事目。
もしあなたがこんな僕を応援してくれるというのであれば、その旅路を少しだけ見守ってほしい。
どこかで、一杯のコーヒーと共に。
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