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隣人エルザとアパルトマンの午後

僕が住んでいるのはフランスの田舎町だ。
地図を広げれば、パリから電車で二時間ほどの位置にある場所で、いかにも時間が止まったような古びた街並みが続く。
その中でも僕の住むアパルトマンは雑踏から少し外れた静かなカルチエにある。
風が窓を軽く叩く音や、日が傾くにつれて響いてくる教会の鐘の音が心地よい。
小説家を目指している僕にとって、ここはちょうどいい隠れ家だ。
物語の筋を考えながら朝のカフェオレを飲むとき、時折、ここが本当に現実なのか疑いたくなるほど穏やかで静かだ。

このアパルトマンには、いくつかなじみの隣人たちが住んでいる。
今日は美しい隣人エルザの話をしよう。

この界隈で僕が一番最初に仲良くなったのは隣に住むエルザだ。
エルザという美しい名前は、どこか物語の中の登場人物を思わせる響きがある。
彼女はこのアパルトマンで一番エレガントな女性だ、と思う。
巻き髪をきれいに整え、リネンのシャツとフレアスカート。
足元は軽やかなバレエシューズか、あるいはヒールの低いパンプス。
それでいて、どこか無造作さを感じさせる彼女はいつかどこかの映画の中で見たような残像を感じる。


ここから先は、彼女と僕の少し個人的な物語が続く。たぶん、それは特別にドラマチックでもなければ、世界の何かを動かすような大きな話でもない。でも、もしあなたがこの静かなカルチエの空気や、カフェオレの湯気の向こうに浮かぶささやかな物語に興味を持ってくれるなら、ページをめくってくれたらとても嬉しい。


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