空海展【弘法大師 直筆の書】7年越しの聾瞽指帰‥風信帖の美しい訳文 奈良国立博物館
奈良国立博物館 生誕1250年記念特別展
「空海 KŪKAI―密教のルーツとマンダラ世界」で空海さんの直筆の書や触れたであろう物を間近で見ながら、会場の垂れ幕の言葉にグッときた
虚空尽き、衆生尽き、涅槃尽きなば、
我が願いも尽きなん
この世の全ての物が消滅し、仏法の世界が尽きるまで、
私は人々が救われることを願い続ける
開催概要
出品目録PDF掲載リンク
展示件数:115件(うち国宝28件、重要文化財59件)
前期と後期で大幅に違う
前期展示に行ってきたので
印象に残った展示について記録を残しておこうと思う
個人的に気になっていた書がメイン
※前期展示のみで後期展示にはないもの多数
展覧会の印象
やはり空海さんの直筆の書のインパクト。目の前にすると時空を超えて浸ってしまった。そして、空海さんと交流のあった人々との熱いエピソードを交えた展示に心を揺さぶられ、会場を出た後も余韻が続いた。幸せ疲労感。一生ものの展覧会だった
■展示構成
1.密教とは ̶ 空海の伝えたマンダラの世界
2.密教の源流 ̶ 陸と海のシルクロード
3.空海入唐 ̶ 恵果との出会いと胎蔵界・金剛界の融合
4.神護寺と東寺 ̶ 密教流布と護国
①高雄山
②東寺と護国密教
③多才なる人 ̶ 執筆活動
5.金剛峯寺と弘法大師信仰
■空海と密教
■心に残った展示【空海直筆】
(国宝)風信帖 空海直筆
平安時代(9世紀) 京都 教王護国寺(東寺)
前期のみ展示
空海が最澄に宛てた手紙
冒頭「風のような雲のような手紙が
あなた様から舞い降りてきました」
奈良国立博物館の現代語訳がとてもとても素晴らしかった。この訳文を通して直筆を間近でしかも初めて見ることができて最高だった。なんて美しくて爽やかな書き出しなのだろう。空海さんの透明感ある感性に感動して時空を超えて浸ってしまった。調べたところ空海さん40歳前後、最澄さん47歳前後。1200年前の素晴らしい交流、尊い…
(国宝) 聾瞽指帰 下巻 空海直筆
平安時代(8~9世紀) 和歌山 金剛峯寺
前期のみ展示
役人になる道を完全に断つという意思が感じられるタイミングで書かれた 空海24歳出家決意の書
(参考)別の展覧会で上巻展示の様子 空海展は下巻展示
現物を目の前に書のエネルギーに圧倒された
力強くて美しい。今まで見てきた書の中でこれ以上無いと思わせられる異次元の力。1200年の時を超越している。生きていてこれを見る機会を得られたことが本当に嬉しかった
空海展 書跡解説動画 「聾瞽指帰・三教指帰」リンク
語学や建築にも通じた天才であり書の名手でもあり、
この時代の最も秀でた3名(三筆)の一人…
スーパースター凄い
[参考]聾瞽指帰 ブラタモリ「高野山と空海」登場
2017年9月16日放送 ※2週にわたり高野山が特集された
画面越しで何度見てもあまりに感動するのでいつか現物を見たいと思い続けていた。ついに7年越しに直接見ることができた。このために東京から奈良まで行ったようなもの。プライスレスの感動
(国宝) 金剛般若経開題残巻 空海直筆
風信帖と共通する自然体の字で
金剛般若経を空海が解説した直筆の書
前期 奈良国立博物館所蔵(平安時代 9世紀)
後期 京都国立博物館所蔵(平安時代 9世紀)
↓ 画像は後期の展示部分
右)金剛般若経開題残巻
空海の加筆部分が分かる箇所 ↓
京都国立博物館所蔵 Google Arts高画質
前期で見た奈良国立博物館所蔵分の金剛般若経開題
展示の訳文に大事な言葉が書かれていてメモ
後期分は画像から確認
(国宝) 三十帖冊子 空海直筆
第二帖・第四帖 ・第二十帖・第二十七帖
平安時代(9世紀)京都・仁和寺
前期2帖 後期2帖 展示
空海さんが小さな紙に小さな文字でみっちみちに書いた冊子のうち30帖が現存するリアル感溢れる書物
国内最古の冊子本
↓参考このように字がびっしり(でも美しい)圧巻
東京国立博物館 特別展「仁和寺と御室派のみほとけ ― 天平と真言密教の名宝 ―」2018年1月16日(火)- 2018年3月11日(日)にて、三十帖冊子展覧会史上初めて全30帖一挙公開 ↓ 1089ブログ 分かりやすい解説記事
(国宝)大日経開題 空海直筆
平安時代(9世紀)京都・醍醐寺
前期のみ展示
空海が大日経の要文を抜出し、みっちみちに細かく書いた書物。筆跡は三十帖冊子の空海の字に酷似
会場で現物を見て、三十帖冊子のような密度の濃さで書かれた文字に圧倒された
(国宝)弘法大師請来目録 最澄直筆
前期 弘法大師請来目録(国宝)平安時代(9世紀)
京都・教王護国寺(東寺)
空海の目録を元に最澄によって書かれた写本
後期 弘法大師請来目録(重要文化財)平安時代(9世紀)
滋賀・宝厳寺所蔵 ※琵琶湖の竹生島の寺院
空海の目録をもとに空海周辺人物により書かれた写本
空海が「唐での活動内容」や「持ち帰った物の一覧」を記し朝廷へ報告した文書。それを最澄が書き写した写本であり二人の交流を示すもの
⚫︎東寺所蔵の国宝の方は最澄が書いた写本 要注目展示
⚫︎空海の帰国後、かなり早い段階で最澄はこの目録を入手し書写したという
会場では弘法大師と題名に書いてあるので空海さんの字だと思い込んで見ていた。最澄さんが空海さんから借りて書いたものだっとは
わずかしか残っていないという最澄さん直筆の字
認識しながら見たかった くぅ…
(余談)請来目録いろいろある
■心に残った展示【曼荼羅】
(重要文化財)両界曼荼羅《血曼荼羅》
金剛峯寺 平安時代(12世紀)
前期のみ展示
大河ドラマ「平清盛」で清盛が自身の血を混ぜて曼荼羅を彩色する場面があり、その元となった曼荼羅
●彩色本の原図曼荼羅としては現存最古
●平清盛が自らの血を混ぜ彩色したと伝わる
●空海が自ら制作に関わった神護寺の両界曼荼羅をお手本に作ったもの
●空海の死後もこの両界曼荼羅の表す思想が受け継がれていたことを示しているという
↑ 奥に展示されているのが 通称 血曼荼羅
■心に残った展示【写本】
(重要文化財)性霊集 巻第八
弟子の智泉の死を悼み、感情を直接的に表現することが多くない空海の悲痛な嘆きが繰り返される文章
音声ガイドを聞いて涙堪えきれず
▪️前期展示 性霊集 巻第八(写本)重要文化財
南北朝~室町時代(14世紀)
大阪 武田科学振興財団杏雨書屋
▪️後期展示 性霊集 巻第八(写本)重要文化財
鎌倉時代(13世紀)
京都 醍醐寺
人間離れした空海さんであっても、これほど人間的に嘆き悲しんでいた…音声ガイドを聞きながら堪えきれず涙が出てしまった。1200年前を生きた素晴らしい弟子の存在と師弟の関係に胸を打たれた。音声ガイドの女性の方の朗読が沁みた
(重要文化財)恵果和尚之碑文
前期 平安時代(12世紀) 京都 教王護国寺(東寺)
後期 南北朝時代 康永2年(1343)京都 教王護国寺(東寺)
空海が日本人でありながら4000人の弟子を代表して師である唐の恵果和尚の事績や生涯を中心に記した碑文(石碑に記した文章)
石碑はこのようなイメージだった模様 ↓
当日の展示はその石碑に書かれた文章の写本
1200年前、国も年齢も超え、輪廻転生を経てもなお繋がる師弟の深い深いやりとりに泣けた。中国にこの文章の石碑があったのだろうと思うと胸熱
(重要文化財) 即身成仏品
平安時代(10~11世紀) 和歌山・金剛峯寺
前期のみ展示
「長い間修行しなくてもこの身のまま悟りが得られる」
と、聾瞽指帰のような字で書かれた書
図録に画像が掲載されていないので記憶だよりだけれど
とても印象に残った。空海著作の写本
(重要文化財)秘密曼荼羅十住心論
巻第五・巻第十
平安時代 承安二年(1172年)京都 仁和寺
前期と後期で展示替え。空海が執筆したものの写本展示
空海の師 恵果は教えを書物として残していなかった
師から伝授された教えを
空海が人の心を十段階に分けて解説したもの
心の十段階の分かりやすい解説YouTube
【空海の遺言】「秘密曼荼羅十住心論』博士号を3つ持った恭ちゃんに教えてもらおう!
■音声ガイドの特典 空海の言葉
◼️近鉄奈良線から見えるただごとではない景色 平城宮を横切ってた
奈良博までのアクセスは京都駅で近鉄特急(橿原神宮前行)乗車、大和西大寺駅で下車。大和西大寺駅で近鉄奈良線(近鉄奈良行)に乗換して近鉄奈良駅で下車。徒歩15分で奈良国立博物館
大和西大寺駅から奈良博のある近鉄奈良駅の間、
大和西大寺駅から新大宮駅の間の区間はなんと
平城宮跡を横切るルート。奈良博に行く際に自動的に享受できる楽しみポイントだった
googleMAPストリートビュー
↓納得です、驚きました 笑
■さいごに
2024年幸せ過ぎる
最終的にどれくらいの方が空海展に足を運ばれたのだろう。初めて奈良国立博物館へ行けたことも嬉しかったし、記憶に残る一生ものの展覧会は最高だった。神護寺展も控えているのでまだまだ楽しみ続く。空海さん生誕1250年、神護寺誕生1200年、2024年はなんて素晴らしい年。幸せ
展覧会のこと 書の展示 訳文のこと
今回の奈良国立博物館の展示は、
展示物の魅力を存分に知ることができる構成だった
⚫︎密教の世界観を視覚的に理解できる迫力の展示
⚫︎とにかく音声ガイドの説明が良い
⚫︎とにかく書の展示の訳文の素晴らしさ
⚫︎売り切れるほど人気の図録 プライスレス
特に一般人が読めない漢文や崩し文字で書かれた書の下に局所的に訳文があったことが良かった。内容が分かり展示物との距離感がぐっと近く感じられた。やはり目にしたもの全ての内容を知りたいので、展示部分は全部訳が欲しいなと。難しい場合は図録に掲載して欲しいと願うばかり。展示に全文の訳が無いのは皆が読み込んでしまうことで渋滞が起きるのを避けるためなのか…? 展示物の見栄えをすっきりさせるためなのか…?図録に載っていないのは、訳のニュアンスが違うなどのクレームが来てしまうのか…?
歴史も背景も分かっていないレベルで、ふらっと展覧会に行った場合文字の展示を楽しむのは難しいので、何かしら興味がわくような訳文を…なにとぞ…なにとぞ
空海さんで頭いっぱい…ハッとした
空海さんが高野山の地で入定されていることを友人に何気なく話したところ、入定(瞑想のまま生きていらっしゃる)という状態にあることを全く知らなかったようで相当驚いていた。その反応を見てそういえば学校ではこの暗記止まりだったなと
空海 高野山 金剛峯寺 真言宗
最澄 比叡山 延暦寺 天台宗
自分もいつかのタイミングで入定されたことの意味を知り、その時相当驚いたことを思い出した。テレビで高野山の特集を見て感動して高野山まで足を運び、ブラタモリで高野山が出てきて喜んで見ていたくらいで、深いところまでは知らなかった。神護寺は昨年存在を知ったくらい。空海展に行きたいと思うほどの熱量になったのも、ブラタモリで聾瞽指帰を知り、ぶらぶら美術館で神護寺と灌頂歴名を知り、最近書に興味があって三筆(その当時の3大字が上手い人)のうちの一人空海といえば風信帖と目にするのでこれは絶対に行きたいと思うに至った。自分の中で空海さんの周辺知識が徐々に当たり前になっていたところで、友人の入定の驚きよう。そうだこれは自分の認識ほどには一般的ではないのだと気づかされた
■空海展 余裕のあった4月プライスレス
会期スタート4月13日から29日までの2週間だけ空海直筆の風信帖、聾瞽指帰、灌頂暦名(灌頂歴名)の3点が揃って展示されているタイミングがあった。こんなにとんでもない展示のラインナップにも関わらず余裕があるとの情報を目にしていた。この期間の平日に鑑賞していた人達、相当なプライスレス体験だったはず。羨ましい
◼️空海展 前期展示に足を運んだきっかけ
本当は3点(風信帖、聾瞽指帰、灌頂暦名)揃っている期間に行きたかったけれど、4月は行くことができず。灌頂暦名は東博の神護寺展に出るのでひとまず諦め、せめて風信帖と聾瞽指帰を見ることができる前期には必ず行きたいと思っていた。ゴールデンウィークは混雑で体力的に断念。展覧会協賛企画で神護寺ご住職の公開講座が5/12(土)午後にあると聞き、その日に行くしかないと午前に奈良博に行くことに。開館時間あたりを目指して行った。チケットは事前に購入。会場に着いたのは開館時間を少し過ぎた9時45分頃。会場前はチケットの購入の長い列。入場はスムーズだったけれど入ってすでに少し混み合っていた。会場内をザッと先に一周して、気になるものをもう一度見ようと引き返した。その頃には空海直筆の書の前など人気の展示の前は人が二重になっていた。当日は次の予定があったので2時間ほどしかいられなかった。後半の空海さんの書の展示室が気になり過ぎて最初の仏像の展示室とそれに続くシルクロードの展示室はかなり流し見となってしまった。時間に余裕があったら一つ一つ説明を見て、気になるものを見返したりで4時間はいただろう。後ろ髪引かれながら会場を後にした。ニコニコ美術館があったら見返したかったなぁ、今回無かったのは残念
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