行きつくとこまでいくと不条理は笑いで表現するしかなくなる「ハルムスの世界」
<文学(160歩目)>
ソ連のスターリン時代の不条理を、乾いた笑いで突く作品集です。
ハルムスの世界 (白水Uブックス)
ダニイル・ハルムス (著), 増本 浩子 (翻訳), ヴァレリー・グレチュコ (翻訳)
白水社
「160歩目」は、ダニイル・ハルムスさんの短篇集。
カルト的な人気になっていますが、スターリン時代の人間をすりつぶす不条理を描くには、乾いた笑いが必要なことが心に突いてきます。
超短篇集で、最初は戸惑いました。
初めの方にある「落ちて行く老婆たち」。とてもシュールで、最初は藤井太洋さんの「ヨハネスブルグの天使たち 早川書房」の少女ロボットが、夕立の様に「降ってくる」シュールな世界を想像したのですが、違っていました。
日常の中で、墜死する老婆。あまりにもシュールな設定なのですが、どの短篇も不謹慎ながら笑ってしまう箇所あり。
このアンバランスを感じながら、読み進めていくとハルムスさんの世界にいざなわれる。
ひたすら転ぶ人、レンガが頭に落ちてくる人。。。
こんなの無いでしょう。。。と感じる中に、コラムの様に挟まる1930年代のソ連の日常の解説が入る。
すると、シュールな文章が、全体主義の「不気味」を伝えるのに最適なことがわかる。
多くの文学界の巨匠を輩出した(「国民のアイドル、プーシキン」)後に、一人の為政者によってリアルな「1984」の世界(ビッグ・ブラザーが君臨する監視社会)に移行する。
2度読んでしまったが、この短篇集の「どこに、命を奪われるヤバさ」があるのか?疑う自分がいました。
ほんのわずかな文体で、読者の想像力を喚起させるもの。これが逮捕、拷問から死に続く世界。
全体主義の不条理の下では、人間はすりつぶされてしまうことが強烈に伝わる作品でした。
小品ですが、「講義」と「レジ係」が突きます。
そして、ハルムスさんの作品ではオーソドックスな「朝」「騎士」に、すりつぶされるほど弾圧されたロシア・アバンギャルドのアーティストの心の叫びが伝わると感じました。
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