鳥類長屋
「さあ鳥類長屋のみんな、これで全員集まったね?今日はめでたい正月だ。日頃の感謝を込めて、皆で大家さんのところへ祝いの品を持って新年の挨拶をしに行こうじゃないか」
「カラスの兄貴。祝いの品ってえと何か買ってくのかい?実はうちは先日、子が沢山産まれてね。何かと物入りであんまり銭がねえんだ」
「そりゃあ益々おめでたいねツバメさん。いやいやそんな無理に銭を出せとは言わないよ。子育て頑張っとくれ。おや白鳥さん。久しくその優美な姿を見せなかったじゃないか。いったいどうしてたんだい」
「ずっと旅をしていたんだよ。ついこの間戻ったばかりだ。今回はえらく長旅でね。申し訳ないがそういう訳で私も一文無しさ」
「そりゃあご苦労だったね。ゆっくり羽を休めたらいいよ。えー、お向かいのフクロウさん、あんたの懐具合はどうだい?」
「俺は今、借金で首が回らない」
「やれやれ。でもね、270度も回るあんたの首なら充分じゃないか」
「チュンチュン。チュンチュン。僕たちの持ち銭も、スズメの涙です」
「なんだい、そんならみんな銭無しなのかい?」
「カラスの兄貴。僕も銭はないけど、木に穴開けて餌見つけてくるのは得意だよ」
「それは頼もしいねキツツキさん。でも、イモムシは大家さんの口に合わないかもしれないなあ。ああそれからねキツツキさん。しょっちゅう壁をつつくのはやめとくれ。長屋の壁は薄いんだからね」
「俺は銭には困ってないから、買い物の使いを頼まれてもいいが、大体今時分どの店も、新年の初売りでコンドル」
「さてさて困ったね。これじゃあ大家さんに何も持っていけないなあ」
「カラスさん。それなら私達が歌を歌いましょうか」
「やあ、ウグイスさんにヒバリさん。うちの長屋の喉自慢の登場だ。うん!歌というのはいいね。それじゃあ他の皆はその後ろで、羽を広げて嘴開けて盛り上げ役といこう」
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「どうも大家さん、新年あけましておめでとうございます。いつもうちの長屋の連中が、家賃の滞納ばかりしてあいすみません。今日は新年のお祝いをしにこうして皆で寄らせて頂きました。銭はないけど芸はある連中です。祝いの品の代わりにどうか一曲聴いてください」
『♪飛べないペンギン ほんとは飛べる 大海原を飛び掛ける 森や林に背を向けて 氷の上を腹すべり 僕らのゴハンは海の幸♪』
「やあ、これはこれは。新しい年に相応しい楽しい歌だね。それに途中から鶴さんも舞ってくれて、なんとも風流なもんだ。いや新年早々たいへん縁起の良いもの見せてもらいました。なにより長屋の皆がこうして揃って元気に会いに来てくれるのが嬉しいね。そうだ、お礼と言っちゃあなんだが、さっきちょうど上等の酒が手に入ってね。よければここで皆で一杯やっとくれ」
「わあ、これは美味そうだ。ええ有り難い。さあみんな折角だ。遠慮なく頂くとしよう」
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「美味い!これはさぞタカい酒でしょう」
「絶品カモ」
「本当にケッコウな味です」
「ええと、みんな。遠慮なくとは言ったがね。あまり呑み過ぎちゃいけないよ。ああこらダチョウさん、足をどたばたさせないで。床が抜けちまうよ。ちょいとクジャクさん、こんな狭い所でその大きな羽根全開に広げられたら困る」
「ワシの猪口を返せサギ師!」
「トリあえずドードー」
「俺達もう千鳥足」
「カラスの兄貴!大変だ、ペリカンの奴が酒を一升瓶ごと口に入れちまった!」
「ああもう本当にまあ、うちの長屋は酒好きな鳥ばかりだね。これじゃあ皆の財布の中身は、今年もシジュウカラだ」