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「死にたい気持ち」と初めての診察/うつ抜けできるかな日記#2
メンタルクリニックに予約を入れ、診察を受けるまでの7日間は、私のうつ病生活のなかでも最高に苦しい日々でした(心の調子が悪い方は、「死にたい気持ちが止まらない」を飛ばして、目次の、「そのとき私は、希死念慮とどう闘ったか」から読んでください。私も書きながら当時を思い出して苦しくなりました)。
フリーランスに傷病手当金は出ない
会社員であれば要件を満たせば傷病手当金が支払われます。休職している間も、給与が払われる場合が多いでしょう。しかし、フリーランスの場合は、傷病手当金はありません。休業補償もありません。
初診から1年6ヵ月すれば障害基礎年金の請求ができますが、障害基礎年金が支払われるのは、障害者手帳2級以上の所持者だけです。そして同じ障害年金でも、障害厚生年金とは支給される金額も違います。
結果としてフリーランスはよほどの蓄えがない限り、働きながら治療を続けるか、生活保護に頼ることになります。あくまで私見で、うがった見方かもしれませんが日本の社会保障は会社勤めの人間を主な対象に制度設計がなされているように感じます。結果、フリーランスの人間にとっては非常に不完全なセーフティネットとなっています(この話をすると長くなるので、また別の記事で書きます)。
お金がなくなる不安のなか、寝たきり状態に
そんなわけで私は、仕事をしながらうつ病の治療にあたることになりました。これが本当に大変でした。
頭は締め付けられるように痛むし、身体は泥のようにだるく、ほとんど寝たきりで動くことさえできませんでした。
仕事のメールひとつ書くのも、1日がかり。原稿を読むスピードも落ち、頭痛に歯を食いしばりながら仕事をしていました。
なんとか起き上がって、外に出かけると理由もないのに突然泣きたくなりました。信号を渡ろうとすれば、向かってくる車が自分を轢こうとしてるんじゃないかと、怖くなったりしました。
そして電車の踏切近くにいると、自分の意志とは関係なく飛び込んでしまうんじゃないかという気持ちに襲われます。だからいつも、踏切のある位置からかなり下がって、変なことが起こらないようにしていました。
お金がなくなっていくことの不安、その一方で、お金を稼ぐことのできない焦りが、頭の中をぐるぐる回り、死にたい気持ちにさらに火をつけます。
当時はちょうど桜が咲き誇る春の季節でしたが、花見どころではありません。実際、桜をみても何も感じず、ただ「桜が咲いている」としか認識することができませんでした。美しいといった感情が起こらないのです。
「おいしい」という感覚もそうです。たとえばカレーを食べると「辛い」という感覚は分かるのですが、それ以外なんの味もしません。しかもお腹は減っていても、脳が食べることを拒絶していて、ほとんど食べることができなくなっていました。
死にたい気持ちが止まらない
当時の日記に私はこんなことを書いています。
ものを食べないということは、ゆっくりとした自殺のようなものかもしれない。食べないことで、他の衝動を抑えようとしているのかもしれない。
実際、この頃の私は、寝ているとき以外はずっと「自分を壊したい」「死にたい」「消えてしまいたい」という衝動に襲われていました。
目に映るものすべてが「死ぬための道具」のように感じていたのです。
ドアノブをみれば「これで首を吊ったら」どうかなと考え、
ペン立てにある鋏やボールペンを見ては、
それを首に突き刺すところをイメージしてしまうのです。
果ては頭痛に苦しむ頭を、
何度も何度も机にぶつけては、
痛みが去らないかと願っていました。
怖くなって、刃物やひもは棚の奥にしまって使えないようにしていました。
そんなある日、部屋に座ってなんとなく、手のひらを見ていたときのことです。なぜか私は無意識のうちに手をそのまま首に持っていって、力を込めて締め付けていました。すぐ気がついて手を離して咳き込んで、荒い息を繰り返しました。
この頃の希死念慮はとても強力で、まるで自分のなかにうつ病という存在がいて、私の意志を操作しているようでした。
そのとき私は、希死念慮とどう闘ったか
私の体験から言うと、多くの場合、希死念慮には理由がありません。「死にたいから、死にたい」。このシンプルな論理に立ち向かうには、「死んでどうするんだ」とか、「残された家族のことも考えてみろ」といった説得は、無効です。
なぜなら、そういうことも分かった上で「それでも死ぬしかない」と考えてしまっているわけですから。明らかに間違った回路ですが、脳がうつ病により動作不良を起こした結果、そうなっているのです。
つまり、希死念慮とはうつ病という自己破壊細胞によって引き起こされた「脳の動作不良」だと私は考えています。それが私がうつ病を「魂のがん」と考える理由でもあります。
ですからこのケースでは、私の場合、その衝動を何らかの方法で散らすか、「死にたいとは、死にたいほどつらいってことなんだな。頑張ったよ、私」といったん希死念慮の存在を受け入れるのが正解だと思います。
その上で「その死にたいという気持ちは、うつ病がつくり出したもので、自分が本当に思っているわけではない」「希死念慮とは脳の誤作動が引き起こしたもの」という具合に「私」と「死にたい気持ち」を切り離します。
そして、音楽を聞いたり、好きな本を読んだり、自分の好きなことをして「死にたい気持ち」を散らします。私はそうやって初診までの時間をやり過ごしました。
いま、死にたい気持ちを抱えながら生きている皆さん、私たちは生きているというだけで十分頑張っています。それを忘れていませんか? 生きているというだけで、すばらしい仕事を成し遂げているのです。
私は今日を生きるのがつらいときには、あと10分だけ生きることを頑張ってみるようにしています。そして10分生きていることができたら、1時間頑張ってみる。今日を生ききることができれば、すごいことです。
私はそう自分に言い聞かせながら、10年のうつ生活をなんとか生き抜いてきました。それでもいまだ希死念慮は私を苦しめています。うつ病が治る見込みは今のところありません。
それでも生きてさえいれば、何かが変わるかもしれないと信じています。生きるということは、可能性そのものだからです。
はじめての診察
話が脱線してしまって申し訳ありません。
とにかくそうやって7日間を過ごし、私はメンタルクリニックの初診に臨みました。4月12日、日曜日のことです。
私が行ったとき、すでに診療時間は終わっており、他に患者の方はいませんでした。どうやら初診はゆっくり時間をとって話を聞くために、診療時間外に設定しているようでした。
クリニックの扉を開けると広い待合室に通されました。そこで問診票と心理テストの用紙を渡され、書き始めました。初めてのメンタルクリニックというプレッシャーと激しい頭痛のため、全部書くことはできませんでしたが、それを受付で渡して診療を待ちました。
待合室にはクラシック音楽のような曲が流され、壁際には本や雑誌が置かれていました。しばらくすると、スピーカーから私の名前を呼ぶ声が流れて、診察室に入りました。
診療室には、Yさん(フリー編集者の先輩で、ミリオンセラーをはじめ数々の書籍を編集された方)そっくりの先生が、椅子に腰掛けていました。
私はつっかえながら、どもりながら、自分がどのように生きてきたかについて、家族関係について、いま感じている病状についてを、1時間余りにわたって話しました。
先生は私の話を聞くと「うつだね」と頷きながら話されました。そして、治療の方法としては、薬物療法と認知行動療法があると説明されました。
まず薬物療法では抗うつ剤を飲むことになるが、2週間ほど飲み続けないと効果が分からないので、まずは抗うつ剤と精神安定薬を飲んでもらって様子を見ましょうという話でした。
そして認知行動療法については、うつに対しては効くというエビデンスがあるので、合わせてやってみる手もあります。ただ、保険が利かないので50分で8000円かかるんです。すまなそうな口調で、そう説明されました。
それとうつは自立支援医療の対象になっているから、手続きをすると治療費が1割ですむという話をしてくれました。
そこでまずは薬物療法で様子を見ることにしました。そのとき、私の希死念慮の話になって、「実は、片手で自分の首を絞めてしまったんです」という話をしたんですね。
するとさっきまで少し笑みを浮かべていたのに、急に真剣な表情に変わって、「それは、入院して治療しないといけないかもしれないよ」と先生。
私は驚いて「あ、入院はちょっと」と答えてしまったのを覚えています。
しかし、いま振り返ってみると、そのとき入院していれば10年も引きずることはなかったかもしれないと、思っています。でもそれはいまだから分かることで、当時の私は通院するというだけで、いっぱいいっぱいでした。
そして、この日から私の「うつ抜け」に向けての旅がはじまったのでした。
うつ抜けのヒント#2
今回のうつ抜けのヒントについてまとめておきます。
希死念慮とは「脳の動作不良」。うつ病が「死にたい」と思わせている
私たちは「生きている」だけで「すばらしい仕事」を成し遂げている
認知行動療法は、うつに効く
希死念慮が重い場合は、入院を視野に入れる
と、こんな具合になります。
うつ病については、いわばエピソード0としてこんな記事も書いています。
そして前回の話が、こちら。私がうつを自覚し、メンタルクリニックに予約を入れるまでが描かれています。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました!
それではまた来週、金曜日にお届けしようと思います。
これからもうつ抜けに役立ちそうな記事を書いていきますので、
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明日が、皆さんにとって穏やかで心安らぐ日になりますように!
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