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まほろば流麗譚

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2024年3月の記事一覧

胡瓜畑攻防戦 9

「はへえー!?」

「だ、誰だあ!あんたぁ!?」

「危ねえよぉー!河童は力が強いんだよぉー!」

「だから!手伝え!呑気にするな!」

「あっ!」

「そうだ、そうだ!」

「助けてもらったみてぇだしな!」

勇也の手下たちは、やっと黒づくめの男の元に来た。

「いいか!河童の腕は弱点でもある!
 皆で一斉に引き絞れ!」

「引くって、こんな細い紐をどうやんだあ!?」

「後ろの木に紐の端が巻い

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胡瓜畑攻防戦 8

「今だ!」

水を跳ね上げる音がした方に大八車を向ける。
皿の付いた棒を一気に引いて皿に石を載せる。
それを確認して脇の紐を引くと、水辺に上がってこようとする河童の近くに水飛沫が上がった。

「外れたあー!」

それでも河童は少し戸惑った風に見えた。
気は持ちようである。

「どんどん行くぜ!」

「おう!」

別の大八車に石が大量に載っている。

「上がってくんなあー!」

腕に自慢の奴は直接、

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胡瓜畑攻防戦 7

「勇也が背中で二十本、ううん三十本も押し潰してる
 んだからね!」

「んー悪かったよ。悪かったけどよぉ、しばらく家に
 は行くなよぉ。」

「昼間は平気よ。鉄斎さんが着いてきてくれてる。」

「だけどよぉ、河童が出たらよぉ。」

勇也はやっと身体が動かせる様になった。
あれから四日が経った。

やはり毎夜五本、胡瓜は減っていた。

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「おうおう、

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胡瓜畑攻防戦 6

「へえー河童ねぇ、、」

重なった後の気怠い身体を起こして、女はキセルに煙草な葉を詰めた。
明かりの火に突っ込み紫炎を燻らせる。

「あんたの話を聞く限りじゃあ、そいつは斬るなんて
 もんじゃなさそうね。」

「お前さんも、そう言うかい?」

「鉄が曲がるんだろう?」

「うむ。」

「身体がヌメってるなら、刃は滑るからねぇ。」

「やはり、そう思うか。」

「その河童さあ。あの流れ星に関わりがあ

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胡瓜畑攻防戦 5

「胡瓜五本ねぇ。最初は好きに動いてもらわないと、
 言う事効いてくれないの、どうなの?」

そのまだ若い女は木の枝に器用に寝転び、星を見上げながら呟いた。

手の平の上に朱い小さな珠が乗っている。
星に透かせば、ドクドクと脈打つ流れが見える。

人の身体の中にある臓器を取り出してみれば、こんな風に動いているんだと思う。
この珠は誰かの身体の一部が飛び出したものなのかもしれない。

女、小絹はそんな

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胡瓜畑攻防戦 4

「まあ、身体の作りがしっかりしてるからなあ。
 受け身もとった様だし、打撲ってところだ。」

皆川良源は事も無げに言った。

「とは言ったもんの先生、痛くて上手く動けねぇよ。
 何日くらいかかるもんだい?」

「二、三日は大人しく寝てろよ、勇也。」

「頑丈だからね、勇也は。」

ここは町医者、皆川良源の住まいだ。
江戸が開ける途中とはいえ、埋め立てやら家屋や城を建てるに怪我は付きもの。
それ故に

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胡瓜畑攻防戦 3

力士程のガッシリとした体格の河童が、嘴で起用に胡瓜を噛んでいた。

キューとでも言うしかない鳴き声が時々する。

一口ごとに勇也の様に嬉しそうな表情をする。

「美味しいんだね、胡瓜。」

「河童の好物は胡瓜だっけか。」

「あーそうよね。」

二人は予想してなかった光景に唖然とし、隠れているのを忘れた。

そこに棒立ちする姿を河童の細い目が見付けた。

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胡瓜畑攻防戦 2

「分かった!今夜俺が畑を見張って盗っ人を取っ捕まえてやらあ。」

「ホントに!?でも明日も仕事でしょ?」

「明日は休みだ!心配すんな!」

胡瓜五本泥棒の濡れ衣を着せられた勇也は、胸を張ってそう言った。
美代は何だか嬉しそうに笑っている。

それを見ながら、信幸が紫乃に耳打ちをする。

「勇さん、明日も仕事じゃないのか?」

「心配なんですよ。」

「そうか。まあ自分で世話した家だしなあ。」

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胡瓜畑攻防戦 1

「あー、夏はこれだ。冷やした胡瓜、最高だあ。
 働いた後の熱った身体には、こいつと冷酒。
 なあ信さん、そう思うだろ?」

勇也はうどん屋台の前に置いた樽に座り、まったりと呆けて至福の時に浸っていた。

昼間は親父から引き継いだ人足たちと、江戸の埋め立てに精を出している。
若いが腕と仕切りがいいと評判の男だ。

だが夏の暑い最中に力仕事。
それに自分より年嵩が上の連中を纏めるともなれば、気も張るだ

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嘆きの珠

ねえ、どうしてこんなに哀しいの
ねえ、どうして幸せは続かないの
お父様、お母様、、
何故、私は普通の親子になれなかったの

我が子を見せたかった、、
いや!見せるものか!
なのに、どうして!

許すものか!
許すものか!

天よ!これ以上、妾から何者をも奪わせぬ!
世に無限の安寧を。

女の失くしていた心が帰った時
夜空にいくつかの星が流れた。

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