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【映画鑑賞記録】「The Rise of Wagner(Benoît Bringer)」を鑑賞しWagnerとは、ロシアとはについて学ぶ

ロシアとウクライナの間で戦争が勃発してから、よくWagnerについて耳にするようになった。そしてこの夏、Prigozhinが暗殺(としておこう)されてから、Wagnerという名を更に多く聞くようになった。
これは私に限ったことではないと信じたいが、そもそも○○機構や△△条約、◇◇党のような固有名詞を耳にしても、それがいつどこで発足して、どういう活動や役割をしているのか分かった試しがない。それをアナウンサーや新聞が、さも知りなんといった表情、書き方で記事を読んだり書いたり意見を述べたりするから、私だけが世間から取り残されたのか、私の脳にだけブラックホールがあって記憶が消されているのではないか、と疑うことになる。無知は恥だという思いから、敢えてその話題には触れないし、かといってその歴史や背景を調べることもなく、万が一周りが話題に取り上げた場合には曖昧に流す。例えばそれが歌手や俳優、本のタイトルなら、堂々と「興味がないから知らない」と言えるが、政治や社会情勢となると話しは別である。

「The Rise of Wagner」
さて、とある世界情勢をテーマにしたドキュメンタリーの映画祭で「The Rise of Wagner」という映画が上映された。Benoît Bringerというフランス人の、私と同世代のジャーナリストによる作品である。
https://www.forbiddenfilms.fr/en/copie-de-projet-pegasus
https://vimeo.com/812922713

戦争が終わる気配もなく、人々の注目度が落ちている中、無知を一つでも克服しようと、私は金曜の会社帰りにこの映画を観にインディペンデント系のとある映画館を訪れた。
司会者の挨拶にもあった通り、金曜の夜にこんな真面目な映画をわざわざ見ようとする人の数は多くはなかったが、それでも館内の3分の1ほどの観客がいたのは、主催者にとってはまずまずの収穫ではないかと思う。

ポスター: The Rise of Wagner

さて、出だしは、シリアでMohammad Taha-al Ismailが惨殺された映像が彼の兄の手元に届き、それについて語るシーンから始まる。ビデオを見た兄は最初、弟がタリバンに殺されたと思ったが、ビデオから聞こえてくる言語が聞いたことのないもので、弁護士を介し告訴することに決め、調査が始まる。
その後、Prigozhinの経歴について、つまり彼がマクドナルド的な大きなチェーン店の経営や食品関連の会社で財を成し、その資金をWagnerに投資していたこと、Wagnerは当初囚人を集めたグループだったが、1分で参加を決めさせ、参加しないものは即殺す、という彼自身の発言を撮った映像へと進む。
そして、ロシアで身の危険にさらされながら活動するジャーナリストや作家、海外に亡命して活動するジャーナリストの実際、更には中央アフリカで殺された3人のジャーナリストのうちカメラマンの家族の近年の様子など、小気味よくストーリーは展開していく。
どっぷりと深く見入り、最後には完全に魅せられてしまった。

映画の後はBenoît監督による解説と質疑応答の時間となった。
監督は、どのようにしてこれほど深い作品を危険にさらされることなく作り上げることができたかを語り(アフリカとロシアの関係を調べるジャーナリストだとしてプレスビザで入国したそうだ)、出演したジャーナリストたちの現在を語り(ロシアに残っている人たちは、残念ながら、報道・出版・公開の自由を奪われてしまった、ウクライナに移った女性は戦争反対活動を行っている、等)、第三幕として(第一幕が戦争勃発、第二幕がPrigozhin暗殺)Prigozhinの死後についてのドキュメンタリーを撮るような話しもうっすらし、質疑応答となった。
パルチザンの父を持つ男の発言には、会場中がブーイングの嵐を巻き起こし、映画のみならず始終熱い夕べだった。

「OLGA」
非常に盛りだくさんで、内容を反芻しながらの帰途、その少し前に見た「OLGA」という作品を思い返した。

ポスター: Olga

これは、若き仏瑞ハーフのElie Grappeという監督が27歳の時、Yanukovych時代の尊厳の革命の頃のある新体操選手の実話をもとに撮った作品である。中でも、革命前にウクライナからロシアの新体操チームに寝返った監督と、亡き父の故郷スイスに亡命したウクライナとのハーフの15歳の少女Olga、祖国に残ったOlgaの親友のSashaが世界選手権で再開するシーンは大きな見どころだ。大会の最中にMaidan広場でOlgaの母が負傷し救急車で運ばれるシーンや、人々が怪我や殺傷されるシーンがあり、その後、Olgaがどのように人生の決断をするのか・・・是非お勧めしたい作品である。

「Kursk」
もう一本、「The Rise of Wagner」の後ほどなくして公開された「Kursk」も併せて紹介しておこう。
こちらは、エリツィンからプーチン政権に代わった直後の2000年に起きた、ロシアの潜水艦Kurskの船内事故を題材とした作品である。

ポスター: Kursk(左からMatthias Schoenaerts, Léa Seydoux, Colin Firth)

監督はThomas Vinterberg、主役は私が愛して止まないベルギーの俳優Matthias Schoenaertsが、そしてその妻をこれまた大好きな女優Léa Seydouxが演じている。
内容は、船内の一室にあるミサイル内部の温度が急に上昇し、船が海底で爆発し、一室だけ無傷で残った部屋に生き残った水夫たちが集まって外部と隔離し、何とか生き延びようとする様子を描いた作品である。不幸にもロシアの救助用の巨大バッテリーの引力が不足しており、1回目の引き上げに失敗し、船の引き上げに必要なだけのバッテリーのチャージに12時間かかることがわかった。その間、ロシア政府は北欧からの救助を断り、アメリカからの救助も断ったが、この船の将官が極秘でアメリカの司令官の救助の申し入れを受け入れる。しかし、間もなく引き上げかという矢先に、誤って酸素カートリッジを水に落としてしまった水夫がおり、水面の上昇を避けられなくなった水夫たちは、死の前に水夫の歌"The Sailor's Band"を皆で合唱し・・・というストーリーだ。
ラストの国葬のシーンで、Matthias演じるMikhailの息子が政府の将官から差し出された握手を拒む姿がまだ脳裏に深く刻まれている。

こうして、最終的にはWagnerについてのみならず、ロシアの昨今の歴代大統領たる人物たちについてもわかる各種映画を紹介することとなった。どれも深く考えさせられる内容なので、時間がたっぷりある連休や正月休み等にまとめて見ていただけたらと思う。


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