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『フードテック革命』を読み返し、ふと雑食目線で「ありえない食品(PBF)」って最近どうなの?って思った

はじめに

《本記事に登場する客観的データは、その多くを以下の書籍から引用しています。》

『フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義』
田中宏隆 (著), 岡田亜希子 (著), 瀬川明秀 (著), 外村 仁 (監修)
(出版社 ‏ : ‎ 日経BP )

本文

真新しい話でもない「フードテック」

先日、上に挙げた書籍を読み返した。
始めて読んだのも僅か1昨年前あたりと記憶しているが、最近気になることがあり、改めて読み返したものである。

タイトルの「フードテック」とは、「食品(Food)」「テクノロジー(Technology)」を組み合わせた造語である。

最先端技術を活用し、「食」に関する問題の解決や「食」の可能性を広げてゆくことを目指す新しい産業分野であるとされる。

この本が出版されたのが2020年ということであるから、前々から興味を持たれている各位は「何を今さら」という感じであろうか。

ところで、私は「食」の専門家ではない(仕事を通じて「食」にかかわることは無いこともないが)。

ただ近年「~テック」と称し、様々な分野に最先端技術が活用されているところ、それが万人共通の関心事(とまで言っていいのか?)と思われる「食」とどのように関わるのか、純粋に興味を持った次第である。

「食」の専門家の各位にとって、私がここに書くことに何ら真新しい情報はなく、また私が感じる疑問に対し、(ウエストランド調で)「皆目見当違い!」などと思われて余計な恥を晒すのも何ともカッコ悪い。

従って、「食」の専門家各位は、今すぐこの記事を閉じ、有限な人生をもっと意味のあることに使われるようご提案する。

SDGsとの関係もあるらしい

さて、専門家各位がすっかりいなくなったところで、話を進めるが、この「フードテック」は、世界の食料危機の解決やフードロス問題への対応、気候変動抑止なども念頭に置いていることから、国際社会の新たな指標とされる「SDGs(持続可能な開発目標)」との関連が強いとも言われている。

従って、「フードテック」が実現しようと思い描いていることについて考えること、それ自体がSDGsと向き合うことに繋がるのではないかとも感じる次第である。

真新しい話でもない「PBF」

私が『フードテック革命』の本の中で好きなトピックの1つが、本書の"Chapter 4"にて紹介される「植物性由来の食品(PBF : Plant Based Food)」である。

はじめて読んだとき、その中で紹介される「代替プロテイン」の中でも「代替肉」、その中でも特に「植物性代替肉」の可能性が面白いと感じた。

近年「べジミート」や「大豆ミート」などの言葉を頻繁に耳にするようになり、食べたことのある方も居られるかもしれない。

私が『フードテック革命』を最初に読んだのは、日本の「代替肉元年」などとも呼ばれた2020年あたりであった。

この頃は、「今後、日本でもどんどん代替肉の波来まっせ」みたいな報道記事も多かった気がするが、最近は代替肉どころか、こんにゃくやデンプンなどを原料とした「代替魚」や、そのほか「代替明太子」、がんもどきを模した「ギャンモ」なるものまで登場しているようで、一定の盛り上がりが続いているとも言えるのだろうか。

話をいったん代替肉に戻すが、この手の話は「完全肉食系」みたいな人や、逆に「ヴィーガン」のような人の方が、より強い主義主張をお持ちなのかもしれない。

ただ、私のような「雑食系」が中立的な立場で是非を考えることにも一定の意味があると感じる。

先に進む前に、以下のとおり用語を整理しておこうと思う。

  1. 代替プロテイン:動物性食品の替わりに、植物等のその他原料を使用してつくられたタンパク質(「代替肉」、「代替乳製品」、「代替鶏卵」などを含む)

  2. 代替肉:動物を「と殺」して作る食肉の替わりに、大豆含む植物等のその他原料を使用して作られ、肉の食感に近付けた食品(「植物性代替肉」、「培養肉」等を含む)

  3. 植物性代替肉:大豆やエンドウ豆等の植物由来の原料から作られ、肉の食感に近付けた食品。

当時、私が面白いと思ったのは、上の「3」ということになる。

「代替プロテイン」という大きな括りの中に「代替肉」があり、さらにその中に(代替肉の1種としての)「植物性代替肉」があるような位置付けだろうか。

関連のあるニュースや客観的データをネットで検索する場合も、検索結果の主語が「代替プロテイン」となっているのか、または「代替肉」の話をしているのか、それとも「植物性代替肉」や「培養肉」の話をしているのかを先に把握しないと、数字やその他の実態を見誤ることになるかもしれない。

また業界も手探りの状況であるのか、市場規模についても、どの団体が発表している数字を基準とすべきなのか、「外野」としては、いまいち分かり辛い。

分析対象も「代替プロテイン」であったり「代替肉」であったり、地理的範囲も「日本」か「世界」か、貨幣も「円換算」や「ドル換算」か、さらには何年後を見越した観測的数字なのか、、、と私のような個人には、なかなか実態も掴み辛く感じる。

比較的多く目にする数字として「グローバルで見たPBF全体の市場規模は、2030年には1,619億ドルに達すると予測される(ブルームバーグ・インテリジェンスのレポートによる)とか「代替タンパク質の世界市場規模は、2030年は3兆3113億8900万円になると予測される(代替タンパク質の世界市場規模、矢野経済研究所作成)」などがある。

「食」の専門家に聞けば、根拠とすべき「より標準的なデータ」みたいなのが存在するのかもしれない。

「植物性代替肉」に話を戻すが、この業界を牽引してきたのが「Impossible Foods(インポッシブル・フーズ)」「Beyond Meat(ビヨンド・ミート)」の2社(ともに米国企業)である

ともに2010年前後にベンチャー企業として設立後、国内外からの投資を集め、今では植物性代替肉の開発・製造を行うテクノロジー企業の代表格とされる。

「Impossible Foods」(ありえない食品)(?)などとは、何とも粋な社名であるようにも感じる。

上記2社の後を追うように「タイソンフーズ」、「ネスレ」、「ユニリーバ」などの大企業もPBFビジネスに参入したりする、、、、のだが、本筋から反れてくるので、これら企業別のビジネスモデルの分析は別の機会としたい(やるかどうかも定かでないが)。

そもそもべジのミート言うてますけども

さて、各位は「べジミート」と聞いて、どのようなイメージを持つであろうか?

「食」の専門家でもなければ、「環境」についてもさほど真面目に考えていたとは言えなかった私は、この言葉を初めて聞いたとき「べジ?ベジタブル?野菜?んっ大豆?、、、まあアレっすよねぇ~。ヘルシーみたいなことっすよねぇ~。アハハハ」などとヘラヘラ考えていた。

「植物性」→「何か健康そう」→ キーワードは「ヘルシー」だ!というのも何とも短絡的であったわけだが、そう単純なものでもないようである。

代替植物肉、ひいては代替プロテイン盛り上がりの背景には以下のような議論があるらしい(やや重たい話もあるが、断言しかねる問題やデータについては極力、伝聞形式にするよう努めた。また真偽の判断やpros/consの議論をすることを目的としていないので、それらは各自に委ねたい)。

1. 人口増加による食料不足(protein crisis)
2050年に世界の人口が97億人に達するという国連の予測があるらしい。
そして、そこまで人口が増えた場合、今のペースで肉を食べ続けていると肉が足りなくなるという怖い話も囁かれている。

また、仮にそこまで爆発的に人口が増えなかったとしても、世界的な発展とともに人口が増え続け、経済も発展してくると、中間層が増え、肉の消費量は上がってゆくとの予測がある。

世界の経済を牽引する米国や巨大な人口を抱える中国などの主要なプロテイン供給源は肉でもあり、このままだとヤバい!らしい。

そこで肉のようで肉でないべジミートの登場!みたいな流れになるようであるらしい。

私には、ちょっと「風が吹けば桶屋が儲かり、貧困層が減れば、肉が減ってべジ屋が儲かる」みたいな話にも聞こえたりする。

風が吹けば、、、



2.畜産にかかわる問題
(i)「品種改良」
畜産業では、豚や鶏などをできるだけ早く食肉として出荷できるよう、抗生物質やビタミン剤を使って、ありえないスピードで体を大きく育てたりすることがある。

このようなムリな品種改良により、人間の感染症リスクを懸念する声もあったり、そもそも家畜の育て方が倫理に反するとの「動物愛護」の観点からの批判があったりもする。

(ii)環境負荷
植物の生育に比べ、畜産の環境負荷は非常に重いらしい。。。
(以下、「消費量」の比較)
「水」:地球上の人間全体「約200億リットル/日」、地球上の牛15億頭「700億リットル/日」。
「食料」:地球上の人間全体「約10億トン/日」、地球上の牛15億頭「約600億トン/日」
「土地」:ヴィーガン1人が生涯必要な量の食物を育てる場合、必要な農地「約4,000平方メートル」、ベジタリアン(卵や乳製品を食べる)の場合「ヴィーガンの約3倍の農地」、米国の平均的な肉食の人「ヴィーガンの約18倍の農地」
(出典:『フードテック革命 世界700兆円の新産業 「食」の進化と再定義』、93ページ)

私は上のデータにどの程度の信ぴょう性があるのか分からないが、数字で見せられるとなかなかにエグいものがある。

仮に、牛が毎日、人間の60倍の飯を食うとすれば、もはやキン肉マンも呑気に牛丼なぞ食っちゃいられない(何のこっちゃ)。

畜産の環境問題については温室効果ガスの問題もよく指摘され、レオナルド・ディカプリオもドキュメンタリー「COWSPIRACY」をプロデュースし、畜産が気候変動の大きな要因になっているのに、業界団体がそれを指摘しないとの矛盾があるとして、ズバズバ斬り込んでいる(私もネトフリで見たが、エンタメとして見ても、なかなかに面白いよ!)

みんな、元気かい?
えっ?僕が誰かって?いやだな~レオ様じゃないか?

(iii)その他倫理面の批判
肉食には当然のことながら、都度、生き物の食肉処理が発生する。そして、その割には、フードロスが多いとの批判もある。

そして、もはや動物を「生き物」として育てるのではなく、食肉(牛乳や卵なども含まれるだろうが)を生産するための「機械」として生み出しているとの批判もある。

これについては、『フードテック革命』の中にも記述があるとおり、私も元々「畜産」というものは、牧場のようなところで家畜がのほほん!と飼料でも食べているところを想像していた。

しかし『ありあまるごちそう』というドキュメンタリー映画で”Factory Farming”というものの実態が映し出され、家畜や家禽がベルトコンベアーに載せられて流れてくるという図に、偉くショッキングなものを見たという気がした。

この点に関しては、「そもそも食肉処理が残酷である」といった意見が一定数あり、それとは別に「畜産は必要悪だが、生産量をコントロールせず、フードロスが発生することにより、本来必要のない『命』を誕生させ、(人に食べられることなく廃棄されるという意味で)ムダに命を奪っている」という意見が一定数あるということなのだと理解している。

3.脂質を抑えた食生活
代替肉は畜肉に比べて脂肪が少なく、肥満の原因となる脂質が抑えられるとも言われる。

ここらへんにきて、ようやく私の好きな「ヘルシー」のキーワードに近付いた気もする。

さて、ここまで見てくるとべジミートのキーワードは「ヘルシー」というより、むしろ「エコロジカル(ecological)」とか「エシカル(ethical)」とか、それこそ「サステイナブルsustainable)」とかのような気もする。「SDGs」に沿うような「優しさ」を秘めた食品とも思うが、各位はどう感じられるだろうか?

代替肉のロマンみたいなもの

『フードテック革命』には、代替肉の面白い将来像が描かれており、それによると代替肉の発展段階は「レベル1~5」に分けられるのだという。

今のべジミートは「レベル4」あたりで、「味わいや食感も肉と変わらず」というところを目指しているらしい。いわゆる「ノンベジ」の人たちもターゲットにし、「肉食う?代替肉食う?」みたいな選択肢を提供している段階と感じる。

これが将来「レベル5」に達すると、「調理・喫食体験が本物の肉と変わらない」ばかりか「肉以上の機能性や栄養素、保存性」が実現し、「健康的な価値」も担保されることとなるらしい。。。

すごい計画である。
こうなると、、、もう「肉以上に肉」?みたいな感じもして、私のような者にとっては、もはやどっちが「肉」かもよく分かんないSF的な世界観である。

ここまで書いて、なかなかに「植物性代替肉」にロマンを感じたわけだが、まあ、、、課題と言うか「語られ辛い真実」みたいなのも(『フードテック革命』の中ではないが)囁かれていたりする。

味の問題もそうであるが、植物性代替肉にまつわる「飽和脂肪酸」や「塩分」の問題、肉の風味を作り出すための添加物(塩分含め)などの問題も色々と取り沙汰されたりしているので、各自でググっていただきたい(特に「植物性代替肉」に使われる塩分は、畜肉の〇倍!みたいな話、機会があれば、誰か詳しい方に実態や率直なご意見など聞いてみたいとも思っている)。

また「代替肉」というか「代替プロテイン」というか「フードテック」全般について、包括的な法律整備がまだまだなされておらず、具体的な事例に応じ、「食品衛生法」「食品表示法」「景表法」「不競法」「薬機法」などの個別法を解釈の上、個別に適用せざるを得ないといった状況であると聞き及んでいる。

これが「培養肉」とかの話になると、(想像できることではあるが)日本含め、各国での法規制などのハードルはより高くなる。

で、最近どうなの?

冒頭でも書いたが、私が『フードテック革命』を最初に読んだのは、日本の「代替肉元年」などとも呼ばれた2020年あたりであり、その頃は、世界だけでなく、日本における代替肉市場の成長についても、楽観的な予測が多く報じられていたと記憶している。

今回、色々とあって、本書を読み返したわけであるが、最近は日本における、そして世界における「代替肉」の評判はどうなのだろうか?

「いよいよ新たな波が来た」とか「お隣の韓国で盛り上がっている」などのポジティブな報道も目にする。

一方、ありえない挑戦を続けていた筈の「インポッシブル・フーズ」の代替肉の売上が低迷し、従業員の〇〇%をレイオフ、、、などのニュースも目にする。

、、、ところで各位はべジミートとか食べておられるだろうか?

私はここまで書いてきて、食べたことがない!という話であれば、なかなかに面白いのだが、、、まあファストフード店や料理の食材としてなど、何度か食べたりした(べジフィッシュやがんもどきっぽいやつも食べてみたりしている)。

ソイバーガーやチキンナゲットなど、なかなかの再現力かとも感じ、「レベル4」の食品として、それなりに楽しく(?)いただいた。

年始あたりのYahoo!ニュースでは、昨年11月に(国内の)バーガーキングが植物性パティを使用した「プラントベースバーガー」を終売としたとの記事を目にした。

その記事は、昨年の財務省による調査結果にも言及し、「わざわざ食べる必要がない」、「美味しくない、または美味しくなさそう」という理由で日本人の多くが代替肉を購入していないとも報じていた。

これも肉食型または雑食型の人たちの選択次第であるといえる「レベル4」の食品と考えると納得がゆく。

このところはポジティブとネガティブ両側面の報道を目にする気がするが、私は上に挙げた「エコやエシカル」と「語られ辛い真実」みたいなもののバランスを気にしながら、今しばらくべジミート、べジフィッシュ、またはべジ明太子などの動向を観察してゆきたい。

健康面などのグレーなモヤモヤした部分がすべて晴れ、味も改善が加えられれば、価格次第では(それって殆どの条件が揃っているのでは?とも思うが)、「優しい」食品となり得るPBFを積極的に「食」の選択肢にするという考えも「ないではない」ぐらいに考えている。

しかしながら、、、元来ワクワクするものが大好きな私であるので、上に述べた、健康的な価値が担保されたSF的「レベル5」のべジミート(例の「肉以上に肉!」みたいな世界観のやつ)の完成というのが、何だか楽しみでもある。

そのようなものが完成したときには、雑食系の私は、もはや「肉」食う?それとも「べジミート」食う?みたいな選択もしなくなっているのかもしれない。。。

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