桑原憂太郎『現代短歌の行方』(六花書林)
第一評論集。Ⅰにテクスト分析による批評6本、Ⅱに時評、Ⅲに歌論集を収める。特にⅠは現代口語短歌に的を絞って評しており、この評論集の中心と言える。桑原の功績はまず、Ⅰに収録されている、現代短歌評論賞受賞作「口語短歌による表現技法の進展」で短歌評論の世界に「モダリティ」の概念を持ち込んだことだろう。日本語文法、言語学の世界では当たり前のことなのかも知れないが、桑原以前に「モダリティ」を使って短歌作品を評した論者はいなかったことは別して記録し、記憶しておくべきことだと思う。
モダリティ以外に私がこの評論集で面白いと思った論点や批評用語を挙げると「完全口語」「発話」「心内語」などである。「リアリズム」を技法から解析しようという態度に共感を持った。
〈口語は、文語とは違う文法体系である以上、文語とは違う表現方法でもって、口語ならではの「リアリズム」を創出しているのではないか。〉(P43)「現代口語短歌によるリアリズムの技法」より
文語と口語は同じだと主張している私と、そこは意見が異なるのだが、それも含めて興味深いと思った。
六花書林 2024.9. 定価:本体2400円(税別)