外国人が感じた源氏物語
以前、源氏物語についてこんな記事を書かせていただきました。
そこに仲良くさせていただいているcoucouさんから、とても興味深いコメントで記事ネタのヒントをいただきました。
なるほど確かに気になります。
私も結局は読了できなかった「源氏物語」を他国の人が読了した事だけでもすごいですが、この日本人でも理解しがたい平安時代の世界をちゃんとくみ取れたのだろうかと、にわかに気になってきましたので、ちょっと調べてみました。
coucouさんの最新記事です↓↓↓
その前に「源氏物語」の特徴を整理しておきます。
☑千年以上前も世界最古の大長編小説(文字数は100万字以上)
☑約70年間を描き、登場人物は約500人。約800首の和歌も含まれる。
☑主人公(光源氏)の女性遍歴を過激なラブストーリーに描く
☑栄光と没落、権力闘争などの貴族社会も並行して描く
世界デビューした源氏物語
「源氏物語」は、今や英語はもちろんフランス語、イタリア語、中国語や韓国語など20ヶ国以上の言語に翻訳されて世界中で愛読され続けています。
ではその翻訳の歴史をちょっとだけ紐解いてみましょう。
末松謙澄
世界で初めて英訳したのは明治15年(1882)、明治から大正にかけて活躍した政治家・末松謙澄でした。
その冒頭には、末松の自信あふれる一文が刻まれています。
特に~いかなる外国の影響も受けずに~の部分は彼が最も強調したいところだったはずです。
「源氏物語」を是非とも世界に発信し、日本の文化芸術を広く知ってほしいという思いが強く伝わります。
しかし、彼の英訳は単調な文章で「あらすじ」に近いもので、紫式部の持つ細やかな描写までは再現されなかったため評判は芳しくなく、ほとんど読まれることなく埋もれてしまいました。
アーサー・ウェイリー
その43年後、大正14年(1925)イギリスの東洋学者・アーサー・ウェイリーが源氏物語の翻訳本・"The Tale of Genji"を出版すると、その英訳の詩的で美しい描写に、瞬く間にベストセラーとなり注目を浴びました。
彼は日本の古典文学に興味を持ち、数々の著書も翻訳・出版する中で、日本の文化や文章の微妙な表現に繋がる所作などにも十分に理解していたようです。
また彼は「10世紀の日本」の序文の中で、以下のように断言しています。
また、末松の翻訳は全54帖の内17帖のみだったため、源氏物語の真の良さを伝えたい一心で全訳に着手したといいますが、外国人のそアーサーがそこまで心が動くなんて、よほど日本語や文化の理解が深くないと気付くこともなかったでしょう。
その過程の中で彼が得た「源氏物語」の構造的特色として次の通り挙げています。
これらの効果が完全に功を奏し、見事な演出となっていることを指摘し、彼の日本文化に関しての理解度と洞察力には脱帽するしかありません。
細やかな美しい描写
世界中の方に読まれた「源氏物語」は、どのように受け止められたのでしょうか?
日本人でさえ、感想は千差万別あり、日本の文化を知らない外国人たちに受け入れられるものなのでしょうか。
私のように受け入れられなかった日本人もいるのですから、とても興味が湧きます。
サッと検索した中では次のような感想が目につきました。
それぞれの母国語で翻訳されているとはいえ、率直なところ皆さんがちゃんと奥深く理解されている事に驚きました。
気が遠くなるほど長く、盛り上がりに欠ける(個人的な意見)物語なのに、ちゃんと言葉の裏を読み取っておられることに尊敬しかありません。
知名度だけが先行する
逆に「世界最古の小説」という謳い文句に釣られて手に取った方も多いようで、その謳い文句の呪縛から離れられず、物語に入っていけないにも関わらず最後まで我慢して読んだという方もおられるようです。
私は我慢できなくて最後まで読めなかった💦
ではなぜ、そこまでして読んだのかというと、日本について学んでいると「源氏物語」が必ず出てくるので、読破しなければならないという思い込みがあったようなのです。
言ってみれば、自分の持つ日本文化への知識に「箔をつける」ためには必須の小説であり、自慢できるアイテムという感覚のようです。
中にはそれを正直に言っている方もおられます。
辛口評価をまとめると、面白くて仕方がないから読了したのではなく、世界最古の「源氏物語」だから読まなくてはいけないという感覚みたいですね。
ちなみに作者の紫式部の名前よりも、「源氏物語」というタイトルの方が知名度は圧倒的に高いようです。
日本人より日本を理解
最初に紫式部の細やかな意図を汲んで翻訳したアーサー・ウェイリーをはじめ、「源氏物語」を評価する世界の方々は、単に日本語の意味を理解しているだけでなく、本来日本人がも持つ機微をも理解し、セリフだけでなくその行動や態度からも気持ちを汲みとっています。
それは民族間の文化の違いによっては大きな誤解を招く事でもあるのに、ほぼ正確な捉え方が出来ているとは驚くばかりです。
その上で、前後のストーリーの流れを考慮して、それらの言動をどう解釈するか豊かな想像力を要します。
つくづく、翻訳というのは「直訳」したのでは成り立たないと思いました。
それを思うと、途中で挫折した私と同じく、
「盛り上がりに欠けて退屈だ」という意見もあり、人種に関係なく読み手の受け止め方次第で名作にも駄作にもなってしまうは、万国共通で仕方のないことのようです。
※トップ画像ー「石山月」月岡芳年Wikipedia
紫式部は琵琶湖南にある「石山寺」で源氏物語の起草をしたと伝わります。