マガジンのカバー画像

美術の感想・批評

14
運営しているクリエイター

#美術批評

本が美術作品になるとき(増本綾『届かなかった言葉たちを』)

本が美術作品になるとき(増本綾『届かなかった言葉たちを』)

 活版印刷作品を中心に制作する美術作家・増本綾が、京都・泥書房での個展「文字は立ち上がるか」(9/11〜17)において、写真を集めた美術作品『届かなかった言葉たちを』を発表した。本が美術作品になりうることを確信させる作品だった。通販はこちら。

1 はじめに このコンセプチュアルな作品を鑑賞するにあたっては、前書き(「前書き」と明示されているわけではないが作品冒頭に置かれた文章を本稿では便宜上こう

もっとみる
空間を彫る(須田悦弘論)

空間を彫る(須田悦弘論)

 夏の原美術館でインスタレーション「此レハ飲水ニ非ズ」を見てから、木彫りの精密な草花を作る現代美術作家 須田悦弘の世界にすっかり引き込まれてしまった。その後も各地で須田作品を観た。まだ全作品を観てはいないが、とりあえずの須田悦弘論が筆者の中で形成されつつあるので、各作品の鑑賞とともに、以下、記録しておく。

1 時間の落差: 此レハ飲水ニ非ズ(2001年、原美術館) 黒タイル貼りの古いトイレのよう

もっとみる
神の視点(内藤礼「精霊」他)

神の視点(内藤礼「精霊」他)

 金沢21世紀美術館で開催されていた内藤礼「うつしあう創造」展に行ってきた。特に印象に残った作品について感想を以下記す(特段断りなき限り写真は筆者撮影)。

1 精霊 四方を硝子で囲まれた中庭の上方、東西に一本の紐、南北に一本の紐が緩くわたされている。紐は白く細く柔らかい。
 2本の紐は風が吹くたびにふわふわ上昇し、触れ合い、擦れ合い、離れたりする。その様子から、鑑賞者は、人間同士の出会いや運命の

もっとみる