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塔の魔導師 free

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「君には魔導師の才能がある。」 奴隷階級の少年リンは、旅の魔導師ユインからそう告げられる。 その日からリンの魔導師を目指す旅が始まった。リンはユインに連れられて魔導師の街グィンガ…
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2017年3月の記事一覧

第64話「市場原理」

第64話「市場原理」

前回、第63話「ロレアとの交渉」

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 リンはテオとロレアのやり取りを聞きながら不可解な気持ちだった。二人は延々同じやり取りを繰り返しているが問題を解決するのはいとも簡単なように思われた。

(僕達の会社をロレアさんに買い取って貰えばいいじゃないか)

 レンリル・アルフルド間の輸送を独占しようと企てていたリンとテオだったが、どうもそれは無理そうだった。

 二人の保有するエレベーター

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第63話「ロレアとの交渉」

第63話「ロレアとの交渉」

前回、第62話「ユヴェンのささやかな意地悪」

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「ふあーあ。学院は退屈だな」

 教室を出たところでテオがあくびをしながら言った。

「何言ってんだよ。のんびりできていいじゃないか」

 リンとテオは久しぶりに一緒に授業を受けていた。

 今日は会社が休業日なため、最近の目の回るような忙しさから解放されていた。

 二人は帰り道を歩きながら談笑して、うららかな午後の空気を満喫していた

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第62話「ユヴェンのささやかな意地悪」

第62話「ユヴェンのささやかな意地悪」

前回、第61話「リンとシーラのオフィスタイム」

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 リンは久しぶりに学院に来ていた。

(ふい〜。やっぱり学院はいいね。時間がゆっくり流れてて)

 教室に向かうエレベーターに乗り込むとリンは学院の書を開いて何か仕事上の連絡が来ていないかチェックする。

(学院の書にこんな機能があったなんてね)

 学院の書には私的に利用できるメール機能も付いていた。

 妖精に学院の書端末にアクセ

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第61話 「リンとシーラのオフィスタイム」

第61話 「リンとシーラのオフィスタイム」

前回、第60話「訪れたアルバイト」

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 翌日からリンとシーラは一緒の事務所で働くことになった。

 シーラが事務職をしていたのは本当のようだった。

 リンが少し業務を教えただけですぐに要領をつかみ教えていないことについても自分で勝手に仕事を覚えていく。

 その日が終わる頃には雑務のほとんどをこなせるようになっていた。

「助かりました。僕一人ではとてもこなしきれない量だったので」

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第60話「訪れたアルバイト」

第60話「訪れたアルバイト」

前回、第59話「回り始める二人の事業」

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 相変わらずリンは事務処理に忙殺されていた。

(あーもう。仕事が追いつかないよ)

 リンにはやることが山のようにあった。

 エレベーターでの輸送作業はアルバイトを雇うことでどうにか賄うことができていたが、その管理はリンがしなければならなかった。

 しかも他の人にビジネスモデルを真似されないように営業秘密を守りながら管理する必要がある。

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第59話「回り始める二人の事業」

第59話「回り始める二人の事業」

前回、第58話「アルフルドのならず者」

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「ふぅ〜。やれやれ」

 リンは事務処理が一段落して一息ついていた。軽く背伸びをする。

 彼は今新しく借りた事務所の一室で働いていた。

 壁に立てかけられた時計をちらりと見る。もう日付は変わろうとしている。テオは昼に出かけてからいまだに帰ってこない。交渉が長引いているようだ。

(テオは働き者だな)

 この分だと今日の事務処理はリン一人

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第58話「アルフルドのならず者」

第58話「アルフルドのならず者」

前回、第57話「二人だけの会話」

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 アルフルドの80階層。

 そこは一等地とまではいかないがそれなりに富裕な者達の邸宅が建ち並び、大手の商会も事務所を構える繁華街である。

 その80階層の中でも高層で大手商会が多数入居している建物の一角の事務所で怒鳴り声が張り上げられていた。

「なんで徴税額がこんなに減ってんのよ」

 ロレアが机をダンと叩いて、手下の男達に向かって当たり散ら

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第57話「二人だけの会話」

第57話「二人だけの会話」

前回、第56話「砂漠色の衣服」

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「イリーウィア様。お招きありがとうございます」

「来てくれたのですねリン」

 イリーウィアはホッと安心したように胸をなでおろしてみせる。

「よかった。先日は早くに帰宅したと聞いたものですから。何か気分を害したのではないかと気にしていたのです」

 どうやらデュークはイリーウィアにそういう風に報告したようだった。

 リンはちらりと彼女の後ろに控

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第56話「砂漠色の衣服」

第56話「砂漠色の衣服」

前回、第55話「ユヴェンの決意」

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 王室茶会から数日後、再びイリーウィアから来月のお茶会の招待状が届いた。

 チケットは2枚入っていた。

 彼女はきちんとユヴェンのことを覚えていてくれたようだ。

 手紙には以下のように書いてある。

 次回は以前より小規模で落ち着いた雰囲気のお茶会であること。そのためもっとゆっくりイリーウィアと話ができること。

 リンは迷った。

 またあ

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第55話「ユヴェンの決意」

第55話「ユヴェンの決意」

前回、第54話「イリーウィアの憂鬱」

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 王室茶会の帰り、馬車から降りた後、リンとユヴェンは90階層のエレベーターステーションに歩いて行った。

 ユヴェンはお茶会の会場にいた時に比べて表情は落ち着いていたが、相変わらず無口だった。

 リンはなんとか彼女を元気付けようといろいろ声をかけてみたが、彼女は何も返事をしてくれなかった。

 とうとうリンも匙を投げてしまう。

(まあ無理も

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第54話「イリーウィアの憂鬱」

第54話「イリーウィアの憂鬱」

前回、第53話「お茶とブドウ酒」

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 魔石から放たれる光の色が変わる度にパーティー会場は異なる表情を見せていった。赤やオレンジが強くなると火山の火口のように、緑色が強くなると密林の奥深くやエメラルドの海ように、青色が強くなると深海や宇宙のように姿を変えていく。

 それらのいずれも見たことのないリンはただただ会場の幻想的な雰囲気に酔いしれるばかりだった。

 とはいえいい加減リンもこ

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第53話 お茶とブドウ酒

第53話 お茶とブドウ酒

前回、第52話「きらびやかな世界」

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 リンが座るとすぐに胸元のポケットがモゾモゾと動き出してレインが飛び出した。

 イリーウィアの側からもペル・ラットが現れる。二匹のペルラットは再会を祝してテーブルの上で互いの鼻先をこすり合わせる。

「レイン!」

「あらカラット」

 イリーウィアはペル・ラットにカラットと名付けたようだった。

「そう言えばこの二匹にとっても久々の再会でした

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第52話「きらびやかな世界」

第52話「きらびやかな世界」

前回、第51話「初めてのお茶会」

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 王室茶会は見たこともないくらい美しい備品で埋め尽くされていた。

 テーブルは真っ白なクロスに銀色の食器で統一され、七色の光を放つ魔石がそこかしこに配置されている。

 魔石はゆっくりと点滅して、輝きを強めたり弱めたり、色彩を濃くしたり淡くしたりを繰り返し、互いに互いの光を際立たせつつ、ひとつの色が目立ちすぎないよう交互に彩度が調節されていた。

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