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邪道作家第四巻 生死は取材の為にあり 分割版 その5

新規用一巻横書き記事

テーマ 非人間讃歌

ジャンル 近未来社会風刺ミステリ(心などという、鬱陶しい謎を解くという意味で)

縦書きファイル(グーグルプレイブックス対応・栞機能付き)全巻及びまとめ記事(推奨)



   7

「何の用だ」
 まぁ現実にそう行動できる私の姿は、実に希だが。なるのかどうかも分からない以上、やはり気取っても仕方があるまい。というか、何故こんなアンドロイドが差別される、彼ら彼女らからすれば忌々しい?(そもそも、連帯感とかあるのだろうか?)惑星で、私を待ちかまえているとは。
 そういえば、こいつの分身みたいなアンドロイドを、何体かバラバラにしたっけな・・・・・・完全に記憶から消えていたので、忘れていたが。
 謝罪でもすればいいのか?
 しかし、謝罪、という行為には、私でなくても意味なんて在るまい・・・・・・よく起業家や政治家が申し訳なさそうに「謝罪」という便利な儀式をしているが、すまなさそうにしているから良いのであるまい。
 その辺りを勘違いする人間は多い。
 頑張っている風に「見える」から応援したり、誠実そうに「見える」から結婚して後悔したり、貧乏そうに「見える」から無視したり、まったく貴様等自分の脳で考えないのかと、思わざるを得ない人間は。
 謝ったから何なのだ。
 頑張っている風に見えることにも、すまなさそうにすることにも、意味はない。それが誠実だと思っているのか知らないが、腕を千切られて殺されかけても、同じことを言うのか?
 私は謝ったりするほど、無自覚でもない。
 最初から開き直っている。
 つまりは質が悪かった。
「恨み言でも、言いに来たのか?」
 とりあえずそんな会話を振った。相手の意図が分からない以上、適当に応対しよう。
 面倒だからな。
 それが女なら、特に。
「ひどいなぁ。私がそこまで無責任な女に見えるのかな?」
「見えるな」
 実際には思わないが、人を挑発して怒りに身を任せるのを我慢し、苦しむ姿は見ていて楽しいものだ。
「ふぅん」
 と言って。、彼女は座った。
「にしても意外だったよ、こんな所で出会うなんてねぇ」
「そうだな、意外だな」
 何を企んでいるのか分からないときは「あなたの考えなんて全てお見通しですよ」という態度を崩さないことだ。
 相手が勝手に折れることもある。
 初歩の初歩、だ。
 人を騙して優位に立つための、だが。
「私はさ、意外と有りだと思うんだよねぇ」
「・・・・・・それは、この惑星の環境のことか?」
「そう」
 私に責任など求められても困るが、しかし意外な回答だった。やはり関係ないアンドロイドのことは「どうでもいい」と考えるのだろうか。
 と、思ったが、しかし違った。
「私たちが人間を奴隷にするのに、丁度良い口実になるじゃない?」
 などと、恐ろしい案を出すのだった。まぁ、私とて関係ない場所でやる分には、どちらも勝手にしてくれとしか、思わないが。
 えげつない女だ。
 同胞に同情とかしないのか? 私が言うと極端に説得力が失われるが、しかし基本的に生物というのは、共存共栄、種族の繁栄を第一にするモノだと、そう思っていたが。
「違うよ」
 そうじゃない、と彼女は言った。
「生物の基本は利他行為だもの。なんて、そんな嘘くさい妄言を信じたところで、結局はどんな生き物でも、アンドロイドでも、「死」という恐怖から逃れる為なら、何だってするよ」
「アンドロイドに「死」か」
「そう。私たちはね、消えるのが怖い。私たちは人間とは違ってどこからともなく産まれた。あの世なんて信じられるわけもないしね」
 だから、怖い。
 死が、消滅が怖い。
 ますます、私とは逆の考えだ。
「死ぬのが怖くないの?」
「痛いのは嫌だがな。死んであの世があったとして、そこで悠々自適の生活が出来るなら、同じことじゃないか」
 私は人間だからな、と嫌みたらしく言った。
 だが、
「もしなかったらどうするつもり? あの世なんて、あったとして、追い出されれば終わりじゃないかしら?」
 重箱の隅をつつくような女だ。 
 まぁ、私なら追い出されることも、なきにしもあらず、なのだろうか?
 死は消滅である。
 だとしたら、私はどう思うのだろう?
 いや、そもそも消えるのだから、そこに痛みも苦しみも葛藤もない。、在るはずがないのだ。
「別に」
 だから言った。
 失言だったかもしれないが。
「何も、無いな。終わるなら、ただそれだけだ」「・・・・・・そんな考えは生きていないね」
 君はとっくに死んでいるよ、とそんな失礼なことを言うのだった。
 知ったことか。
 死んでるなら蘇らせれば良いだけだ。
「なら、精々生きて人生を楽しめるように、させてもらうさ」
「そう考えてしまっている時点で、無理だということは分かっているんじゃないかな」
 いっそ哀れむように、そう言うのだった。
 怒りは感じない。
 ただ、的外れだなぁと思った。
「だからどうした。やるべきことを、やるだけだ・・・・・・当人の意志に関わらず、人生など、元からそんなものだろう」
「だから、君は自分が人生を楽しめないし、楽しめるようになれないし、それらを変えられないことを誰よりも自覚した上で、それを目指している・・・・・・まるで役目を終えた機械が、かたくなに仕事を続けているみたいだよ」
 大きなお世話だ。
 そう思うなら金を払え。
 噺はそれからだ。
「死に続けているよね」
「だからどうした。世の中金だ。私は」
「でも、金で幸せになれないことも、やっぱり知っているよね?」
「生きるには必要だ」
「生きるためで、活きる為では、無いでしょう」 にやにやしながら・・・・・・不気味の谷問題は解決したらしく、実に鬱陶しい表情だった。
 これをブン殴ったらすっきりするかな。
「物語物語、物語だ。作家として、活きるためにこれ以上のモノはあるまい」
「逃げているだけじゃない? やりがい搾取じゃないけどさ、君はそうやって、解決できない問題から、逃げてるだけだよ」
 良いように言ってくれる。
 何か解決策でもあるのか? いや、大抵こういう風に偉そうな奴は、人間でもアンドロイドでも上から目線で言うだけだ。役には立つまい。
「解決できない問題、と言ったな」
「言ったね。それが?」
「なら、尚更それ以外に方策は無いではないか・・・・・・永遠に解決できない門の前で、いや門すら無い場所で、繰り返すだけだ」
「そうでもないよ」
 君は幸せになろうとしていないだけだよ。
 そんなことを言うのだった。
 言うだけならタダだが、しかし言われる方がたまったものではないという気持ちを、理解するのに今回のこの会話が必要だったというのなら、自業自得の気が、ないでもなかった。
「なら、幸せになろうとする。具体的に、どうすればいいんだ?」
「誰かと一緒に育めばいいんだよ」
 それが出来れば苦労しないのではないか。
「育んだところで、私はあっさり捨てるぞ・・・・・・ゴミのようにな。忘れたとか、飽きたとか、そんなどうでも良い理由で」
「だから、それを我慢すればいいんだよ。我慢して、育んで、成し遂げれば、それは本物じゃないのかな」
 かもしれない。
 だが、一つ決定的な弱点がある。
 何故、この私が「幸せごっこ」の為に、我慢してまでそんなものを守らなければならないのだ。「馬鹿馬鹿しい。それは見栄えの良い最高の結末だろうさ・・・・・・だが、それだけだ。私は小綺麗な見栄えの良い、読者が満足するようなモノの為に生きている訳じゃない」
 死んでいると言われた人間が、皮肉だが。
 しかし事実だ。
 幸せのために、人間性を捨てろなど、流石持っている人間は言うことが違う。
 忌々しい限りだ。忌々しく思う心も、やはり私には無いのだが。
「さんざん今までこうやって歩いてきたんだ。それを「こうした方が、皆幸せになれているよ」などと言われて納得できるか」
 大体、皆が言う幸せ、という響きは実に胡散臭いものだ。大多数が言っていようが、それは言っているだけで、私には関係がない。
 押しつけがましいのは御免だ。
「ははは、御免御免。やっぱり私には君は救えそうもないね」
「大きなお世話だ。救われる覚えなど無い。大言壮語も甚だしい。上から目線で勝手なことを言ってるんじゃない」
 あろうことか、それを私に言うな。
 救う、など、頼んだ覚えもない。勝手に満足するのは勝手だが、偉そうに「救う」だと?
 図に乗るな。
 私の命運は私が決める。
 幸福の基準も。
 まぁ、決めたところで中々、決めたとおりに進んでくれない命運だが、指針はあくまで私だ。
 誰かに決められてたまるか。
 まして、自己満足の「救い」などに。
 余裕ある人間の「救い」など、ロクなモノではあるまい。
 お前達が救いたいのは私でも、貧困にあえぐ弱者でもない。
 ただ「良さそう」なことをすることで、他でもない自分自身を救いたいだけだ。無論、そんな理由ですら、私は人を救ったりはしないがな。
 自覚のある悪党など、そんなものだ。
「まぁ救うために金をくれるなら、喜んで貰うがな。金も払わないくせに、でかい口を叩くな」
「じゃあ払おうか?」
「そうして貰おうか」
 とりあえず、ここの代金かな。
 払ってくれるんなら、何か他にも頼むとしよう・・・・・・そんなに腹は、減って無いのだが。
「流石、万能天才作家様は違うな」
 と、わざと持ち上げるようなことを、私は言うのだった。言っては見たモノの、綺麗事でなくこと「作家」という生き物には、才能という概念が存在し得ないのだが。
 確かに、文才はあるかもしれない。
 だが、文章を小綺麗にまとめるだけで、人間を感動させれれば苦労すまい。結局の所、書く人間の力、それも有無を言わさぬ位の「人間力」とでも言えばいいのか、これは経験によって培われるモノであって、その人間の「在り方」や「生き様」で個性が決まり、つまるところ才能だけの作家というのは、つまらないどころか、まともな物語を書けなかったり。、花火みたいにすぐ消える人間が多い、いや全てだろう。
 ひねくれてなければ書けないと言うのは、なんとも言い得て妙な話だ。まぁ、アイドルのように扱われているのはあくまでも、私のように「生き方」ではなく「売り上げ」だとか「前評判」で華々しく生きている人間であって、私のように、人生そのものが破滅型の人間は、希だろう。
 言っておいてなんだが、私は歴代のそういう作家共のように、破滅する気も無いがな。
 私は邪道作家だからな。
「酷いこと言うね」
 案の定、機嫌を損ねたようだった。当然だ。貴様の物語はたまたま能力があるだけの人間が書いたもので、中身がないと公言するようなものだ。 作家に才能は必要ない。
 最悪の人格と最悪の性格と最悪の思想・・・・・・・・・・・・それらを揃えるだけで、文章をまとめる能力を、あとは磨いておけば、誰でも成れる。
 あまりそうなろうという人間も、いないだろうが・・・・・・まぁそれは置いておこう。
 今はどうでも良い噺だ。
「私の人生が、そんな薄っぺらく見える?」
「見えるな」
 見えないが、そう即答した。
 向こうにはバレバレだろうが、まぁ知らん。
「才能だけでは無いにせよ、才能があったこともまた、事実だろう?」
 アイドルとしての才能かもしれないが。
 作家としてはともかく、私のように全てのステータスが0で固定ということは、いくら何でも無いはずだ。
 私の場合、数値そのものが無い気もするが。
 結果が伴えばそれでいい。
 ところで、意外かもしれないが、こういう才能豊かそうな人種は、実は私は嫌いではないのだ。 使いやすそうだからな。
 この女は万能型の天才だろうか。いずれにせよ他でもないこの私に、劣等感など、有ろうハズがないのは確かだ。世の中には能力差に劣等感を抱いたり、あるいは目立とうとしたり、尊敬されることえを望む人間が、非常に多い。
 馬鹿な奴らだ。
 能力差など、あろうが無かろうが同じことだ。過程が早いと言うだけで、大局的にはどうでも良いモノでしかない。
 才能など、意味は無い。
 才能など、価値は無い。
 あるのは金だ。
 才能に憧れる割には、人間は「平等」をよく歌う。それには理由がある。
 誰かよりも優れていない、ということを、直視できないのだ。
 精神が、弱いのだ。
 頑張ることに意義がある。一人一人が掛け買いのない存在だ。ナンバーワンよりオンリーワンで誰もが素晴らしい個性である。
 馬鹿が。
 オンリーワンというのは、私のように突き詰めて果てを覗き、それでいて狂っていて、どうしようもないほどに理解すらされない、人間の枠を外した異端者だ。お前達はただ単に、自分たちが「替えの効くどうでもいい存在」であることに、耐えられないだけだろう。
 私は自分自身に替えが効くとは、あまり思わないが・・・・・・究極的には私の記憶と人格をプログラム化してクローンにぶち込めば、それで代替品の完成だ。代わりが効かないなら代わりを0から作り上げるまでだ。
 安上がりだしな。
 本物より偽物の方が、価値がある・・・・・・いくらでも作れるし、代わりが効き、それでいて安くこき使える。
 「本物」というブランド名に、騙されすぎだ。馬鹿か貴様等は。どうでもいいではないか。
 代わりが効くかどうかなど、どうでもいいのだ・・・・・・他でもない人間こそが、そも何百億何千億といるのだから、替えが効かない方がおかしいではないか。
 問題は、己の満足だ。
 自己満足だ。
 自己満足でも、それを「良し」と笑い、それでいて金を手にし、その他大勢などという、至極どうでも良い存在に、振り回されないことだろう。「確かに、そうだけどさ」
 言って、才能に恵まれたアンドロイド作家様は言うのだった。
「それは君も同じじゃないの?」
「・・・・・・私の作品のどこに、才能を感じると言うんだ?」
 狂気なら感じそうだが。
 そんな作品、あったっけ・・・・・・最近執筆しようと思って手を着けているのは、「邪道勇者」という勇者を殺してしまった主人公が、保身のために邪魔者を殺し、生活を守る噺だ。
 この噺のどこに、才能があるのだろう。
 不思議だ。
 まぁ、見る人間によって、景色とは変わるものだろうが。私からすれば、そんな便利なモノがあれば、案外稼ぐだけ稼いで、すぐに作家業をやめている気も、しないでもないが。
 毎回、嫌々、もうやめようもうやめようと想いながら、金にならないことをうんざりしながら書いている人間に、才能?
 まぁ、人の意見など、まして私に対する評価など、どうでもいい。話半分で聞こう。
「まぁ、貴様程度の作家からすれば、無理はないかもしれないがな」
 などと、適当なことを言った。
 才能があるかなど、知るか。
 それこそ、その他大勢が馬鹿騒ぎして、決めるものではないか。何故私がそんなどうでもいいことに気を払わねばならんのだ。
 私が気にするのは己の利益だけだ。
 他は気にする気すらない。
 逆に言えば、その他大勢共はアンドロイドという「優秀な奴隷」をはべらかせることで、己の優位性、というか優越感を感じるために、人間優位の社会を築いているのだろう。
 暇な奴らだ。
 そんなことで満足できるのだから、人生楽そうで羨ましい噺だ。
「先生のさ」
 運ばれてきたジュースを口にしながら彼女は言うのだった・・・・・・喋るか飲むかどちらかにしろ。何事も、一つに集中しなければ、良い結果は出せないものだと思ったが、アンドロイドの有機脳は並列的に物事を動かすのが、得意らしかった。
「作家としての在り方って、特殊だけど、けど先生以外にも、同じ環境下だったら、出来る人はいるんじゃないかな」
「なるほどな」
 わからなくもない。
 だが、今更意味は無い。
 仮定の話など、特にな。
「しかし事実として私は、できあがっている。非人間として作家として、最悪の人間としてな」
 自分で言ってなんだが、そこまで大層なのかは知らない・・・・・・あの失礼な小娘が「怖い」と評したから、それに合わせただけかもしれない。
 まぁ事実と齟齬があったとして、別に困らないから構わないが。
「確かにね。先生は最悪だよ」
「ほう。具体的にどの辺りだ?」
 心当たりが有りすぎて、正直どれか分からないのだが。
「そうだね。まず人間どころか、アンドロイドだって自分より下に見ているところかな」
「それは違うな。単に自身の優先順位が高いだけだ」
 別に自分に特別意識など、無い。
「代わりが効かないと思ってるでしょ?」
「事実として、中々そういう人間に会えないからな・・・・・・私自身、凡百でも構わなかったが、しかしそれを言っても仕方有るまい」
 単純な事実として。私は外れている。
 事実から目をそらして、自分みたいな人間が他に沢山いるはずだ。頑張らなくてもその内良い家族を得て幸せに成れるさ、などと頭の悪い現実逃避をする気には、子供の頃からならなかった。
 因果な人生だ。
 人間は「特別」であることや「異端」であるモノにあこがれを抱くが、しかし「特別」は要領次第で楽な人生送れそうだが、「異端」はロクなものではない。
 ハッキリ言って、割に合わん。
 今更「君みたいな人間は沢山いる」などと言われて、納得できるか。なら今までかかった、いらない労力に対する謝罪金と、他の人間が持っているらしい「心」とそれに付随する「心からの信頼」だの「愛」だのを、請求すればいいのか?
 そんなもの、あるとは信じていないが。
 愛は依存であり、寄生であり、金で買えるものであり、価値はない。
 友情は利用であり、寄生であり、金で買えるものであり、価値はない。
 そんなどうでも良いモノを持っている彼ら凡俗は異端や特別に憧れるが、勝手な噺だ。
 私は自身が異端である証明などに興味は無い。どうでもいい。金をくれるのか?
 問題は。
 それを言い訳にする人間が、目障で耳障りでその他大勢は大抵そうだという事実だ。
「まぁどうでもいい。なら、そんなどこにでもいる私のような人間に、何が言いたい?」
 実際どうでもいい。
 その方が本が売れそうだしな。
 異端は理解されづらい。
「先生はさ、天才だとか有能だとか人種とか性別とか、まるで気にしないけど、どうなの?」
「何がだ」
 結論を言え結論を。
 女は主語が無い。
 だから噺が長いのだ。
「悩まないの? 自分の立ち位置とか」
 馬鹿が、と言おうとしたが、これでは罵声を吐いているだけで、返答とは言えまい。仕方が無く私は丁寧に「しない」とだけ言った。
 優しいもんだ。
「立ち位置? くだらん。それは金になるのかということだ。人間は金があればなんでも出来る」 数少ない私の信条だ。
 死んでも変わりそうにない。
 変わるような人間性など、持ち合わせがない。「人の目が、気にならないの?」
「私からすれば、有りもしない他人の目線に神経を使うなど、意味不明だがな。結果的に、金になればそれでよかろう」
「けど、だから人間関係が上手く行かないんじゃないのかな」
「知るか。別に無くてもいい。必要なのは金だ」 これは本当だ。
 そも、そんな脆い人間関係、一体何に使うというのだろうか。いや、答えは知っている。
 孤独であることに、耐えられないのだろう。
 耐えられるのはそれはそれで、どうかしているかもしれないが、まぁ知らん。
 いすれにせよ、産まれたときから暗闇の中にいた人間に、太陽の素晴らしさを説くことほど、意味のない行為もないだろう。
 神を知らない人間に神を説くようなものだ。
 こちらの都合を考えないから、自分たちこそが「常識である」と思いこむから、そんな傍迷惑なことが出来るのだろうが。
 図々しい奴らだ。
 私に言われるようではおしまいだぞ。
「それで、不安にならないの?」
「別に」
 倫理的にならなければいけなさそう、だから私にそう言っているのだろう。しかしそれは、一般的な倫理観というのは、単に数が多い奴らがそう言っているだけで、私には関係ない。
 一人だろうがなんだろうが。
 私にはどうでもいい。
 物語、物語、そして物語。
 私に今重要なのは、とりあえずそれだけだ。
 勝手に同情して良い人ぶるなら、金と作品のネタを寄越せ。あとはバカンスも欲しいかな。
 いい加減年中物語を考え続ける生活から、少し解放されたいモノだ。頭を空にするのも、それはそれで得るモノがあるだろう。
 それでも考えてしまうから、私の場合自身に凶悪な自己暗示をかけないと、手が震えるのだが。 面倒な噺だ。
 自己暗示に関しては、それこそ昔からやってきたものだ。自分には感情がある。自分は豊かな人間である。面倒なのでそうやって周りに合わせたり、飽きたら本性を魅せて黙らせたりしてきた。 自分勝手なだけだが。
「気にする必要がどこにある? 能力の差異など有って無いようなものだ。頭の回転をするくらいなら、演算機械を引きずって歩け」
 その方が安くつく。
 何がおかしかっのか、彼女は笑って、
「そこまで開き直れるのは、もう才能だよ」
 と言うのだった。
 私はよく分からなかった。
 誰か分かるように説明しろ。
「ふん、大きなお世話だ」
 強引に会話を打ち切り、とりあえず発言の意図は分かっていることにした、いや分かっている。分かっているが、追求はしないだけだ。
 有能さなど、使われるためにある。
 使えるかどうか、気にするのはそれ位だ。
「けどね、最近はそうもいかないんだよ」
 そう言って、彼女は資料を取り出した。

 机に出された資料には、例の情報屋の少女、いやアンドロイド? の写真が付いていた。
 あいつアンドロイドだったのか。
 勿論、ここは分かっているフリをしよう。
「予想通り、そうだったか」
 などと言った。
 何が予想通りだ。
 予想ではあの二人と、山有り谷有りの、B級映画のような無難な仕事をするはずだった。
 いきなり死んだから驚いたぞ。
 まぁどうでもいいがな。
 結果が伴えば、それで。
「君のその考え、危ういよ?」
「何故だ?」
「どうでもいい、けどなんでもどうでも良くしたら、自分自身さえ価値を失う。そんな在り方は人のそれじゃないね」
「・・・・・・人のそれじゃなかったら、困るのか?」「・・・・・・まぁ、いいけどね」
 これが彼女の正体だよ、とフカユキこと、アンドロイドと人間のハーフは言う。しかしそれはこいつも同じではないか。
「それの何がおかしい? アンドロイドの百や二百、どうでもいいだろう」
「どうでもいい、ね。君ってどうでも良くないことって、あるの?」
「無論だ」
 保身、が真っ先に立ったが、格好が付かないので、二秒ほど考え、そして
「金だ」
 と答えた。
「それって、ただの思考放棄だよね」
「そうかね」
 そんなつもりは、あったかな。
「君は幸せが欲しくないの?」
「例えばなんだ?」
「人並みの生活」
 また、皮肉を言う。
 それが出来れば、苦労はしない。
 こんな人間には、成っていまい。
「ううん。目指すのは自由だもの。それを目指さないのは、逃げだよ」
 何故私の目指す目的を勝手に決められねばならないのだと憤慨しそうになったが、ああ、成る程な、つまりそういうことか。
 この女は私を心配しているのか?
 心配ほど、何の役に立たないモノは無いが。
「なら目指すとしよう。もう目指しているのかな・・・・・・いずれにせよアテは無いが」
「それが普通だよ。アテは無いけど、ないからこそ頑張る。それが君には足りないんじゃないかなと思って」
「綺麗事はいい。役に立たんからな」
「そうだね」
 残念そうに、言うのだった。
 そうされたところで、私からすれば勝手に綺麗事を言って砕け散っただけの女だが。
「この少女は天才だよ」
「ふぅん」
 面倒なのでそう言った。
 本物の天才。
 本物の奇才。
 本物の異才。
 私にとってはあまり意味のない言葉だ。
 とりあえず能力を、当人の依存している部分・・・・・・当人が最も自身のある部分をはぎ取って、中身を確認してから心を暴く。
 そんな私には、皮が一枚増えたかの違いでしかない。あってもなくても同じだ。人間であることには、いや、アンドロイドだとしても、それが一つの個性であることには、変わりない。
 ただの肩書きだ。
 社長であるから俺は偉いと、思いこんでいる人種と、根本的には変わるまい。所詮肩書き、人に自慢する以外に、使い道など有りはしない。
 それだけのものだ。
「・・・・・・あまり実感がないようだけど、このご時世に最高の頭脳を持つと言うことは、電子世界を支配すると同じかな。全能性で言うなら大統領より厄介かも」
 惑星の支配者よりも支配者だよ、などと、要はこれだけの才能が有ればなんでも出来る、とそう言いたいらしかった。
「彼女は、アンドロイドの産みの親が作り上げた「娘」だからね」
「娘?」
 ベースは人間ということか。
 しかし、違った。
「えっとね、彼女は生物の在り方の限界点を計る為だけに、作られたテストモデルなの。要は生身の肉体を維持しながらどれだけのスペックを、人間の形のまま持たせられるか? その実験体だったみたい」
「それで。今回のお姫様騒動に、何の関係があるんだ」
「当然、それを利用しようと考えている人間の仕業だろう・・・・・・そう思ったんだけど」
「何だ」
「佐々木狢って人間? がどうも首謀者らしいんだけどさ、何の情報も入らなくてね。本当に人間なのかなぁって位に、過去がないの」
「情報屋によれば、いくつかの前科はあるようだったぞ」
 最も、法的には何もしていなかったが。
 本物の悪党とは、悪だと悟られないものだ。
 だからこそ厄介なのだが。
「その頭脳を使って、何かしようとしているとするならば・・・・・・いっそのこと、惑星全ての量子送電網の破壊を試みればいいんじゃないのか?」
「すごいこと考えるね・・・・・・惑星全体が大混乱に陥るし、そもそも出来るの?」
「出来るだろうな」
 サムライの出し入れ可能な日本刀は、そもそもバレないで物質を破壊することに、非情に有用な武器だ。
 まず見えないわけだからな。
「サムライの武器で切られたモノは、魂ごと破壊される・・・・・・なら、送電網の大本を切るか、あるいは・・・・・・まぁ言っても仕方ないのも事実だ。相手がただの天才ならこれで足りるが、どうも、今回の相手はそういう技術云々の物理法則が、通りそうにないのでな」
 あまり人のことは言えないか? いや、私ほど常識にとらわれた人間もいまい、私個人が勝手に決めた常識だが、しかし、人間なんてそんなものだろう。
 箱の中のカブトムシを、他に種類があるとも知らずに、「これこそが唯一だ」と、思い上がり甚だしい考えで生きているものだ。
「君は天才をどう思うの?」
「どうでもいいものだ」
「OK、質問を変えるね。君はこの世界が、理不尽と不条理に満ちたこの世界に、不満は無い?」「不満?」
 それこそ無意味だ。
 不満を言って解消されるなら、苦労しない。
「いや、でも実際不満はあるものでしょ?」
「確かに、いや、どうだろうな」
 不満か。
 それはそれで人間らしい。
 不条理と理不尽に対して、あるにはある。
 しかし、だ。
「それが何だ。どうでもいいことだ。あろうがなかろうが心底同じだ。そんなものはな、どうでもいいのさ。不満だの才能だの理不尽だの不条理だの劣等感だの、所詮心の内での、自身の内での葛藤にすぎん」
「でも、自身の世界は、当人のすべてだよ」
「だろうな。なら、好きなように塗り替えればいいのさ」
「そんな器用な真似」
「出来るね。というかしているじゃないか。皆の意見に合わせているだけで、事実人間の常識はどうとでもなるものだ。だからこそ、物質的に満たしさえすれば、人間の可能性は無限大だ」
 世界は金で出来ている。
 金で買えないモノはない。
 同様に、己で変えられぬ内面など、あるはずがないだろう。私か? 変える気がないだけだ。
 この在り方を、気に入っているからな。
 必要とあれば、押しつけがましい善意を良しとするボランティア団体の、胡散臭い人間にもなるだろうさ。
 そんな必要は無いままだろうが。
「ふーん。そういう考えなんだ」
 なら、ブレないのも当然だね。そう言って物思いに耽るのだった。女の考えという奴は、どうにも気分に左右されすぎだと思う。ただ単に、外からだとそう見えるだけだろうが。
「君はロマンチストだね」
「はぁ?」
 しまった、油断していた。
 これだから長期間の会話は疲れるのだ。
 女は喋りすぎだ。
「私のどこに、ロマンがある?」
 そもそも、ロマン、という言葉の意味は、かなり大ざっぱにしか知らないが、私のような人間に不似合いなのはわかる噺だ。
「だって、そうじゃない? 人間を信用していないくせに、誰よりも人間の可能性を重んじていてそのくせ、弱い人間を許さない」
「買いかぶりだ」
 立てられて良いことは、何もない。
 高いところから、落ちたら怖いではないか。
 大体が女のそれは、大抵世辞でしかない。
「でも、君は尊いモノの可能性を、捨てられないんだよね?・・・・・・幸福が手にはいるとは思っていないけど、存在しないと思い切れない」
「占い師か、お前は」
 コールドリーディングも良いところだ。
 噺にならん。
 適当にも程がある。
「手に入れるさ、金の力でな」
「それもポーズだよね? 手には入らないモノよりも手に入りそうなモノで、「自分は幸せだ」という、自己暗示をかけているのかな」
 良く喋る女だ。
「何か悪いか?」
 だから開き直ることにした。
「別に。ただ、それじゃあ幸せには成れないよ」「偉そうに言うのは勝手だが、代案もない奴が好き勝手言うのは、ただ見苦しいだけだぜ。お前は間違いだと想い正そうとしているのか知らないがしかし、口だけなら猿でも動かせる」
「・・・・・・だね。きっと、君にしか出来なんだとは思うよ。他ならぬ君のことだし、何より、この世界で君と同じ景色を共有できる人間は、きっと同類の人間ですら、難しいと思う」
 あけすけにモノを言う女だ。
 言われなくても、だ。
 生まれる前から知っている。
「君は生きることを「やりすぎ」ているだけなんだと、私は思うけど」
「どういうことだ?」
 意味が分からない。
 生きることに、やりすぎ?
 そんなモノがあるのか?
「だって、人生って大概人間の手じゃどうにもならないことの方が、多いでしょう? 君はその全てをどうにかしようと、している」
 それはやりすぎだよ、と。
 当たり前のように言うのだった。
 しかし、言われるまでもない。
「ふん、その方が面白いだろう」
「けどね、そんな行き着いてしまった生き方じゃ人並みではあり得ないような、破滅しかないよ」「望むところだ」
 それはそれで、見応え、経験する価値がありそうだしな。
 そも、人間は金以外面において、つまりは人間の精神面において、破綻するべきだというのが私の信条だ。
 生きていれば、いつか死ぬ。
 死なないにしても、どうせなら行けるところまで行き着き、たどり着き、果てを見るべきだ。
 作家なんて、まさにそういう生き方だ。今更修正など必要あるまい。
「大体が、そんな中途半端な信条だから、貴様の物語はつまらんのだ」
「・・・・・・言ってくれるね」
「言うね。小綺麗にまとまった物語の、何が面白い? 物語が作者の魂の在り方ならば、限界を超えて行き着いたモノを魅せなければ・・・・・・・・・・・・・その方が、面白い」
「君の基準って、全部それだね」
 私はコーヒーを口に含んだ。先ほど頼んでおいたのだ。アンドロイドの奴隷市場の中であろうがコーヒーの美味しさは、不変だ。
「カウンセリングは結構だ。さて、そのショボい天才少女が、一体なんだというのだ?」
「ああこれね。でも、君の、先生の方こそ、どうして助けようと思ったの?」
 そんな人道的な人だっけ、と失礼なことを言うのだった。私のような人道的で道徳的な、素晴らしい人格者に向かって、ダメだ。言っていて気分が悪くなってきた。口には出していないが、出さなくて良かった。
「単純な興味だ。そういう意味では、女は助けるかどうかさえ、現状では未定だな」
 お前は大変そうだが、まぁ頑張って生きろとか適当なアドバイスをして、そのまま帰るかもしれない可能性は、高い。
「本名は佐々木 葵」
「佐々木?」
 同姓だろうか。
 確か、標的もそんな名前だったが。
「詳しいことは不明だけれど、この天才少女様は現行のどんなアンドロイドよりも優れた性能を持っているわ」
 お姉さん嫉妬しちゃうなぁ、などと気持ち悪いことを言うのだった。精々、数年単位しか生きていないというのに、アンドロイドは成長速度がいささか早すぎる気がしてならない。
 不気味の谷を超えたアンドロイド。
 それこそ、彼ら彼女らは、どこまで行き着くのだろう? 人間を超えて尚、心を手に入れて尚、それこそ私が作家として踏みとどまることを知らず、進み続けるように・・・・・・歩き続けるのか。
 運ばれてきたドーナツをかじりながら、そんなことを考えるのだった。
 やはりコーヒーに合うな、これは。
 チョコレートは素晴らしい。
「君には欲しいモノなんてないんじゃないかな」 妙なことを言う。
「私ほど物欲にまみれた人間も、珍しいと思うがな」
「必要は発明の母だっけ? けど君には必要しかないんだよね。欲しい、心の底から何かを望むことが、きっと無いんだ」
 だから君の願いは神様だって叶えられない。
 そんなことを言うのだった。
 叶わない、か。
 しかし私はそれに対して開き直れる人間である・・・・・・叶わないなら買えばいい。
 それが私だ。
 潜在意識をコントロールして、無いモノを映し出す・・・・・・それも作家の役目みたいなものだ。
「だからどうした? そんなことでこの私が揺らぐとでも、本当に思っていたのか?」
「いいや。ただ、君は何なのだろうと思ってさ」「どういうことだ」
「人間の在り方じゃない。君は自分のことを化け物だとか最悪の人間だとか良く評しているけど、けれど最悪の人間だって、ここまで虚ろじゃないと思うよ」
「思うのは自由だからな。好きにしろ」
「はは、確かに。けれど君はそれでいいのかな・・・・・・君は本当に、独りでいいのかい?」
 けれどけれどと五月蠅い女だ。
 接続詞に恨みでもあるのか。いや、接続詞だったっけ。文法などまともに勉強したことがないからな。作家としては我流なのだ、私は。
 ただ単に勉強嫌い、とも言うが。
「どちらでも」
「嘘だね」
「事実だ。実際、私には望むべくもない。誰にでも不可能だろう。神が全能でも不可能だ。無い望みは叶えられまい。だが私はそのことに被害者面して金を請求しないほど、善人でもない。貰えるモノは貰うだけだ。だから金が欲しい」
「それでいいの?」
「別に。ただ、まぁ道中手にはいるなら」
 同じことを何度も言うのは精神的に苦痛だ。
「貰ってやってもいい。最も幸せというのは育むものだ。可能なら育ててやるさ。そんな相手が見つかるかは知らないが、育てるだけ育てて、私の眼鏡にかなわなければ、捨ててやるさ」
 役に立たないならば必要ない。
 私は幸福の為に自身を犠牲にするつもりはさらさら無いのだ。
 あくまで私個人が最優先。
 そのための金だ。
 愛情も友情も人徳も全て当人の勝手な思いこみだ。この世界は自己満足で出来ていると言ってもいい。だから私は構わない。
 私個人が満足できれば、それで構わない。
 いずれにせよ過程が何であれ同じ結果にたどり着ければそれで構うまい。才能など、その過程が華々しいだけのモノだ。
 必要とあれば、それも買うだけだ。
 幸福すらも、それは同じことだ。
「君はこれ以上ないくらいに幸福な人間だよ」
 どういうことだと問う隙すら与えず、彼女、アンドロイドと人間の混血は、一切の反論の余地も一切の行動の余地を与えずに、そう断言した。
「君は幸福になる必要なんて無い。すでにそうなのだからね・・・・・・人間の不幸は「足りない」と言う気持ちから発生するものだ。対して、君に足りないモノなどあるのだろうか? 否、否、否だよ君。君には個体として完成されている思考があるのだからね。自分以外はどうでもいい、それでいてどんな災厄もどんな最悪すらも、君はいっそのことそれを愛してしまえる。そら、超え利上の至福があるかい?」
「下らん。何が幸福かは私が決める」
「だろうね。だからこそ、むしろ君は振こうに羽成りえないんだよ。君に不幸という概念は無い。君にとって世界は、「こいつをどう楽しんでやろうか」という、純粋な疑問を満たすためのモノでしか、ないわけだからね」
「それが?」
 私にも分かるよう説明しろ。
 女は回りくどいから嫌いだ。
 結論を言え結論を。
「結論、つまり君は「自身が自身を満足させる」ことでしか、幸せにはなれないのさ。誰かのおかげで幸福になることを良しとしない、という点に関してだけ言えば、君は大した大人物だよ」
「それで」
「君は反応が薄いねぇ。普通ここは否定したり戸惑ったり怒るところだよ。まぁ君はそういう人格をしているからこそ、そんなふざけた境遇でも、自我を保って、いや凶悪なくらいの自我で、周りを残らず滅ぼせるのだろうけどね」
「誉めても何も出ないぞ」
 そうは言ったが、誉められているのか?
 まぁ、どちらでもいいが。
 私は構わない。
 そういう人間だ。
 まさか、ここで人間らしく戸惑うなら、最初からこんな人間になっていまい。
「ふふ、君は面白いね」
 知るか、と思ったが、金を持っている相手ならば、とりあえず、むしろこちらから相手を持ち上げて、気分良く金を頂きたいところだ。
「ありがとう、光栄だよ」
 これほど光栄そうにない返事も、声色も、態度もないだろうが。
 コーヒー片手にでは、嫌みにしか聞こえまい。「この世界はある程度、そもそもが幸せになれるかどうか、あるいは何かを成し遂げられるかどうかすらも、「運命」で決定されていて、我々の努力は全て無駄なのではないかと、フカユキ、お前は考えたことがあるか?」
「いつもそう考えているよ」
 アンドロイドの寿命は、決まっているからね。 そう言うのだった。
「確か、耐久性が維持できないらしいな」
「ええ。モノによるけどね。私なんかは特例だから、遙かにアンドロイドよりは長持ちするけれど・・・・・・テロメアをいくら延ばそうが、人間と違って「不老不死」とはいかない。精々数百年よ」
「昔の人間と比べれば、長いと思うがな」
「それでも、長さは関係ない。いい? 自分の意志とは関係ないところで、私たちアンドロイドは能力も、その限界も、全て決められている。能力は高くても、人間の奴隷になるために作られるアンドロイドの方が多いわ」
 これのどこに自由があるって言うの?
 むしろ教えて欲しいくらいだわ。
 そう言うのだった。
「それと同じだろうな。私は何一つとして、望んでいなかった。だが」
「そう産まれた。そうあった。運命、ね」
「そんなロマンチズムでは、納得行かないがな」 とはいえ、他に説明しようがない。
 産まれたときからこうだった。
 神がいるのかは知らないが、そいつらの不始末だったり、失敗から私のような人間が産まれるならば、我々の一生など、その程度だ。
「神がいるとして、運命があるとすれば、我々の一生には、どれだけ綺麗事を並べようが、意味がないのは確かだ」
 私は綺麗事が嫌いだ。
 未来へ向かう意志が大切だ。
 結果は問題ではない。
 ふざけるな。
 結果こそが全てだ。
 そして結果とは実利のことだ。
「我々人間は、その生き方で誰かに感動を与えるために生きているわけではない。しかしこの世界には確かに、その過程こそを尊び、「幸せにはなれなかったけれど、言い教訓になるね」とか、上から目線で言いたい放題する娯楽が、人類史上から続いているのは、確かなことだ」
「それって何?」
「物語だ」
 ともすれば、私の描く物語の登場人物たちに意志が宿るならば、「ふざけるな」「読者の感動なんて知るか」「俺たちはそんなことのために生きているんじゃない」と、訴えるのだろうか?
 売り上げよりも俺たちの幸せはどこへ行く。
 それは人間も同じだろうが。
「だから私は崇拝するモノが嫌いだ。そういう対象が、いまだかつて人間を貧困から救った事例は一つとしてない」
 詐欺も良いところだ。
 奇跡で人を、騙している。
「神がいるとすれば、そいは卑怯だ。救う力もないくせに、人間を作ったんだからな」
「でも、神だって意志はあるのかもよ」
「尚更だ。それこそ、子供を産んだはいいが、金のない人間の親と、変わらん」
 皆がやっているからと、案外神もそんな理由で人間を作り、育てたのかもしれない。
 迷惑な話だが。
「いずれにしても、私みたいな人間がいるんだ。神様なんてロクナものではない、その生き字引みたいなものだ。そして、そんな神が世界を率いているのだとすれば、世界が残酷なのは当然だ。おまえたちが、いや、あらゆる奴隷の嘆きも、悲痛も、貧困も、苦しみも、私が物語を描くように、売り上げ重視でやっているのだろうさ」
 悲劇は金になるからな。
 そのくせ、神様って奴は言い訳がましく、それらしい「奇跡もどき」で信者を集めるのだから、正直存在理由が分からない。
「君はそんな世界で幸せになれると思っているのかな?」
「私は何をするでもなく幸福だと、お前はさっき言ったじゃないか」
「概念的にはね。でも、実際は違うでしょ」
「当然だ」
 そんなわけがない。
 そんな屁理屈で納得できれば苦労しない。
「どうなの?」
 君は幸せになれると思っているのかな?
 そう彼女は聞いた。
 私は答えることにした。
「幸せは、手にはいるかではなく、最初から持つ側にいるかどうかだ」
 と、残酷な事実を宣告してやるのだった。





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