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邪道作家第四巻 生死は取材の為にあり 分割版その6

新規用一巻横書き記事

テーマ 非人間讃歌

ジャンル 近未来社会風刺ミステリ(心などという、鬱陶しい謎を解くという意味で)

縦書きファイル(グーグルプレイブックス対応・栞機能付き)全巻及びまとめ記事(推奨)



   8

 宣告したはいいものの、金があればそれすらも解決だ・・・・・・無論、金もやはり、持つ側にいるかどうかで、だいたい決まるのだが。
 正しい道を信じて歩けば、「いつか」報われる・・・・・・・・・・・・いつかはたどり着くと、人は言う。 いつか。
 いつだ。
 それはいつ、たどり着くんだ? 目的に邁進したところで、老後、死ぬ寸前に達成すれば満足して死ねと、つまりそういうことではないか。
 下らない。
 押しつけるな。
 信念や誇り、あるいは人間賛歌ほど、見栄えはすれども役に立たないモノは存在すまい。
 そんなことを考えていた。
 まぁ世の中そんなものだ。
 応援だけする女が卑怯なように、夢だけ見る男が逃げるように、道理だけ求めるこの世界は、どこか卑怯で理不尽なものだ。
 私は狂っていると言っていいほど、いやそれ以上にずっと、馬鹿みたいに同じ道を、道無き道を無理矢理開拓して、ここまで来た。
 だがそれも、あっさり、無駄に終わったりして「頑張ったけど駄目だったね」と、そんな、どうでもいい言葉で片づけられたりするのだろうか・・・・・・・・・・・・私には、分からなかった。いや、
 分かりたくなかった。
 分かりたくなくて、諦めきれないだけで、ここまで走ってきたのかもしれない、などと、今更ながら再確認するのだった。
 古城が見える。
 時代錯誤な欲望の城が。
 とはいえ、それは誰でも同じだろう・・・・・・世間一般の「愛」だって、自身が愛されて幸せになりたいとか、あるいは何かに奉仕することそのものが心地よいので、愛したい、という個人的で実に身勝手な欲望でしかない。
 愛ほど下らないモノはない。いや、身勝手で押しつけがましい、余裕ある人間の「娯楽」だと言えるのだろう。
 城の近くまでやってきて、そんなことを考えるのだった。まるでお姫様を助ける騎士だと思ったが、しかし愛なんてその程度のモノで、私はそんな下らないゴミを抱えて生きてはいない。
 要は助ければそれでいい。
 首から下がなかったところで、文句はあるまい・・・・・・人を助ける、という行為は恩を押しつけることが出来て、押しつけられた側は一生かどうかは知らないが、恩に着なければならないという、変なルールが人間にはあるからな。
 人を助けるのも、人の都合だ。
 人の欲望だ。
 実際、今回の私だって興味が沸くから行くわけであって、いや、そうでなくても、心の底から悪を許せないとか、そういう綺麗事で赴いたところで、結果は同じだ。
 個人的な自己満足で邪魔者を消す、ということを考えれば、ただの始末屋と変わるまい。
「電脳世界の支配者、か」
 レンガで出来た古くさい階段を上りながら、口にこぼすのだった。私からすればそんなたぐいの人間ほど、恐るるに足らん相手はいまい。
 電脳世界の歩き方どころか、移動は徒歩、趣味は読書、コーヒーを豆で挽き、テレビは見ず、執筆にはコンピュータを使わない。
 相手がどれだけの、電脳世界において超人的な存在であったところで、私に打ち勝つのは不可能も良いところだろう。それも相性だろうが。
 能力だとか、権力だとか、異能だとか才能だとか、とにかく、そういう普通の人間が畏敬を放つ相手、神だろうが悪魔だろうが、私にとっては相手にすら成らない。無論、その分普通は何とかなる相手が、私はあっさり負けたりするのだが。
「君は居場所が欲しいんじゃないのかな」
 そう言って、あの女は「君の居場所なんてないけどね」と、最後に言った。別れ際の最後と言うだけで、別に今回は死別していない。
 最近死人が多いからな。
 しかし、あの女は結局、何のために現れたのだろう・・・・・・佐々木とかいう奴は人間のハズだ。この惑星がアンドロイドを奴隷化するいけすかん惑星だったところで、あまりにも偶然すぎる気がしないでもないが。
 居場所か。
 それもまた、存在すまい。
 そも人間は認められるからそこに居場所が出来るわけで、作家個人が認められることなど無い。脚光を浴びるのはあくまでも作品だ。どれだけその作品のファンであろうが、個人として作家を調べる奴は少ないだろう。
 書き終われば過去でしかないしな。
 何より私は覆面作家なのだ。金になれば他はどうでもいい以上、目立つのは避けたいし、悪目立ちする気にもならない。
 つまりどうでもいいことだ。私個人の幸せなど所詮蟷螂の斧というか、存在し得ないモノなのだから、あれこれ考えても仕方あるまい。未だかつてあれこれ考えて上手く行った試しもない。
 問題は謎である。
 なぜここにあの女が?
 何か、あるのか。
 その天才とやらが、私の考えている以上のモノなのだろうか?
 だとすれば、尚更見なければ。
 知らなければ。
 面白いではないか。
 面白い。
 それは全てに優先できる。
 とはいえ、普通に疲れたので、私は途中で休憩を挟むことにした。色々と鞄に詰めてきたので、コーヒーを水筒で飲みながら、サンドイッチをかじることにした。
 姫様を助ける騎士とは、思えない態度だ。
 あまり助けるつもりもないのだから、ある意味物見遊山というか、ついでの感覚は否めないし、否定する気もないのだが。
「・・・・・・何だ、これは?」
 それは文字だった。
 古代文字か何かか?
 何故こんなところに・・・・・・何か今回の件と関係があるのだろうか? 私には読めないので、今回に関してはどうしようも無さそうだが。
 一息ついて、考える。
 天才、か。
 不遇の天才というのもいるのだろうが、しかしさて、どうなのだろう?
 誰でも考えるテーマだが、「もし自身が天才だったならば」と言うやつだ。考えることに意味はないかもしれないが、脳の体操くらいにはなる。 天才。
 最初から優れている。
 能力の高い、それも努力や本人の意志にすら関係が無く、たまたま「高い能力」を持つ人間を、人は天才と呼ぶ。当然ながら、私にはそんな便利なモノは、なかったが。
 考える。
 負けてはいけない戦いというモノを、体験したことはあるだろうか? 私はそれに敗北し続けてきた。人生に戦いは付き物だが、私はまともに勝利した試しがない。
 だからといって、負けている人間特有の強さすら、私には与えられなかった。
 境遇すらも。
 だからといって不満を言っても金にならないがしかし、考えるだけなら楽しいものだ・・・・・・私はどんな人間になっていたのだろう? 案外、人のことを思い涙を流す、量子奇人になっていた可能性は高いだろう。
 余裕のある人間が持つ特権こそが、「人間らしさ」なのだからな。
 余裕のない、余力すらも無い私には、最初から非人間的な道しかなかったわけだが、しかしそのおかげとは思う気は一切無いが、少なくとも作家を志すことは、絶対になかったはずだ。
 バランスの悪い、理不尽な人生だ。
 これで作家として成功し、勝利しているというのなら分かるのだが、そこそこ売れて小金持ちにこそ成ったが、しかし別にそれで満たされるわけでもあるまいに。
 私を安く見すぎだ。
 惑星一つ買える位の金で、ようやくそれなりに自己満足が出来ようと言うものだ。
いずれにせよ考えるだけ意味のないことだが、しかしそう思うと笑えた。
 いや、笑えないのか?
 私は、ほんの些細な「善意」にふれていれば、作家を志すことは無かったのではないだろうか・・・・・・別にそれを気に病むつもりは全くないのだが、悪意と邪悪のオンパレードは、あまり教育衛生上、よろしくないらしい。
 私は天才でも凡才でも、どころか異端ですら無かったが、ならば、本当の所私はどこに立っているのだろう・・・・・・まぁ外側にいるのだろう。
 混ざるつもりもない。
 それで構わない。
 金にさえなれば。
 何一つ問題はあり得ない。
 今回の件もそうだと言えよう。勢い、ここまで来てしまったが、さて、どうするか・・・・・・・・・・・・ここまで来て「やはり帰る」というのは現実的に考えてかなり辛いモノがある。それならば助けるだけ助けて何か謝礼でも請求するべきだろう。作品のネタにもなるだろうしな。
 良く周りを見回すと、どうやら本当にこの辺りには古代文明でもあったらしい。まぁ、私は過去に興味を持たない作家だ。自分のこと以外は何一つとして記憶しない人間だ。だから金になりそうになったらまた思い出すとしよう。
 ふと、声がした。
「そんな所で」
 見ると、そこには威厳のある男が立っていた。壮年の、というにはやや若い。30後半だと聞いていたから、まぁそんなものだろう。
 年齢に似合わない、威厳があった。
 しかし、実年齢など分からないし、何より長生きしているだけで成長できるならば、人類史は始まってすぐに恒久的世界平和を実現しているだろう。年齢を重ねるごとに威厳を求める人間は多いが、何事においてもそうだが、求める時点で、その人間の手の内には、無いものなのだ。
 だから年齢に意味はない。
 あるのは実利だけだ・・・・・・金があれば年を取っていなかろうが「偉く」金がなければ噺にならない。それが資本主義経済という持つ側の人間、運が良かっただけの人間が、ちやほやされたくて作り上げた現代社会の実態なのだから。
「何をしている? と聞くのは無粋だったかな。どうやら食事をしているようだが」
「当然だろう。カメラマンに見えるか?」
 相手は危険だと分かっていても、口が回るのが作家という生き物だ。つまり面倒な性格と言うことだろう。
「何か用でも?」
「何、みすぼらしい食事だったのでね。如何かな・・・・・・今晩は私の住まいで、食事でもご馳走するというのは」
 もうすぐ日が暮れる、このままここにいるのは得策ではあるまい、と、白々しくも言った。
 佐々木 狢。
 こんな目立つ雰囲気の男が、そうで無いわけが無い。とすると、これはお誘いというわけだ。
 乗るとしよう。
 精々、楽しませて貰うとしよう。
「いいだろう。名前は?」
「佐々木狢」
 お互いに分かり切ったことを、わざとらしくも紹介しあって、そして腹を割って話し合うことになりそうだった。
 
 最も、私たちは二人とも、中身に何一つ入っていない、失敗作の人間だったが。

   9

 地獄のような環境でこそ、素晴らしい芸術は産まれそうなものだが、しかしそうではない。
 私ならどこでも作り出せる。
 天国にいながら地獄を想像できる。
 どちらも脳の中にあるものだ。
 私が地獄にいたのかは知らないが、しかしそうでなくてもあるいは案外あっさり「幸せ」に成ったところで、よくよく考えたら私はそれら世界における良いモノを残らず全て感じ取れないのだから地獄ではないのかという意見も聞こえないではないがしかし、素晴らしいかどうかなんて私からすればどうでもいいものであり、売り上げさえ上がれば人間は馬鹿だから有り難がるだろう。
 無論私もそうだ。
 素晴らしいかどうかなんて観念的なことを気にする人間は、そも何かを作り上げることに向いていまい。環境など些細なことだ。
 無論、金による環境を除いて、だが。
 貧乏では出来ることも出来ないとしか思えないが・・・・・・仮に素晴らしい思想が貧困の地獄、失敗の連続、敗北による屈辱から産まれるのならば、私の作品は空前絶後の傑作ではないか。
 今のところ売り上げはそこそこだが。
 私は勿論自身の作品を「人類史上の最高傑作」と自負しているが、そもそも素晴らしいかどうかなど金のある連中が決めることであり、何より個々人によって判別には差があるだろう。
 まぁどうでもいい。
 煙に巻いてみただけだ。
 問題は金である。
 そして。
「君は、人間をどう思う?」
「弱くなければ、つまらない」
「ほう」
 豪奢なテーブル越しに、佐々木の作った人並みの民族料理を食べながら、我々二人は噺を、物語を語るのだった。
 我々二人が、外から見た人間の物語を。
「強い人間が勝のは当然だ、当然すぎて涙がでる・・・・・・だが、当たり前を見て面白がる人間は、世界のどこを探しても、絶対にいない」
「成る程、君は人間賛歌が好きなようだね? しかしそれでも能力ある人間が必ず勝利するのも、この現実世界だ」
 君はこの世界がつまらないのではないかな。
 そう言うのだった。
 傷を開くように、そう言った。
「確かにな。だが、人間の描く物語は面白い」
「物語が好きで、人間は嫌いかね」
「いいや、大好きさ。私が嫌いなのは金のない状態だけだ。人間ほど愚かで、目先の欲望に身を滅ぼし、あるいは時に奇跡を起こす。執念が生む奇跡をな」
 無論、極々希な、それこそ選ばれた人間たちが行うことだから、人間の奇跡というよりも、選ばれた人間たちの奇跡と言うべきか。
「本当かね。もしそうならば、世間の民衆は希望に満ちあふれた顔を、しているはずだが」
「だろうな。この世界に希望はない、この世界に夢はない。負けるべくして負け、勝つべくして勝つのが世界だ。そこに人間の意志や執念など、介入する余地は無い」
「それの、何が面白い? 全て能力差、あるいは金銭の差、あるいは運不運で、人間の意志も執念も無視した上で、結果が出る。こんな世界の、何が楽しいというのかな」
 何も楽しくは無い。
 何一つとして。
 楽しいのは選ばれた、楽しむ権利、金や能力や幸運や、なにかしら選ばれた人間の特権だ。
「楽しくは無いね。最高に嫌な気分だ。努力は無駄で執念は無意味だ。生きることに価値は無い。一部の幸福の為に我々は生きている。だが」
 だが、それでも。
 人間の輝きに、期待を寄せるのは、悪いことなのか?
 私はそう言った。
 こんな噺など、そうそうすまい。
 聞き逃すなよ。
「お前だってそうだろう? 私と同じ、置いてけぼりを食らった人間だ。だが、もし、それが手に入ればどれだけ素晴らしいか、望むのは、それは悪いことか?」
「手には入らないだろう?」
「知っているさ。嫌と言うほど分かっている。だが眺めるくらいは、いいだろう?」
 こんな綺麗事を言い出したらお終いだ。つまりせっぱつまったってことだ。
 生き詰まったのかもしれないが。
 生きることに、停滞しただけか。
「人間はゴミだ。生きる価値など無い。害悪をまき散らし反省もせず、平気で他社を踏みにじり、殺したことに気づかない。だが、私にはそう見えてしまうのだから仕方あるまい」
 人間の輝きが。
 どうしようもなく、尊く見えるのだ。
 私は、人間など信じていないが。
「信じる価値も無い、犬のクソよりも汚らしく、存在自体が害悪だ。最近よりも質は悪い。だからこそ私は願うのだ。いつの日か、人間が人間を認め、個性を活かし、どこにでも「幸せ」のある世界をな」
「それは叶わないだろう?」 
 いっそ不思議そうに、佐々木は言った。
 当然だ。自身と同じ種類の人間が、こんなことを言うのは意外だろう。案外ただ筆ならぬ口が乗っただけかもしれないが、それはいい。
 我々の願いは、決して叶わない。
 叶ったところで、私も佐々木も、それをゴミのように捨てられる人間だ。
「叶わないな」
「なら、そこに、何の意味がある? 願うだけの願いなど、存在しないも同然だろう」
「その通りだ」
「・・・・・・ならば、何故かな?」
「仕方あるまい。私には、お前もだろうが、そう思ってしまうのだから」
 心がない。
 心ない。
 心のない、怪物。
 だからこそなればこそ、夢見ることを、止めることは出来ないのだ。
 決して叶わなくても。
 願うことを、やめられない。
 無論、私は金の方が大事だがな。
「それが偽物の、嘘っぱちの紙の上に描かれた、人の妄想から出た物語でもかね」
「確かに偽物だが、偽物であるからこそ、ああ在りたいと、願うことも、出来るだろう?」
 私はそんな殊勝な性格では無い。結果的に報われないならば意味はあるまい。紙の上の物語などに、人生は左右されまい。
 だが、そう願ってしまうのだから、仕方在るまい。私の意志は関係ないのかもしれない。
 私のような人間は。
 惹かれてしまうさだめなのか。
 当然のことではあるのだろう。無いモノを人間が欲するならば、ある種当然だろう。
「と、ここまで言っておいて何だが、勝たなければ意味はないし、実利がなければただのゴミだ。人間の意志は無意味だ。無力すぎて、一体全体何のために付いているのか、意味不明なくらいにな・・・・・・だから、そうやって読者を騙し、ありもしない希望を魅せ、それで金を徴収する」
 それが作家と言うものだ。
 私は堂々と、そう言うのだった。
 ただの開き直りかもしれないが。
「成る程な、そういう思想か」
 そういう思想だ」
「君は面白いな」
 男に誉められたところで嬉しくもない。まぁ私は誰に誉められようが、基本不愉快だが。
 上から言ってるんじゃない。
 素晴らしいかどうかは、私が決める。
「良い女の条件は三つある。一つは美人であること。一つは気だてがよいこと。そして最後は思想を持った悪人であることだ。強い思想が無ければつまらない。善人ほど中身のないモノはない。やはり悪、それも届かない場所へ手を伸ばす、巨悪でなければ、面白くない」
 とどのつまり、私の基準はそれだけだ。
 面白いか、面白くないか。
 たまたま、悪が面白いだけだ。だから私はこの世全ての悪を「面白い」と断ずるのだ。
 それこそが私だ。
 私である証だろう。
 佐々木という男は、どうも人間の在り方に戸惑っているようだった。君たちは泣いたり笑ったり怒ったり哀れんだりするが、一体、それは「どうやるのだ?」と、問うているように見えた
 まるで停止したロボットだ。
 そんな印象を受けた。
 無論。鏡写しなのだろう。私のことを化け物だの怖いだの好きかっている連中が、こんな景色を見ているのであれば、そりゃ迫害されて当然、恐怖を感じて当然という気も、しなくもない。
 だから良いって訳でもないが・・・・・・。
「ここへは何をしに来たのかな?」
「女を助けるためだよ。わかりやすいだろう?」「君に心の誤魔化しが通じないように、私にもお為ごかしは通用せんよ」
「そうか」
 とはいえ、行き当たりばったり、というか理由などつい先ほど考えたばかりだ。
 どう伝えようか。
 気分で生きているとでも言えばいいのか?
「君は、ええと」
「先生で良い。大体そう呼ばれている」
「ほう、そうなのか。恐縮の限りだ。そのような大層な人物と、会話が出来るとは光栄だな」
 相手を持ち上げて不愉快な気分にさせ、本性を暴くのは私の十八番だったが、されると存外不愉快なモノなのだな。いや、私はやはり不愉快でもないようだ。怒りなど感じない。そもそも大層な人物かどうかは、その他大勢が決めることであって、人間は人間。肩書きに騙されるような、容赦のある性格を、私はしていない。
 肩書きで人生を誤魔化したりはしない。
 だから、案外産まれて初めて、私はにたような人間と、平和的で普通の会話を、成し遂げたのかもしれなかった。
 内容は酷いものだが。
「先生、君は、どうしてここへ来た?」
「特にないな。理由もなく、なんとなく流されるままだ」
「そういう人間には、見えないな」
「そうだな、今のは嘘だ」
 というか、自分でも忘れていた。
 私はこの男に、興味を持ったのだ。
「私の間逆、それなりの人生に対する刺激のために、他の人生を破壊して回っている男がいると、そう聞いてな。始末の依頼を」
 そういえば受けていた。
 忘れていた。
「受けていてな。つまりは敵同士というわけだ」「君は、何のために私を攻撃するのかな?」
「まだ何もしていないさ。興味があったから流されるままに来てやった。他は後から考えればいい・・・・・・策を弄したところで、机上のモノであることは変わりあるまい」
「確かにな」
 同意されるとは思わなかった。
 何か実体験でもあったのか?
「しかし、成る程。君は人間をそう見ているわけだ。君は人間そのものではなく、人間の生み出すモノこそが素晴らしいと、そう言うのかな?」
「・・・・・・ふむ」
 どうだろう。
 そもそも、私は人間を見たことなんて、あったのだろうか。いや、考えるまでもない。
「私にとって大事なのは私だけだ。私意外などどうでもいい噺だ。だから言おう。「どうでもいい」ね。知ったことではない。その他大勢にかまけているほど、私の人生は暇ではない」
 いや、黄金持ちになってからは暇はあるのだがそうではなく、だ。他社の信条など、他社の心情など作品に活かせればそれでいい。
「人間が素晴らしいかだと? そりゃおもしろい奴もいるのだろうが・・・・・・全体として捉える時点で、それは違うだろう」
「確かに、人間はあくまでも、「個人」だろうからな。統計など、私らしくもなかった」
 威厳たっぷりの存在感で、歌うように言われたところで、落ち込んでいるようにはとても、見えなかったが。
「お前らしさなど知らん」
 私は拝啓描写を想像するのが苦手だ。
 作家の言葉ではないが、しかしどうでも良いことを想像するほどの、苦痛はあるまい。
「だが、なればこそ、君は気にならないのかね・・・・・・・・・・・・人間らしさ、人間の本来の在り方、人間の幸福を」
「気にならんな。私が決めることだ」
「だが欲しいとは思っている」
「私の世界には「幸福」という概念も「人間」という概念も、無い。ただ狂っているだけだ」
 幸せになれないことを自覚しながら、突き進むなど人間として破綻している。生物の在り方ではないだろう。
「つまりは弱いだけだ。私は弱い」
「だが、弱くなくては成長すまいよ、先生」
 敬意の欠片もない呼び方だった。まぁ私を敬意を込めて呼ぶ奴など、未だかつていた試しがないのだが。
「まぁ強さを肩書きで得た人種よりはマシだがな・・・・・・政治家というのは、頭の中お花畑のくせに無駄遣いだけは得意で、肩書きに酔い、偉いと思いこんで迷惑をかけ、肩書き以外に個人として何一つ成し遂げず、何の役にも立たない石ころ以下の存在でも、この世界では金さえあれば「偉い」ということになるのだから、ある意味ああいうゴミ共は、人間の見本として、わざわざ人間のゴミとして、人間の汚さ醜さ愚かしさを、体現しているのかもしれないな。そんなことを何千年も繰り返してきたというのだから、私のような弱い人間が少数派なのは当然だろう」
「その繰り返しが、人類が滅ぶまで続いていたとしたら、君はどうするね?」
「何の噺だ?」
「古い噺さ」
「いずれにせよ、人間は執念で磨き上げて、意志の力で前へ進み、己自身の作り上げた世界で唯一信頼できる「己の誇り」ですら「運不運」に左右される。古かろうが新しかろうが、「持つ側」「勝利する側」にいない私は、何を考えようが無意味そのものだ。勝てない人間は、物語に出てくるモブキャラみたいなものさ・・・・・・私はそういう側に産まれなかった。だから、

 何を考え何を成そうが

 どちらにしても同じことだ。

 無駄で無意味な役割を、消化するだけだ。精々苦しんで、自我が崩壊しないように祈るくらいしか出来ることはない。どうせ無駄なのだからな」「確かにな。能力差、運不運は、持つ側が幸福になることは義務づけられている・・・・・・そういう意味では、我々には意味はない」
「私と違って、お前は金を持っている」
「だが、それだけだ」
「それでも、私よりは良いだろうさ」
「変わらないさ」
「変わらないかな」
 その辺の奴が言ったら殺しているだろうが、しかし私と同じで人間の幸福が与えられない、持たなかった人間からすれば、そんなものだ。
「所詮世の中運不運・・・・・・私もお前も、独りの人間としてのその意志も誇りも尊厳も、何の役にも立たないゴミでしかない。我々は誰よりも人間らしく生きようとしたが、運不運の前では無意味で無価値だったのさ」
「そうか。なら、我々は」
「早めに死んでおいた方が良いのだろうな。最も我々は奴隷の立場だ。苦しむ義務はあっても、運命を変える権利も、解放されるために脱落する権利すらも、ない」
 生殺しのまま、見せ物になるだけだ。
 苦しむだけだ。
 人生は苦しむだけだ、我々にとってはそうなのだろう。生き甲斐もやりがいも本当のところどこにもなくて、金すらなくても、私はそうだ。
 いままでずっとそうだった。
 今も。
 未来も。
 苦しむために、無理矢理生かされている。
「だから考えるだけ無意味だ、と思うね」
「まぁ聞きたまえ。古い噺ではあるが、退屈はさせないだろう・・・・・・君は古代文明を信じるか?」 私は信じないが。とそう言うのだった。
 信じないくせに噺を振るとは。
 だから、
「あったら何だというのだ?」
 と催促した。
 すると、
「この世界は既に終わっているとしたら?」
 最初から、価値も意味もなく終わっているとしたら、と。
 そんな奇妙なことを、言った。
「何をするまでもなくそう思うね。作家が、素晴らしい物語、とやらが、こんなクソにも劣る最低の気分でしか、人間には思いつかないと言うならば、私の世界は終わっている。さっさとこの終わりすらも終わらせて、人並みでつまらなくてドラマがなくて意味も価値もないありふれた日常へ、埋没したいモノだな」
「君は焦がれているのかな」
「焦がれたところで、そんな気持ちがあろうがなかろうが、意味は無いだろうがな。人間の意志も信念も、結果には関与しない。誰か空の上にいるらしい「神様とやら」が、愉快だと思えば人間は幸福になれて、手を抜かれたり不愉快に感じられれば、人間は不幸、あるいは、私やお前のように、足りないことを自覚しながら、神様の不手際を押しつけられるだけだ・・・・・・だからこそこの世界は最高に面白い。人間の不幸を、不遇を、理不尽を味わう人間の悲痛を、横から眺めている分には、だがね
 
 世界には、期待するほどの価値は無い。

 人間には、魅せられるほどの価値は無い。

 だからこそ、私は人間に期待しすぎてしまうのさ。こんなものでは無いはずだ。もっと人間は、物語は、私の想像を超えて、私に、果てない景色を魅せてくれるモノなのだ、と」
 過度な期待をされるのは嫌いだが、するのは勝手という実に私らしい答えだ。どうでもいいがな・・・・・・・・・・・・期待しすぎるだけだ。期待を超えると信じているわけではない。
 信じるには値しない。
「私は古代文明の解読に勤しんでいてね」
「暇な奴だ」
「まぁ趣味みたいなものだよ。さて、解読に当たったところ、人間の文明、それも実に高度な文明が、一度は滅んでいることが判明した」
「似非科学だな。テレビの番組にでも、出るつもりなのか?」
「まさか。真義はともかくとして、だ。その文明が滅んだ理由は、どうも「自身より長生きする奴が許せない」という、権力者の欲望によって、つまりどうでもいい理由で、少なくとも一つの文明が滅んでいることが解明されたのだ。・・・・・・君はこれについて、どう思うね?」
「世界の終わりに、価値は無い」
「その通りだ。私はせめて、どれだけ人間が価値のないゴミであろうが、終わりくらいは華々しくしたくてね。もしも、だ。この世界は一度終わっていて、世界は一巡して繰り返しているどころではなく、我々は0から同じ歴史を、そうでなくても似たような歴史を繰り返し、同じ過ちをして、馬鹿の一つ覚えも出来ずに繰り返しているのだとすれば、私にはこの世界は、色あせて仕方がないのだよ」
 世界の価値を認識できない。
 それは世界に希望を感じない、ということだ。 人間らしく、生きられないと言うことだ。
 私は人間が出来ませんでした。
 そんな気分なのだろう。
 私は金が好きだが、好きなだけであって、別にそれが原因で「何を買おうかな」などとニヤニヤしながら通帳を眺める人間ではない。というか私には人並みの欲望、「何かを買いたい」という気持ちは存在し得ない。
 ブランド、という「皆が凄いと言っている」という理由だけで、それそのものに価値があると勘違いする人間、つまりゴミを価値ある素晴らしいものだと、崇拝できるほど、人間をやっていないと、そう言うべきか。
 そう言う意味では、人間らしさだの、そういう頭の悪いモノ、いや存在もしないモノに振り回されないで、良かったと言えなくもない。だからと言って、今までの人生が帳消しには、決してなりはしないのだろうが。
 わたしにとって、金は金だ。
 それで人間性がどうこうなるかと言えば、関係がないし、生きている内に楽しむために、ただ必要で役立つものだ。だからこそ、必要だ。
 金を眺めるのは楽しい。
 この金で一体何をしてやろうか? その思考こそが面白いのだ、全ての倫理観よりも、私にとっては「面白」く「金になる」ことは、全てに優先する出来事だ。
 だが、それでも、私には欲望は無い。
 持ち得ない。
 持てなかった。
 この手には、掴めなかった。
 私はそれを開き直って良しとしたが、目の前の男は違うようだ。人間らしさに、とりつかれていると言っても良いかもしれない。
「お前には、いやお前にも欲しいモノはないのか・・・・・・?」
 と、私は問うた。
 当然ながら、答えは決まっていた。
「駄目だったよ。人並みの家庭、人並みの充実感・・・・・・どれもこれも、私を満たすことは、決して有りはしなかった」 
 私は己さえ良ければどうでもよかった。
 だが自身を罪悪だと、そう感じる人間、否、非人間も、いるらしい。人間でいられないことを、存在が害悪だと断じ、振り払おうとして、まとわりつかれて、変えようとして、それでも足りないまま、つまりは私と同じだった。

 何も持ち得ないまま、それでも脇目も見ず、死体を蹴散らして、踏みつぶして、何の罪悪感もなく、己の幸福のみ、完全なる最悪な人間として、行き着くところまで行き着き、ここまで来た。

 対して、その男は何も持ち得ないままここまで来たが、それを良しとせず、脇目に倒れる死体共を「気遣うフリ」をして、死体をみることで何一つ感傷を抱けず絶望しようとしたが、絶望すら理解できず、理解できないことに憤り、自分は駄目なのだと諦めた。

 私は駄目でも前へ進んだ。
 彼は駄目なら捨てようとした。

 違いは何なのだろうか。
 きっと、この世界は同じ、破綻している人間にしか、本質的には理解できないのだろう。
 理解されようとも、思わないが。
 しようがしまいが、同じことだ。
 どうでもいい。
 金になれば。
 彼は違うのだろう。人々が「素晴らしい」と言うモノを、私は「下らない」と切り捨てた。そんなモノは見せかけのまがい物だ。思いこみの産物でしかないと。
 きっと彼は信じたのだろう。
 この世界には信じるに足るモノがあり、彼ら彼女らはそういうモノを信じているのだと。自身はそれが理解できないから外れているだけだ、と。 何ともお笑い草だ。
 なんて我々は、似たもの同士なのか。
 だからどうってこともないがな。邪魔になりそうならば消すだけだ。彼も同じ気分だろう。
 私は金が好きだが、金というのは基本的に、「どれだけの人間を地獄に落とせたか」で、手に入る金額が変わるものだ。非人間性の証と言ってもいいだろう。例外はそれこそ作家のような、0から人間に希望を魅せる、詐欺師だけだ。
 多くの人間を物語という形のない希望で、騙している・・・・・・まぁ、搾取する人間よりは、偉ぶって自分を善人か権力者だと、勘違いしている人間たちよりは、遙かにマシだろうが。
 彼は私と違い、金で、幸せである「ということにしよう」と、ある意味妥協が出来ない、頭の固い人間だったのだ。
 柔軟性に欠けると言うべきか。
 出来ませんでした、出来ませんでした、出来ませんでした、出来ませんでした、出来ませんでした、出来ませんでした、出来ませんでした、出来ませんでした・・・・・・・・・・・・私には「人間」が出来ませんでした。
 人間に成れませんでした。
 そんなところか。
 私は開き直ったが、彼は違った。自身を罪悪だと考え、うじうじと悩み続けた。いや、私よりも人間的な幸福に、向き合っただけだろうか?
「一つ聞きたい」
 どうしても、と言う程ではない。どちらかと言えば確認事項だ。
「お前は、人間をどう思う?」
「人に聞く前に、まず自分から言ったらどうかね・・・・・・そうすれば答えよう」
 やれやれ、参った。
 まさか人を始末しに来て、こんな辺境の惑星で弁論大会を開くとは、思ってはいたが、面倒なのでしたくなかった。
 私は少しも考えずに、素直に、思ったままの答えを、彼に言った。
 曰く、
「私は人間が大嫌いだ」
 と。
 彼は言った。
「私は人間が大好きだ」
 と。
 だから私は聞くことにした。
「人間に好きになる部分なんて、あるのか?」
「人間ほど愚かしく、などといったことは言うまい・・・・・・だが、これほど自分勝手で害悪をまき散らし、それでいて省みない生き物を、楽しんで見るなと言うのは、私にとってはむしろ酷だな」
「成る程な」
 そういう楽しみ方もあるのか。
 参考にしよう。
「その人間には我々二人も入っている。上から目線で彼ら彼女らだけを、そんな風に言って、観察者気取りで、構わないのか?」
「構わないさ。何があるでもなし」
「確かに」
 人間全体を卑下しようが、まぁそれはそれ、当人の勝手だろう。
 我々二人を人間と分類できるのかはかなり微妙だが、それは棚に上げておこう。
 違っても知らないしな。
 我々二人の問題でしかないのだ。
「世界がどう見えようが、どう見ようが当人の勝手な悩みでしかないしな・・・・・・問題はそれに当人が納得して、金と充実を手に出来るかだ」
「君は、本当に金が欲しいのか?」
 そんなことを聞いてきた。
 私は即答した。
「欲しいね。金を求めることに、理由など必要有るまい・・・・・・金で人生は買える」
 未だ買ってはいないのだが、まぁそういうことにしておこう。何事も単純なのが一番だ。女の善し悪しを「良い身体をしているか」そして「良い性格をしているか」さらに「良い在り方をしているか」で区切る私には、それが性に合っている。 大言壮語だが、構わない。
 大きく言うだけならば、金はかからない。
 つまり損は無いってことだ。
「そういうお前は、何故あんな女、小娘などを使おうとするんだ?」
 それは疑問だった。
 目の前の男が、才能などと言うオプションに、固執するようには、とてもではないが、見えないからだ。損案人間らしい理由で、この男が動いているとは思えない・・・・・・ふつう思いつかないような、他人から見ればどうでもいい理由で動いていることは、間違いあるまい。
 この私が言うのだ。
 説得力があるだろう。
 天才など、たかが能力力が高い、ただの人間にすない。その程度のモノに、拘泥するほど、我々非人間は暇ではないのだ。
 だから気になった。
 だが、
「私はあの小娘には興味はない」
 と断言するのだった。じゃあなんで換金拘束しているのか・・・・・・その理由が分からない。
「君とて、それは同じだろう。あの小娘を助けに来たわけでも、あるまい」
 それはその通りだったが、しかし私は知っての通り右と言われれば左を答える人間なので、
「いや、私はあの小娘を助けに来たのさ」
 と言った。
 私自身初耳だ。いや、思いつきで言ったのだから、当たり前と言えば当たり前だが。
「そうか。ではここにあるモノには、興味がないと言うことだな?」
「知らんな。お宝でもあったのか?」
 なんだそれは。
 ここにあるモノだと? 初耳だ。というか一体何があるのだろうか・・・・・・気になる。小娘、あの情報屋の女は、それを知っているのだろうか?
「ほう、そうか。てっきり知っているから来たのだと思ったが」
「前置きが長いな。さっさと説明しろ」
 敵地のど真ん中で、そんなことを言う私の口だった。いつも思うのだが、沈黙は金、雄弁は銀と言うが、それにしたって結局は両方使わなければ話が進まないのではないだろうか。
 私の場合、銀が多すぎる気もするが。
 計算の内だということにしておこう。
 言って、彼は指を鳴らしてスクリーンを出すのだった。この部屋で映画でも見るのだろうか?・・・・・・・・・・・・最近は電脳世界での利便性が多くなって、フィルムで見る映画も減ったな・・・・・・。
 時代の流れか。
「これを見たまえ」
 言って、示された先には、薄暗いスクリーンの中で、妙なモノが写っていた。
 それは。
「・・・・・・私の刀じゃないか」
 それは、普段私が散々私利私欲のために乱用している、クロウリー曰く「バランサーの武器」であるところの、幽霊の日本刀だった。
 なんでこれがここにあるんだ?
 いずれにせよ、勝手に使われたくはない。元々あの女の保有物で、別に私には何の権利もないのだがしかし、権利は大きい声で主張して押し通すのが世の常だ。偽物を使うなら、著作権の使用料を払えと言う噺だ。
 しかし、何故これがここに?
「これらは、かつて「神」と呼ばれた「人間達」が使ったものだ」
「・・・・・・つまり、お前の言う大昔の人間達、一巡前の宇宙の人間達こそが、「神」だったと?」
「少なくともテクノロジーにおいてはそうだ。彼らは世界を滅ぼすだけ滅ぼしたが、終末のテクノロジーは幾つか、世界にばらまかれた。当然のことながら、それらは「非科学的」と揶揄されるほどに、ずば抜けた戦闘力を発揮した」
「私のこの刀もか?」
 私は右の手のひらから刀を取り出し、手にとって見せた。普通の人間には見えないが、しかしこの男も持っているのだろうから、見えるはずだ。 どうでもいいがな。
 見えようが見えまいが同じことだ。本質を捉えているか否か。それが肝要なのだから。
「その通りだ。私はこれらを「コレクター」と呼んでいる」
「貴様個人の呼び方など、どうでもいい」
 大体なんだ。コレクターって。まぁ非科学的なモノほどコレクションの対象になりがちだから。あながち間違ってはいない気もするが。
 幽霊の日本刀は長いしな。
「それで・・・・・・私のコレクターでも欲しくなったか?」
「いいや、私も既に君と同じ、刀の形状のコレクターを手に入れている。だから必要はない。あの女を閉じこめているのは、天才にありがちな実に単純な理由だ」
「ほう」
 頷いてはみたが、しかし天才がこき使われる理由など多すぎて分からない。私個人がいままで散々天才を顎で使ってきた節があるので、当然だと言えるだろう。
 天才など、良いように使えばいいのだ。
 使う側に回ればいい。
 能力など不要だ。
 結局のところ、この世界は要領が良くて、大勢の人間を騙して良いように美味しい汁をすすれる人間こそを、救ってきたのだから。
 奪う側の人間が。
 幸せになってきたのだから。
 幸せを買ってきたのだから。
 どちらが正しいかは知らん。ただ、奪われる側に立つことだけは、御免被る。
「彼女を閉じこめている理由は、ここにある全ての武器、コレクターを誰にでも使えるように出来るからだよ」
「・・・・・・使えるようにして、どうするんだ?」
 素朴な疑問だった。
 目の前の人間に、野心とか支配欲だとか、そういうまっとうな理由があるとは、思えまい。
 彼はこう言った。
「別に、何も、無いさ。ただ

 その武器を皆が取り合い、争う様は

 見ていて、面白いだろう?」
 と。
 面白いから。
 実に単純な理由で、彼は世界を再度滅ぼすことを良しとするのだった。そんな下らない理由のために何人死のうが、どれだけの悲鳴が出ようが、人類全体から恨まれようが、彼は何一つとして反省も後悔も、どころか罪悪感もないだろう。
 成る程、最悪だ。
 私は鏡を見ながら、そう思うのだった。




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