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トンネルを抜けると、アリスになっていたりして・・・。

ずっと忘れていたトンネルを抜ける。

車が渋滞しているときの近道は、いつもとは違うコースが定番だったけど、
その日のタクシーの運転手さんは、もうひとつの道を選んでくれた。

にぎやかなイルミネーションの繁華街を過ぎて、すべるようにほの暗いトンネルに入る。

その場所は、母と好きな花の苗や種を買いに行くときに使っていた場所だったことを、トンネルの入り口付近で思い出した。

電車に乗っていてもそうだけど。

トンネルに入るときのあの一瞬。

少しだけ不安で、不確かな空間に対して身体が、その空気に微かに反応して緊張する感じは、好きなことなのか嫌なことなのか、わからなくなることがある。

心もとなかったはずなのに。

出口が近づくと、どこかでがっかりするような、物足りないような。

もっとあの薄暗闇が、続いてほしかったって思っている自分もいて。

心の準備がないままに入ってみると、明らかにほかの道とはちがう、ざわざわした心がふとよぎる。

これって、なんだかアリスだなって思う。

スティーヴン・ミルハウザーの『アリスは、落ちながら』という短編を、
何日か前に読んでいたせいなのかもしれない。

    (『アリスは、落ちながら』が☝に収録されています)

おなじみの、ルイス・キャロルの書いた「不思議の国のアリス」がリスペクトをもちながらリメイクされていて。

それを大好きな訳者の柴田元幸さんが、とてもリズミカルに訳されていた。

ひたすら落ちてゆく時間を、無限に引き延ばされたかのように綴られていたその世界は、言葉がそのまま飛び出してきそうなぐらいに、生き生きとしていて、うれしくなる。

そのショートショートでは、

<いつから自分が落ちつづけているのか>
わからないアリスが描かれる。

<ラズベリージャム、と書いたラベルを貼った壺がある>

<それから、レモンクッキーの缶。蓋は深緑色で、中央に楕円形の枠があり、アルバート公の色つきの肖像が収まっている>

落ちながら、落ちてゆきながら、こんなにも細やかな描写なのは、

<アリスがひどくゆっくりと落ちているので、これらの細部を一つひとつ丹念に眺めることができる。>

からだった。

📗 📘 📙 📕 📚 📗 📘 📕 ㌿ 📚 📗 📘 📕 📕 📗 

そしてほんのつかの間、タクシーが入って行った現実のトンネルも、そのまま垂直にしてしまえば、アリスが体験したような

<縦穴の薄暗い壁>

となってゆくように感じる。

その闇では、落ちてゆくことの恐怖より、快感しかなくて。

明かりの差す地上がほんとうで、落ちてゆくじぶんがゆめなのか、わからなくなっているアリス。

どっちの世界が夢なのか。

って考えだしたら切りのない、らせんの中に紛れ込んだような気分になる。

短編の中ではちゃんと現実がアリスに戻ってゆくけれど。

読み終えると、夢とうつつの境界線がゆらいでいるのを感じる。

現実が っていまタイピングしたけれど。

それはアリスにとっての現実は、もちろんわたしにとっての現実ではないし。

小説の中の架空の設定なのに、あたかも現実のように引き受けている自分がいることに気づいて。

小説を読むという行為の不思議さに、また煙に巻かれたような気分になったまま、ゆうべのトンネルを思い出す。

もしかしたら。

あの日あの時間だけにしか存在しなかった逢魔が時のトンネルだと想定してみたくなったのは、

『アリスは、落ちながら』の言葉の罠に、はまったせいだと思う。

だから誰かの手で、作り上げられた誰かのことが書いてある物語を読むことはやめられない。

それはわたしのことではないから、夢中になれるのだ。

トンネルで思い出すのは、

ユージン・スミスの写真集、『楽園への歩み』です。

noteをはじめたあの日。

暗闇しかみえていなかったのに、みんなが口にしはじめていたnote。
そのトンネルの入り口は明るいブルーの光が差していた。

その明るい場所に入ってみようと、どうして思ったのかわからない。

手をつないでトンネルのまるい穴に入ってくれる人は、誰もいなかったけれど、アリスのようにひとりで入ってみたら。

その中には、信じられないぐらいやさしい人たちがいた。
そう気づくのは入ってすぐではなくて、わたしがここにいるって声を放ってからだったけど。

そしてその中に入ってしまったら、どこが光源なのかわからないぐらいだった。初めて出会ったひとりひとりが、みんな光っていたから。

はじめのころは愚痴ばっかり書いていました。

でも、今日もわたしは、noteの街に住んで、書いて、読んで、感じて。

みなさんとおしゃべりしています。これからもこの日々が一日でも長く続きますようにと祈りながら。

今日も長いひとりごとにお付き合いいただきありがとうございました!

#聞きながら書いてみた

若旦那さんの「トンネル」です♬ どうぞお聞きくださいませ♬

    落ちてゆく時 目を閉じたら 猫の指と触れたね
     眠りから 覚めたらふたり アリスになってた 

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ゼロの紙 糸で綴る言葉のお店うわの空さんと始めました。
いつも、笑える方向を目指しています! 面白いもの書いてゆきますね😊