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焼き芋日記。

スーパーの焼き芋が大好きだ。
甘くて、ほくほくで、ねっとり、ずっしり。
最近は値段が上がっていて、さつまいもの袋を買って自宅で焼き芋にする方が圧倒的にお得なんだけど、やっぱりあの美味しさは家では再現できない。
今日とて、焼き芋を求めてスーパーへ。


だいたい、スーパーの近くまでいくと、焼き芋の鼻にそそる匂いが漂ってくる。店頭に置かれた、小さな焼き芋ショーケースから、一番大きそうなものを1本選ぶ。ずんぐりとした胴の分厚いものよりも、細身のすらっとした焼き芋の方が、切りやすくて食べやすい。(ずんぐりタイプは丸々1本食べたくなっちゃうので、我慢。)


1本買って、三等分し、毎日食後のデザートとして食べるのが日課。
ご飯を腹八分目までで抑えると、食後の1/3の焼き芋で腹が満たされる計算だ。ご飯はもちろん楽しみなのだが、焼き芋の季節になると、食後の焼き芋が楽しみでご飯を食べているような感覚にさえなる。


こどものころに、初めて焼き芋を買ってもらった時の感動は忘れられない。
私は田舎出身なので、小・中学生のころは、冬になると焼き芋屋さんが車で走っていた。「い〜しや〜きいも〜、おいも〜おいも〜おいもだよ〜」という声が家の中に響いてくる。


我が家はいつも家で焼き芋を作っていたので、焼き芋屋さんは憧れの対象だった。石焼き芋の車から漂う匂いは、家で作るときとは全然違っていたからだ。「石焼き芋買って」と母にお願いしても、「家にあるじゃん」と言われたら、確かにあるな、となってしまうので買うことはなかった。


ただ、ある日母の方から「石焼き芋買ってみようか」と言ってくれたことがある。私は嬉しくて、焼き芋屋さんが街に来るのをウキウキしながら待っていた。すると、少し遠くの方から、いつものおじさんの声が聞こえてきた。「い〜し」くらいのところで私は母を呼び出し、「早く行かなくちゃ!」と急かした。母というものは、今すぐ飛び出したいときでも、「ちょっと待ってね〜」となかなか動きが遅い。しばらく玄関で足をじたばたさせながら待っていると、家の目の前を焼き芋屋さんが通るのがわかった。私は玄関のドアを開けて、すぐさま飛び出した。焼き芋屋さんが、ちょうど我が家の横を通ろうとしているところだった。


私は人見知りだったので、車を呼び止めることはできない。
「お母さん、もう行っちゃうよ!」と母をさらに急かした。
ばたばたと片手にお財布を持った母が出てきた。家を少し通りすぎたところで焼き芋屋さんを停めて、焼き芋を二つ選んだ。
焼き芋屋さんの中の人を初めてみた。想像していたおじいちゃんではなく、少し若いお兄さんが焼き芋を売っていた。「い〜しや〜きいも〜」のおじさんの声は、ただの音声だったと初めて気がついた。
もう今年で焼き芋屋さんは最後だという話を、母とお兄さんがしていた。
もうこの街には来ないのだという。最後の最後に焼き芋を買えてよかったと思った。

あの時食べたお芋の味は、このスーパーで買ったお芋の味を似ている。
甘くて、ほくほくで、ねっとり、ずっしり。
もう焼き芋屋さんを見ることは無くなった。冬の風物詩を失った気分だ。
でも、あの味は今でも楽しむことができる。
スーパーの皆さん、焼き芋コーナーを作ってくれてありがとう。



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