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読書録

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読んだ本の感想などです。
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読書録 「生きがいについて」

神谷美恵子「生きがいについて」(みすゞ書房) 書店や図書館で手に取った本の中で心に刺さる一文を見つけた時、生きていてよかったなと感じる。 本書はそんな一冊だ。 結局、人間の心のほんとうの幸福を知っているひとは、世にときめいているひとや、いわゆる幸福な人種ではない。かえって不幸なひと、悩んでいるひと、貧しいひとのほうが、人間らしい、そぼくな心を持ち、人間の持ちうる、朽ちぬよろこびを知っていることが多いのだ。 人間の存在意義は、その利用価値や有用性によるものではない。 野

ひろく学ぶ

大学で教職についていた時、私は巣立っていく教え子たちに、このような話をしては広く学ぶことの意義を話すことにしていた。自分が進もうとしている道には関係なさそうに見える学問、否、もっと極端に、逆の方向の学問を一生懸命勉強することを勧めることにしていた。自分のやりたい学問と距離のある学問であればあるほど、後になって創造的な仕事をする上で重要な意味をもってくるからである。 (中略) 若い人たちへのこのような私の注文は、あるいは酷かもしれない、とも思う。何といっても、今の学生たちは、私

ギムレットにはまだ早い

中学生の頃、どんな本を読んでいたのか。 昨日の記事を書いた後から思い返してみるとハードボイルド小説にハマっていた時期があった。 手首に包帯をくるくる巻いて、さも能力者であるかのように振る舞う中二病を卒業した頃、 やっぱ特殊能力よりトカレフっしょ、 という現実路線(方向性は相変わらず間違えているような気がするのだが)に走ったのだと思う。 その頃、大藪春彦「野獣死すべし」や大沢在昌の「新宿鮫シリーズ」なんかを読んでは一人興奮していた。 今思えば、「モモ」を読んでいた方が

科学的直観を養うには

今日はフロンティア軌道理論でノーベル化学賞を受賞した福井謙一先生の言葉を紹介する。 数万語を費やしても一人の人間の顔を叙述し尽くすことができないのと同じように、クロッカスの花の微妙さは、叙述では竟に認識され得ないであろう。 自然とは、そういうものである。そのように底知れぬ奥深さをもっているものなのである。自然科学的な自然認識の中で科学の創造性に最も影響を与えるのが、所与性の自然認識だと私が考える理由は、ここにある。複雑かつ単純でもある自然と取っ組み合う自然科学者は、あるがま

20年というのは

中学3年生の冬だった。 ありがたいことに僕は高校の推薦枠を取れたので、高校受験のための受験勉強をしなくてよかった。 しかし推薦入試には面接が必須だったので、放課後に先生が模擬面接の練習に付き合ってくれた。 色々な面接を想定した方がよいということで、個別面接の他に集団面接やグループディスカッションのようなこともやった。 僕以外にも面接枠を獲得した数名の生徒と一緒に練習に臨んだのだが、たしか集団面接の練習で「今まで読んだ本で一番感動した本とその理由について答えてください」と

続・武士道とは何か

昨日の続き。 昨日の記事を書いている時、武士道と言えば大先輩である新渡戸稲造についても言及しないといけないよな、と感じたので概要を記載することにする。 昨年(2023/9/26)書いた「ノブレス・オリージュ」で教育者としての新渡戸について紹介したものの「武士道」については触れなかった。 新渡戸が"BUSHIDO The Soul of Japan"を英語で著したのが1899年のこと。 日本では翌年1900年に裳華房から翻刻されたという。 ベルギーのある法学者から「日本

武士道とは何か

サルトルの「実存主義とは何か」を意識したタイトル。 余談だが、「実存主義はヒューマニズムである」というのがオリジナルのタイトルだが日本語として長すぎると判断され改題された。 先日、賛助会員になっている人文知応援フォーラムからニュースレターが届いた。そういえば「会員の声」に寄稿文を求められたがどうなったのだろう。 恐る恐る読み進めていくと… あった。 以前noteに投稿したものと同じ内容のものが掲載されていた。 事務局の皆様、拙文を掲載して頂き誠にありがとうございます。

続・やさしい関係

あえて本日のインスタライブの告知をタイトル前の画像に持ってくるという荒業に出た。 ひさびさに歌うのでボロボロかもしれませんが、物好きな方は是非ともご視聴くださいませ。 はい。 宣伝は終了したので今日の本題へ。 昨日(2024/8/16)の一コマ。 札幌の某ホテルにチェックインした後、かつて足しげく通った大学の書籍部へ行った。つい先日、思いがけず賞与を頂いたので(まさかもらえるとは思っていなかった)、早速本に溶かす。 村上雅人「解析力学」(飛翔社) 齊藤誠「教養としての

小説『魔の山』 と、いわゆるスクールカーストの神秘を考える

小説のここまでの大まかな展開トーマス・マン『魔の山』がようやく終盤に差し掛かってきた。1,500ページの極めて分厚い本なので、終盤だけでもほぼ400ページはある。 この作品ではここまで主人公の教育係的存在の小洒落たイタリア紳士を始めとする非常に頭脳明晰な論客が、巧みな弁論を続けてきた。彼らの終わりなき議論、討論やその他の様々な体験を通じて、主人公のハンス・カストルプは感化されてきた。 そして彼はきわめて多様なことを考えさせられながら、人間的に成長してきている。 以下、微妙

スタバの効用

俱知安町に引っ越して今のところ生活で不便なことはない。 物価は高いものの、極力無駄な買い物をしなければいいだけの話なので、かえって節約できているような気がする。 しかし、あえて言えば二つ要望がある。 ひとつは僕の食指が動く専門書や古書を取り扱っている書店がないこと。 恐らく個人経営の書店が1店舗しかないのかな。 僕が引っ越してからすぐに(2024/6/9)TAUTAYA倶知安店が閉店した。 なんてこった( ;∀;) 仕方ないのでAmazon先生でポチ買いしているが、や

朗読してみました②

前回、初めての試みとして朗読してみた。 思ったより評判が良かったので有島武郎とは別の好きな本を手に取った。 岡潔集第3巻より  「こころ」 今日も皆様にとって良い一日になりますように。 こころはどこにあるのだろう。

朗読してみました。

親しくさせて頂いているnoterさん方が朗読していたので、僕も真似して朗読してみた。 カラオケとはまた違って間のとり方やアクセントなど朗読する際に色々なことを意識するから緊張感があった。 でもある人が言っていた 平面的だった文章が立体的に立ち上がる ということを身をもって知り、言葉の豊饒性に触れることができた。 ちなみに朗読したのは有島武郎「生まれ出ずる悩み」。 Instagramに投稿した通り先日訪問したニセコ町の有島記念館で購入した書籍だ。畏れ多くも僕にとっては

Never Let Me Go

毎朝、朝食を食べながら新聞に目を通す。 さーっと眺めて気になる記事があれば食後、歯磨きをしながら精読する。 あるいは夕食時に読み返したりする。 本も新聞も電子版は苦手だ。 紙でないと内容が頭に入らない。 それに紙の新聞はめくっていると思いがけず面白い記事に出会うことがあるから新鮮だ。 さて爽やかな朝ルーティンの書き出しだが、ここから少し重くなる。 2024/6/19の日本経済新聞一面に驚愕した。 それは難病治療のために体外受精で「救世主きょうだい」と呼ばれる弟か妹を誕

貴方に、ありがとう。

こんなことを書くのは少々気後れするけれど、書かなければ届かない。 いつも個人的な感想を書いてばかりいるが、それはモノローグだから過去のあるいは未来の自分自身に向けて書いている。 だけど今日は、ある人に向けて伝えたい。 東京に出発する前、宅急便で一冊の本が届きました。 村井静「花」 ふわふわと浮遊するようなクラゲの写真の表紙を眺めていたら、ひと月ほど前に見たオバケのイラストを思い出しました。 転職活動や北海道への引っ越し準備など慌ただしい日常の中、以前に注文したこと