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加速主義

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2023年9月の記事一覧

安酸敏眞『人文学概論』読んだ

安酸敏眞『人文学概論』読んだ

いやあこれは良い本だった。

大学の人文系の先生である著者が、教養の授業を基に編纂したもの。巻末の文献リストもたしかにすげい。

大学から教養が消えて専門学校のようになっていく時代に、人文学とは、人文主義とはを語りかける内容である。

もちろんパンのための学問も大事なのだが、それだけでいいとは思わない。

それに法学のような実学であっても背景にはギリシャに始まり、途中でヘブライズムが合流したような

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鈴木祐『YOUR TIME』読んだ

鈴木祐『YOUR TIME』読んだ

また意識高いシリーズ。これもかなり良い。さる超有名なインフルエンサーがおすすめしており、そのときたまたまAudible版が無料だったので聴いてみたのだ。

そしたら非常に良かったので電子書籍を購入したというわけである。

本書はタイトルからもわかるとおり時間管理を主題としている。しかし、世に流布する時間術はほとんど無効であるという不都合な事実からお話は始まるのだ。

著者は文献マニアであり、時間術

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鈴木健『なめらかな社会とその敵 ──PICSY・分人民主主義・構成的社会契約論』読んだ

鈴木健『なめらかな社会とその敵 ──PICSY・分人民主主義・構成的社会契約論』読んだ

やっと読んだ。

民主主義の未来について語るときしばしば引用されるのが本書である。初出は2013年だが、今年に文庫版が出た。10年間の変化を踏まえた補論も付されておりお得感満載。

そもそもなめらかってどういうことかというと、カール・シュミット的な友と敵に分断されていないことである。たいていの人とそこそこ仲良くできるし、ほどほどに対立するのが人間というものだが、国境とか国籍とか壁ができると、ゼロイ

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中根千枝『タテ社会の人間関係』読んだ

中根千枝『タテ社会の人間関係』読んだ

連日の、これだから日本はダメなんだシリーズ。

著者すでに亡くなっているが、インドやチベットなどのフィールドワークを主たる仕事とした人類学者である。どうでもいいことだが、女性初の東大教授だったらしい。

アジアでの実地調査だけでなく、西洋にも留学していたことがあって、そうした観点から日本社会を分析する著作を多数出版しており、本書はそのうちで最も有名なものである。

以下備忘録。

人間関係や共同体

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山本七平『一下級将校の見た帝国陸軍』読んだ

山本七平『一下級将校の見た帝国陸軍』読んだ

これだから日本は駄目なんだシリーズ。

山本七平氏が陸軍に入隊してからフィリピンを転戦し終戦を迎え収容所に入れられるまでを描いたもの。

兵站が崩壊し、物資も糧食も圧倒的に不足する中で戦わされたのが東南アジア、南太平洋での帝国陸軍だったわけだが、なぜそんな現場無視の作戦が続いたのか、、、

そもそも名誉とか形式主義が幅を利かせていたために正確な情報を上げるインセンティブに乏しかったみたい。あるいは

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東浩紀『観光客の哲学 増補版』読んだ

東浩紀『観光客の哲学 増補版』読んだ

2017年に出版された『観光客の哲学』の増補版がでたので読んだ。

世界がナショナリズムとグローバリズムに分断されている現状において、観光客こそが永遠平和や世界市民への道になるというのが本論。たんなる概念の提示ではなくて、著者はチェルノブイリ原発跡地へのツアーを実現しているし、福島原発のツーリズムを真面目に企画したこともある。

増補版では、家族についての論考が追加されており、先日出版された『訂正

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