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旅とプロレスから「普遍性」を学べる一冊

↑は全日本プロレス・TAJIRI選手のnoteです。この記事がキッカケで、昨年購入した「プロレス深夜特急」をもう一度開きました。

よく名著はスルメにたとえられます。噛めば噛むほど味が出るから。ただ本書に関しては、私はむしろ「甘さ・コク・辛さ」と味が三段階に変わる淡路島カレーに近いと考えています。

前回読んだ時は、どうやら最初の「甘さ」の時点で感激してしまい、せっかくの「コク」と「辛さ」を味わうことを忘れていたようです。

本書における「コク」と「辛さ」とは何か? それは「ベーシックな理論の大切さ」「仕事におけるキャラクターの重要性」です。

私は書店で働いています。「誰でもできそう」とよく言われます。たしかに一定の器用さ、愛想の良さ、そして商品への愛情があれば「なんちゃって」でできなくもない。ある意味プロレスもそうですよね。

でも仕事とは何年も続けるもの。本気で生業にするなら、やはり相応の心得や理論を持たないと難しいです。たとえば平台の空いたスペースに本を積むことは誰でもできる。でもどれを外すか、の判断は一朝一夕には無理。

「これでいいや」と適当に返品することも可能です。でもそんな雑な仕事を続けたらどうなるか? 新刊なのに見当たらない、欲しい本が置いていない。当然お客さんは来てくれなくなります。

棚差しも一緒です。スカスカのところへ補充分の一冊を差すのは簡単。でも棚がパンパンの時はどうするか? 無理やり押し込めば本が傷むし、取り出しにくいと売り上げが落ちます(本当に)。何かを抜かないといけない。

ハンディタイプの機械を使い、直近の売り上げデータを参考にすることはできます。ただしデータはあくまでも過去の統計。未来を見据えないと判断を誤ります。実際私は2月ごろ、スターリンに関する本を返品しています。半年以上売れていなかったのは事実。でも社会情勢を考えたら残すべきでした。

こういった時にどうするか、という理論や約束事が実はちゃんとあります。でも体系立てて教えられる人が少なく、学ぶ意志のある者もあまりいない。この点でも「書店」と「プロレス」は似ているのかな、と本書を読んで感じました。

TAJIRI選手は海外で試合をする際、同時に「セミナー」を開催して現地のレスラーにプロレスを教えています。内容のほとんどはベーシックな理論です。客を沸かせてチケットを売ることに直接は繋がらないかもしれない。でもそれがないと早晩必ず行き詰まってしまう。「棚から何を抜くか?」「何を残すか?」の判断基準を持たない書店員のように。

海外のレスラーは皆ハングリーで意欲が違います。特に第1章に出てくるウェインは素晴らしかった。普段は若い連中を指導する立場なのに率先してセミナーに参加し、他の新人と一緒に練習するのです。自分が恥ずかしくなりました。「立場や勤続年数に甘え、学ぶことを怠っていなかったか?」と。

もうひとつ感銘を受けたのは「キャラクターを紹介するためのツールとして技を選択していく」というくだり。これを書店に当てはめると「棚のコンセプトを表現するためのツールとして本を選書していく」ことになります。

担当する棚のコンセプトを把握している書店員がどれだけいるか?

「世界史」の棚だから各国の歴史関連の本を置く。それだけなら簡単です。でも「世界史とは何か?」の答えが担当者にないと、何でもありのカオス空間と化して印象が残りません。「いまお客さんは世界史の棚でどういう本を探しているか?」「いまどういう本を紹介するべきか?」を突き詰めないと棚のキャラクターは生み出せない。

「歴史を学ぶことは未来を創るためのヒント」。今後はこれをコンセプトとし、沿う形で選書していきます。そして改めて↓を推します。

「旅」と「プロレス」に関する本から、ここまで書店業に関する教訓をいただけるとは思いませんでした。TAJIRI選手の考え方がジャンルの枠を越え、どんなビジネスにも応用可能な「普遍性」を秘めていることの証ではないでしょうか? 

プロレス好きな人もそうでない人も、書店員もそうでない人もぜひ。

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