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「人生は徒労じゃない」と信じる
興味深い本が出ました。
著者は「ひとり出版社」夏葉社の創業者・島田潤一郎さんです。
版元は「夜と霧」などで知られるみすず書房。208ページでお値段は税込2530円です。「短篇小説のような読書エッセイ37篇」とのこと。
どこからどう見ても、みすずの本だ。うれしい! pic.twitter.com/b56Cab6hbO
— 夏葉社 (@natsuhasha) April 10, 2024
簡潔で力強いデザイン。手触りが想像できます。
夏葉社の本も指に心地良い紙の質感と重さ、そして無粋な情報を排したシンプルな帯が特徴です。みすず書房のそれらにインスパイアされた部分もあるのでしょうか。
そして気になる「みすずの新刊」がもう一冊。
20世紀を代表する文豪のひとりであるフランツ・カフカの日記です。今年で没後100年とのこと。新潮社版の「決定版カフカ全集」(全12巻)の第7巻(1992年)を底本にしているようです。
570ページで税込5500円。なかなかのボリュームと価格です。ただ、これは買います(すぐには難しいけど)。なぜなら、私はカフカこそ最も己に近い書き手だと勝手に信じているから。
たとえば読者と登場人物、双方がどこへも辿り着けない「城」を読み終えたときの壮大な徒労感。作家になることを望みながら果たせず、望まぬ職に就き、父親との軋轢に悩み、無名のまま40歳で生涯を終えた彼にとって同作は人生そのものだったかもしれない。
しかし私は知っています。カフカの人生が徒労ではなかったことを。少なくとも彼の遺した文学に我が身を重ね、励まされ、おかげでどうにか現実と折り合いを付けている人間がここにひとりいるのです。
本が売れないといわれて久しいご時世。風潮や心無い声に抗う気骨を示すように重厚な名著を送り出してくれるみすず書房さんに、心から感謝します。そしてそんな素晴らしい出版社から本を出せた島田さんにも、面識はありませんがイチ書店員&本好きとして「おめでとうございます」と伝えたいです。
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