
「使命感と現実の葛藤」を学べた一冊
↓を買い、読了しました。
著者は松永弾正さん。直取引のみで流通するZINEのシリーズ第三弾です。
日本全国の本屋を巡り、話を聴き、歴史を調べて書き残す。大変なことです(平日は会社で仕事をし、休日に旅をしているとか)。今回は韓国にも足を運んでくれています。
本好き、本屋好きの方はもちろんですが、書店で働く人にも手に取ってほしい。視野が広がり、仕事や本に対する意識が変わってくるはず。
たとえば以下のくだり。
政府刊行物を取扱っている本屋はその地域で有力な店であると個人的に考えている。
私が最初に勤めた書店チェーンは、まさに国会便覧や「○○白書」を販売していました。しかも展開場所はレジのすぐ横。お問い合わせをコンスタントにいただきましたし、客注を受けたことも一再ではありません。
たまにお客さんから「○○書店さんに行けば買えると聞いたけど本当だった」とお褒めの言葉を頂戴しました。当時の私は機械的に「ありがとうございます」と返しつつ、内心は「ふうん」でした。いまなら重みを理解できます。長く地域に根付いているがゆえのブランディング。その一端を実感できたのは得難い体験です。
そのお店は、国土地理院刊行の地形図も扱っていました。
どちらもドカドカ売れる商品ではありません。客層や広さ、立地などを考慮せずに仕入れたら不良在庫と化してしまう。一方で「ここでしか買えない」がリアル書店に欠かせないのも事実だし、どこかが扱わないと困る人が出てくる。
「どこかが扱わないと困る人が出てくる」といえば教科書。松永さんも言及しています。
前々から個人的に、「教科書が電子化されきったら、町にある本屋がほとんど倒れる」と思っているのだが、ますますそうだろうと確信を深めた。
前の前の職場で、教科書の出張販売をやりました。
某高校へ赴き、教室もしくは共用スペース(春先だからまだ寒い)に細長い机を並べ、上に科目ごとに分けた大量の教科書及び副教材を積む。本は事前に送るか当日車で運び入れるか、もしくは併せ技。うろ覚えでスイマセン。
定時になると学生たちが現れ、必要なものをピックアップし、最後に設けたレジで買う。イメージとしては、オンライン化される前の大学の科目登録に近い。予めこちらで各生徒用に準備された紙袋へ本を詰め、本人が自分の名前の付いたものを買うパターンもありました。間違いがないようにチェックしつつ。
諸々をセッティングし、全学年ひとりひとりに売るだけで骨が折れる。しかも毎年のようにトラブルが勃発。最も多いのは「同じものをもう一冊ほしい」です。いきなり言われてもどうにもできないので(必要最低限の数しか入れていない)のちに学校を通して対応したはず。
体力的にしんどいし、すべて現金払いでけっこうな額に達するから神経を遣いました。生徒たちの態度にも思うところがあったりなかったり。
教科書は利益率が低く(10%程度)納品及び販売業務はかなりの重労働。でも必要とする人が確実にいて、本屋としても毎年安定した売り上げを見込める。だからやめるわけにいかない。
こういった使命感と現実の葛藤は、教科書販売や政府刊行物の話に限らず、様々な形で現場の至るところから噴出しているはず。イチ書店員として、もっとその辺りを掘り下げていきたい。
松永さん、素晴らしい本を書いていただきありがとうございます。そして言い訳をさせてください。職場で置きたいけど権限の狭い非正規雇用ゆえ、直取引はなかなか難しく。ならば自分にできることを、とnoteで紹介させていただきました。5月に出る次巻も楽しみにしています。
いいなと思ったら応援しよう!
