見出し画像

「失われた時を求めて」を巡る冒険⑬

↓を読了しました。

これまでとは違った意味で、読み進めるのがハードな巻でした。

恋人アルベルチーヌの事故死。突然の別れ。

悲しみに打ちのめされ、後悔に駆られる語り手の「私」。なぜなら、退屈だと感じていた彼女との生活こそが、自分の求めていた安らぎに満ちた日々だったと気づいたから。

一方、様々な転機を経て、彼は少しずつアルベルチーヌを忘れていく。特にヴェネツィアで一通の電報を受け取った際のリアクションに衝撃を受けました。そうなってしまうのかと。ずっと一緒に暮らしてきたのに。あんなに大切に想っていたのに。

時の積み重ねがもたらす忘却。それは生き続ける過程で人が無自覚に備える本能的な修復作用かもしれない。要不要を問うのであれば、間違いなく必要でしょう。ただ目線を向ける角度を変えたら、ある種の残酷さの象徴として映らなくもない。

この世で深く縁を結ぶことのできた人との出会いは、すべて奇跡だと思っています。ASKAさんの名曲「Girl」の歌詞をお借りするなら、どちらかが先に「雨の中の旅に出た」としても、目を閉じればいつでも会える。胸の中で生き続ける。そんな風に考えていました。

思い上がりだったかもしれない。あるいは己の人間性への買い被り。忘れてしまうのかな。きっと忘れるのでしょう。ゼロにはならないだろうし、したくもないけど。

「タフでなければ生きていけない。優しくなければ生きている資格がない」という訳文で知られる某ハードボイルド小説の一節が頭を過ぎりました。実を言うと、手元にある村上春樹さんの訳の方がより胸に染みました。興味のある方は探してみてください。

なお、全14巻を読むに当たり、ふたつのルールを設けています。

1、1冊読み終えてから次の巻を買う。
2、すべて異なる書店で購入し、各々のブックカバーをかけてもらう。

1巻はリブロ、2巻は神保町ブックセンター、3巻はタロー書房、4巻は大地屋書店、5巻は教文館、6巻は書泉ブックタワー、7巻は丸善、8巻は三省堂書店、9巻はブックファースト、10巻はくまざわ書店、11巻はジュンク堂書店、12巻は往来堂書店、そして13巻は↓で購入しました。

表参道にある「青山ブックセンター」です。

何度も紹介してきましたが、私のいちばん好きな書店です。集中力を妨げずに気分を高めてくれるBGMとアートギャラリーさながらの空間。平積みにされている本の顔触れは、一見他の大型店と似ているようで、細部へ目を凝らすと微妙に異なる。時には強気に食い違う。この世界にいながらにしてパラレルワールドを覗き込んだような驚きを堪能しました。

行くたびに、ずっと知らなかったけどこの遭遇は必然だったと頷ける名著が見つかります。表参道と青山通り(国道246号)の交差点にある「山陽堂書店」も予期せぬ一冊と出会える洒脱なお店ゆえ、お近くへお越しの際はぜひ。東京メトロで来られた方は、駅構内にある「ベーグル&ベーグル」もオススメです。

「失われた時を求めて」いよいよ残り2巻となりました。2025年も楽しんでいただけたら幸いです。

いいなと思ったら応援しよう!

Y2K☮
作家として面白い本や文章を書くことでお返し致します。大切に使わせていただきます。感謝!!!