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「本屋大賞」私が選ぶならこの一冊
「全国の書店員が選んだ一番売りたい本」というコンセプトには賛同します。でも結局は人気投票ですよね。だから毎年同じような傾向の作品が選ばれるし、良くも悪くも「話題本」や「好感度の高い作家」に偏ってしまう。
これでは「売りたい本」ではなく「売れている本」や「売れそうな本」しか選ばれない。書店員にその種の目利きが求められるのは事実ですけどね。
個人的には「一次投票の集計結果、上位10作品をノミネート」するよりも「集計結果からランダムに10冊を選び出す」システムに変えてみたい。その方が断然面白い。7位、19位、33位、78位、110位とか。少ない票しか得ていない作品の中から「埋もれた傑作」を見出し、光を当てて売り出すことも書店員の使命ではないでしょうか。
というわけで、今回私が推すのは山下澄人「月の客」です。もちろん上位10作品には入っていません。
楽しいとか感動したとかページを捲る手が止まらないとか、そういう類の本ではありません。むしろ苦しい。社会の最底辺から俗世を見上げたらこんな感じかなと打ちのめされたり、偽善の膜を剥いだ世界の正体を突きつけられて己の甘ちゃんを痛感させられたり。とにかく戸惑います。だからこそ、また読みたいと思って大切に保管している一冊。
私が読んだきっかけは、青山ブックセンターのツイッターで推されていたこと。あらすじを見て「なぜこれを推そうと思ったのか」と逆に興味を惹かれました。もし私が文芸書担当でも、この本を平積みにして仕掛けようとは考えなかったはず。売れないから。お店に申し訳ないから。
だからこそ読了して「青山ブックセンター、さすがだな」と改めて感服しました。売れないとは思うけど、もっといろいろな人に読んで欲しい。そんな使命感を掻き立てる一冊でした。そして気づいたのです。こういう感覚で選ばれた作品こそが「書店員目線で選んだ一番売りたい本」じゃないのかと。何もしなかったら絶対売れない。いい本なのに。だからこそ何とかして売りたい。
ぜひお近くの書店でチェックしてみてください。
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