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「己の意志で動く」ための一冊

これはどうなのかな。

もちろん大谷選手やダルビッシュ選手の勇姿を見られるのは嬉しい。せっかくの祭典だから、サッカーW杯のようにベストメンバーで戦ってほしい気持ちは当然あります。

しかし吉田選手や千賀選手は、来年が大事なメジャーリーグ1年目。ここで彼らの名前を出すのはちょっと迂闊です。

WBCに参加することは選手の義務ではありません。球団と結んだ契約に「国際大会を優先すべし」なんて項目は記されていないでしょう。メディアやOBが変に期待を煽って外堀を埋め、彼らが断りにくい雰囲気を醸成するのはフェアなやり方とは呼べない。自身も元・メジャーリーガーで個を貫いて生きた上原さんなら、そういうことを誰よりもわかっているはずです。

大学の国際交流サークルでも仕事でも、いわゆる「断ったら罪」の空気を作って追い込んでくるやり口を何度も体験しました。「俺がこれだけ頑張ってるんだからお前もやれ」「逃げんじゃねえぞ」みたいな。学生時代に散々嫌な思いをしたので、社会人になってからは「ムリなものはムリ」と割り切れるようになりました。

その代わり「できる」と踏んだ場合はやります。たとえば先日も人手不足の職場であり得ないシフトを組まれました。「さすがに厳しいです」と訴えれば考慮してもらえた可能性はある。でも今回はきっちり乗り越えました。

この辺りのメンタリティは、スパイ小説の傑作である柳広司「ジョーカー・ゲーム」から学んだものです。

昭和12年、結城中佐の発案で作られたスパイ養成学校「D機関」。そこで育った連中には、しばしば「軍人的」と評される思考停止に似た絶対的忠誠論や情に流される精神論は存在しません。名誉や愛国心すらも彼らを動かさない。動かすのは「自分ならこの程度のことはできなければならない」という自負心のみ。

現場の声を発信することで書店業界を変える。そんな大それた志を公言している私なら、これしきの不条理は突破できなければならない。この姿勢は「だからやる」にも「だからやらない」にも繋がります。誰かの目を気にして流されるのではなく、己の意志で主体的に動く。それを可能にするほどの知性と勇気、そして決断力を持てなくてどうするというわけです。

私などが要らぬ老婆心を働かせるまでもなく、吉田選手も千賀選手も当然わかっています。彼らの意志を100%尊重し、応援します。もし万が一気持ちが揺らぎそうになった時は「ジョーカー・ゲーム」をどうぞ。

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