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直木賞の思い出 ACT2

「村上春樹は芥川賞を獲っていない」と言うと、けっこう驚かれます。でも私はむしろ直木賞の方に「なぜこの人が受賞していないのか?」という疑問を抱くことが多いです。

たとえば伊坂幸太郎「重力ピエロ」「チルドレン」「グラスホッパー」「死神の精度」「砂漠」と五回も候補になっています。どれもページを捲る手が止まらぬ極上のエンターテインメント。チャレンジを続けつつ期待も裏切らない稀有な書き手のひとりです。なぜ獲れなかったのかいまだにわからない。

かつて阿部和重との対談の中で「伊坂幸太郎というのはミーハーみたいな感じ」と自虐的な発言をしていましたが、あるいはこの辺に謎を解くヒントが潜んでいるのでしょうか?

いまは選考を辞退しているみたいですが、ある意味で「直木賞を超えた存在」と呼べる作家のひとりかもしれません。村上春樹が芥川賞を必要としなかったように。

伊東潤も何度か候補になりましたが受賞には至っていません。「城を噛ませた男」が同じ時代小説である葉室麟「蜩ノ記」に及ばなかったのは納得できます。でも「国を蹴った男」「巨鯨の海」「王になろうとした男」が全て候補止まりだったのは「?」でした。

2016年にエントリーされた「天下人の茶」荻原浩「海の見える理髪店」とダブル受賞で行けた気がします。ただ同じ「千利休もの」としては、2009年の受賞作である山本兼一「利休にたずねよ」の方が読み応えの点で上かも。茶の湯の世界の奥深さを具体的に味わえましたから。

伊東さんの持ち味は、敗者を含めた「勝者を陰で支える存在」にスポットライトを当てること。たとえば「国を~」では今川氏真をポジティブに描いていました。ああいう小説をもっと読みたいです。

北方謙三も獲っていません。ただし彼は2000年から選考委員を務めているので仕方ない部分もあります。それがなかったら「三国志」「水滸伝」で間違いなく受賞したはず。特に「水滸伝」は全19巻なのに冗長さとは無縁。どのキャラクターも独特の匂いを纏って活き活きと躍動しており、国を建て直すという「志」に懸ける熱いドラマに喜怒哀楽を揺さぶられました。

ただ選考委員としては、横山秀夫の傑作ミステリィ「半落ち」を落選させた件が引っ掛かります。詳しい事情は知りませんが、いまは潔く間違いを認める方がむしろ賞の権威を保つことに繋がるような。。。

「ミステリィ」といえば森博嗣ですね。彼の場合、一度もエントリーすらされていません。デビュー作「すべてがFになる」の時点で受賞していても不思議ではないし、世界観の諷刺性や重厚さを考えたら「スカイ・クロラ」シリーズにも資格は十分ありますよね。なぜなのか?

どうやら主要な文芸誌に作品を発表していないことが理由だと言われているようです。エンタメ系だと「小説新潮」「小説すばる」「小説現代」「オール讀物」辺りでしょうか。

「ひと」で本屋大賞2位になった小野寺史宣(ふみのり)が直木賞候補にならないのも同じ理由でしょうか? もしそうだとしたら寂しい話です。「みつばの郵便屋さん」シリーズの温かさが大好きで全巻持っています。彼は「『読者の信頼』と『業界の評価』が最も離れている作家」のひとりだと思います。

まだまだ埋もれている人が大勢いるはず。本屋大賞と同様、「売れる本」よりも「売りたい本」をプッシュして欲しいのが正直なところ。直木賞受賞作には「優れた娯楽性」を前提とした「プラスアルファの熱い何か」を期待しています。

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