「プレゼンティズム」って知ってる? チームの生産性を上げる「健康」の基礎知識
突然ですが、質問です。
みなさんの部下や後輩、チームメンバーは、次のような状況になっていないでしょうか。
・最近なんだか元気がない
・突然、成績が下がり始めた
・業務中、眠そうに(だるそうに)している
もしかしたらその原因は「健康の問題」にあるかもしれません。
今回は「リーダーが知っておくべき健康マネジメント」をテーマにお話しします。
なぜ「健康経営」が注目されるようになったのか?
私は2005年にBody Tune-Partnersという会社を設立し、「健康を軸にした人財育成」をコンセプトに、健康経営コンサルティングを行ってきました。
20年ほど前は「健康は個人の問題で、会社が介入することではない」というスタンスの企業が圧倒的に多かったのですが、近年は「健康経営」の講演・研修のご要望が右肩上がりで増えています。
この増加の一因には、経済産業省の制度があります。経済産業省は、健康経営を「従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践すること」と定義し、基準を満たした企業を「健康経営銘柄」「健康経営優良法人」と認定しています。
この認定をとることで、また認定をとらずとも「健康経営」を実践することによって、次のようなメリットを享受できます。
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① 業績・株価の上昇
社員が健康になれば、仕事の生産性が上がって業績が良くなり、株価も上昇する傾向にあります。
② 企業のイメージアップ
会社として社員の健康増進に取り組むことで、ブラック企業でないことを自然とアピールでき、イメージアップにつながります。
③ 優秀な人材を採用できる
働きやすい職場として、優秀な人材を採用しやすくなります。
④ 離職率の低下
心身に負担のない働き方ができれば、ネガティブな離職を減らすことができます。
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「出勤しても体調不良で生産性が落ちる」が、最も無駄なコスト
もう一つ、社員の健康状態が会社に与える影響を示す資料をお見せしましょう。
まずは下の図を見てください。これは「企業の医療コスト」、すなわち「社員にかかる医療コストの内訳」を表しています。
図内のそれぞれの項目を見てみましょう。
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① 医療費・薬剤費(24%):治療のために直接的にかかる費用
② アブセンティズム(13%):病欠・欠勤の状態
③ プレゼンティズム(63%):出勤しているものの実力が十分に発揮できていない状態
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ここで注目すべきは、社員にかかる医療コストの実に6割以上を占める「③プレゼンティズム」です。
プレゼンティズムとは、「出勤しているものの、生産性が低下している状態」のこと。たとえば以下のようなイメージです。
・気持ちが塞いでいてやる気になれない
・昨晩の飲みすぎで寝不足になっている
・花粉症がひどくて業務に集中できない
・腰痛があってデスクワークがおぼつかない
・うつ傾向で正確な判断ができない
どうでしょうか。みなさん自身も経験があるのではないでしょうか。
プレゼンティズムのまま働く従業員がいたとすると、たとえば月給40万円の人なら20万、30万円分の働きしかできず、それだけ無駄なコストがかかっていることになります。
こうしたことからも、リーダーが部下の健康に目を配ることが、会社の業績アップにつながるといえるのです。
とはいえ、部下に突然「健康的な生活を送っているか?」とは聞きにくいですよね。生活習慣などプライベートなことを尋ねるわけですから、段階を踏むことが大切です。
そこでここからは、「部下の健康と向き合うためにリーダーが実践すべき4ステップ」を紹介します。
STEP1 リーダーは部下のお手本に
「ヘビースモーカーでメタボ、大酒飲み」。リーダーが生活習慣病予備軍では、健康について語っても、信憑性が薄れてしまいます。
逆に、何歳も年上の上司が健康でハツラツと仕事をしていたら説得力が生まれます。
まずは、リーダーであるあなたが部下のお手本となれるよう、健康的な生活習慣を実践しましょう。
基本は、食事、睡眠、運動の習慣を整えること。その効果を実感できれば知識と経験も蓄積され、部下に情報をシェアできます。
ちなみに、睡眠や食事については、以下の記事も参考になると思いますので、ぜひご覧ください。
STEP2 部下と信頼関係を築く
いくら本人のためとはいえ、「メタボだからダイエットしろ」「病気になるから禁煙しろ」などとデリカシーのないことを言うのはNGです。
特に病気に関することは、センシティブな話題です。親しくない間柄では話したくないでしょう。
ですから、雑談でいろいろなことを話せる信頼関係を築いておき、ふだんの何気ない会話の中で、食生活や睡眠、運動習慣の話にもさらっと触れるとよいでしょう。
ただし、部下の中には、上司とプライベートな話をすることを好まない人もいるはず。その場合は次のようなことを心がけるようにしてください。
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①人として好かれる上司になる
上司部下という関係性がなくても、「人間的に好き」と思われること。
②仕事で圧倒的な能力を見せる
仕事で「この人にはかなわない」と思わせるほどの圧倒的な実力差を見せること。
③誰よりも努力する姿を見せる
①②ができない場合は、誰よりも一生懸命に真摯に働くこと。その姿を部下はちゃんと見ています。
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ただし、どんなに信頼関係ができていようと、相手の体型に言及するのは絶対にNGです。
特に、褒め言葉のつもりで発した「痩せたね」「スタイルいいね」が相手を傷つけることもあると認識しましょう。
STEP3 部下のストレスの種類を把握する
部下の健康づくりのフォローには、フィジカル面のフォローだけでなく、メンタル面のフォローも含まれます。
人は日々さまざまなストレスにさらされています。
そのストレスを数値化したのが、1967年にアメリカの学者HolmsとRaheによって研究された「社会的再適応評価尺度」です。
この研究では、「結婚」「個人的な輝かしい成功」など、一見喜ばしく思われる出来事にもストレスポイントがついています。
結婚は相手に生活を合わせることがストレスになり、成功は他者から妬まれることがストレスになる……といったことなのでしょう。
ストレスの種類を知るだけでも、部下のメンタル状況を感じとるヒントになります。
STEP4 相手の気分を害さない「DESC法」で伝える
信頼関係があったとしても、実際に1on1などで、健康状態をヒアリングしたり、生活習慣の改善を提案したりすることは勇気がいるでしょう。
そこでおすすめの話し方が、「アサーティブコミュニケーション(アサーション)」です。
これは、自分の言いたいことを、相手の気分を害することなく、きちんと伝えるコミュニケーションスキルのこと。ここではその中の「DESC法」という伝え方を使います。
DESCは、
「Describe(表現)」
「Emotion(感情)またはExpress(説明する)」
「Suggestion(提案)」
「Consequence(結果)」
の頭文字をとったものです。この4つの段階を意識して相手に伝えます。
たとえば、頻繁に遅刻をする部下に対するコミュニケーションにおいては、DESC法を使うと次のような伝え方になります。
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① Describe:客観的に事実を表現する
例「最近、週1回のペースで遅刻をしていて、毎日疲れているように見えますね」
② Emotion(またはExpress):自分の感情や気持ちを素直に伝える
例「私は、あなたの体調が悪くなっていないか心配です。また体調管理できないあなたを見ると、今後あなたに仕事を期待できないかもしれないと思っています」
③ Suggestion:具体的に提案する
例「もしかして、睡眠不足が原因だったりしませんか。あなたの生活習慣についてちょっとお話ししませんか。原因を解決するために、私に協力できることがあるかもしれません」
④ Consequence:提案を受け入れた結果(受け入れない結果)を説明する
例「あなたの体調不良を解決できれば、遅刻を止められてみんなも安心できますし、逆に、今のままだと仕事をお願いするのが難しくなるかもしれません」
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【注意】
健康や生活習慣について話をする場合、特に「肥満」には注意が必要です。
肥満といっても生活習慣の改善によって対処できるものばかりではなく、病気や薬が原因のものもあります。
相手を傷つけることのないよう、慎重に対応しましょう。
今回は「健康経営」の観点から、リーダーに求められる「部下の健康マネジメント」について解説しました。
なかでも、
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・リーダーが率先して努力し、部下の手本となること
・部下と信頼関係を構築すること
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この2つのポイントは、健康マネジメントに限らず、どんな場面においても必要なリーダーの資質です。
「部下の健康は個人の問題」と思われがちですが、まずはリーダー自身が努力してその背中を見せることで、部下もチームも変わるのです。