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#掌編
【掌編小説】退屈な日
返信が遅いと不機嫌になり、そのわりにはわたしからメッセージを送ると早く話を終わらせたいようだった。優しいことに悩んでいながら、主導権は自分で、彼のスケジュール通りに行動しないと、長文の不平を書き連ねてきた。言葉が過ぎることもあり、自分でそれに気づいたときには、親から満足のいく愛をもらったことがない、愛しかたがわからないんだ、という言葉を使い、責任逃れをする。そのような退屈な人間だった。恋人にするよ
もっとみる【掌編小説】乙女とお呪い
江藤くんはいつもカーテンと戯れていた。一応仲の良いグループはあるものの、江藤くんは話が得意ではなく、かと言って聞き手に回れるほど、他人に関心があるわけでもなく、たまに会話から離れると、窓際のカーテンにくるくると身体を巻き付けたり、カーテンの酸っぱい匂いを嗅いだり、手のひらで叩いたりして遊んでいた。わたしは、そんな江藤くんを遠目から見て、ノートに書きつけた。江藤くんと結ばれる、結ばれる、結ばれる……
もっとみる【掌編小説】神様のなみだ
私が子供の頃住んでいた街には子供用の図書館があった。今はもう普通の図書館に建てかわってしまったけど、私と健ちゃんは、学校が終わるとその図書館によく通っていた。とはいっても図書館で過ごす時間はわずかで、椅子に並んで座ってそれぞれ絵本を黙って読み終わった後、図書館裏の雑木林に行き、追いかけっこをした。初めは私の方が速くて、健ちゃんは後ろから息を切らしながらついてくるのがお定まりだったのだけど、だんだ
もっとみる【掌編小説】彼のおうち
それってビョーキじゃないの?
有ちゃんにいわれて、とっさに返す言葉がみつからなかった。あるいは、私も心のどっかでそう思っていたのかもしれない。啓くんって、ビョーキかもって。
「ちがうと思う」
はっきりと断言できず、遅れてそう返した。有ちゃんは、私の顔をみず、スマホをいじりながら、「でも、正常じゃないよねー」と眉間にしわを寄せた。
チャイムが鳴って、私たちはそれぞれ席に着く。先生がドアを開けて